夢の世界のA・B・C~-AS- Battle Chronicle~

宮代

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2話~ユメノナカのセカイ~

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夢の世界のA・B・C~-AS- Battle Chronicle~

2話~ユメノナカのセカイ~

ーーーここはーーー
眼が覚める。いや、確か明噺夢を見る機械が何とか・・・で僕は眠ったはず。
眠った状態で眼が覚めるというのはおかしな話だが、
それが『明噺夢』を見れている、ということなんだろうか。
で、これがその明噺夢ならば・・・湊の思っているように話が進むのだろう。

周囲を見渡してみると、どうやら廃工場の様に見える。
外は夜。うっすらと光る月明かりの中、目の前にはーーー

ロボットがあった。

はっきりとは見えないが、僕の見ている夢。そういう設定。
(これは、僕の中の妄想症説『-AS- Battle Chronicle』1章1話ー旅立ちーのシーンか)
自分の中の妄想小説を思い出す。

主人公の少年は民間人であるがある戦争に住んでいる町が巻き込まれ、逃げている間に廃工場を発見する。
そこに隠されていたASに乗り込み脱出を試みる。
だが工場から外に出ると、部隊からはぐれてしまった青年兵士・フランツ伍長の駆るASと出会ってしまう。
少年は類まれなる才能を発揮し、フランツのASを倒すことが出来た。
しかし、この戦いを機に少年の運命は揺らぎ始める・・・
そんな話を妄想していた。

歩いてみる。コンクリートの床を踏みしめる感触があった。
不思議だ、ここは夢の中なのに。地面を踏みしめ、重心が前に向くのがはっきりわかる。
数歩歩き、右手を伸ばしロボットの脚部と思われる部位に触れる。鉄のような冷たさは無いが、固い感触が伝わる。

(旅立ちなら、ここにあるのは・・・)

AS-01α Luht-ルフトー
湊が一番最初に設定を練りこんだロボット。
全長10m、よく見るアニメのロボットからしたら小型タイプといえる。
湊の頭の中の世界ではロボットはASと呼ばれており、ルフトは『第一世代』と呼ばれる機体である。
このASは最初期に量産された機体であり、個々のカスタマイズにより様々な状況への対応が可能。
そういう設定なのである。

「やっぱり物語の主人公ならワンオフの機体がいいんだろうけど・・・僕は量産機が好きなんだ」
誰に話しかけるでもなく、湊は辺りを見渡す。
「僕の考えた設定どおりなら・・・コクピットを開けるには・・・」
コツン、と手に棒状の何かが当たる。
その棒状の何かを手に取り、上に向ける。
「よっと」
右手親指に硬い感触があり、ぐっと押し込むと。
シュボッと音がし、吸盤のついたワイヤーが射出される。
数メートル伸びた後、ASの下腹部へ吸着される。
親指を離すと、ゆっくりと巻き戻される。

下腹部の突起に足をかけ、胸部へたどり着く。
胸部左側にハッチを開けるスイッチがある。握りこぶしでそれを叩くと、音を立て胸部の一部が開く。
するりと空間に滑り込むと、うまい具合にシートに乗り込めたようだ。
「ここのスイッチを入れて・・・エンジンに点火出来たら・・・」
フィィィィンと音がし、眼前のディスプレイに様々な情報が表示される。
全体の破損状況、エネルギー残量、武器の装備状態・残弾数・レーダー・・・。
数秒かけディスプレイ左右に情報が整理され、今度は正面に廃工場の中が映し出される。

「AP量は十分・・・装備はもともと持ってるハンドガンがあるな」
APとはA-Photonの略で、ASに使用されるガソリンのような物。
鉱石と同じように地中から産出される物質。

ロボットを構成しているのはブロックは熱に強く、加工が困難だが産出時に一定の形状を保って産出される。
それで様々な機械を作り、利用している。そのブロックを動かすことが出来るのが、APなのである。
そういう設定である。原理は本人にもわかっていない。
そしてブロックを組み立て、『それは銃である』『それは頭部である』と外部から入力する事によって、
『銃』『頭部』とそれぞれ認識されるのだ。
要は創造者の想像力次第なのである。1パーツでも『ミサイルである』と入力さえすれば『ミサイル』と認識される。
単純にパーツ数が多いと威力・防御能力は高くなると言える。

湊が今乗り込んだルフトは総パーツ数が少なく、継戦能力は決して高くは無い。
だがバランスが良く、好んで乗る者が多いという設定であった。
「よしーーールフト、起動!」
右上部にあったVRゴーグル状のデバイスを装着し、コクピット内で一人で叫ぶ。
眼前の景色はメインカメラから覗いた外の景色とリンクしているのがわかる。

湊が首を上げるとリンクしてルフトの首が上がる。左右を見渡してみる。
電気は通っていないが、工場内の様子が見てわかる。
腕を動かすデバイスは、トンファーのようにL字状になっており前腕を置きながらレバーを握る形だ。
シートの後ろ側からクレーンのように吊るされており、ある程度自由に動かすことが出来る。
レバーには大小さまざまなボタンがついており、設定によれば射撃ボタン・武器切り替えボタン等がついている様だ。
「おお・・・思っていたとおりだ。想像していた通りだ・・・!」
夢の中で涙が出てきた。余りにもリアルで余計に泣けてくる。
基本的に両脚の可動域は少なく、膝は曲がらないようになっている。
湊の技術不足が原因なのだが、それでも脚部が存在している理由は『ロボットとは人型であるべき』と
いった湊のポリシーによる物であった。
それにより移動の基本はホバー・ブースト移動。両足先のバーニアで姿勢制御を行っているようだ。

右腕部には初めからハンドガンが装備されていた。
「外に出ればすぐ戦闘になる・・・僕が勝つのは当たり前なんだけど、緊張するな」
夢の中、なので当然といえば当然なのである、が。
シャッターを開ける手段を用意していなかった。
(仕方ない、ブーストでぶち開けよう)
足先の硬いペダルをグッと踏み込む。
両足先のブースターが起動し、足底から青白い光がほとばしる。
(量産型だからそんなに速度は出ない、Gもそこまできつくないな)
夢の中のはずなのだが、重力・空気の流れ・様々な物がリアルと同様に感じられる。不思議な物だ。
ガン、と音がしシャッターが弾き飛ばされる。ちょっとした衝撃があった。湊の首が揺らされる。
(・・・?痛い。夢でも痛覚って存在するんだ)
夢で傷ついた身体って現実ではどうなるんだろうか?そんな事を思いながら周囲を見渡す。

廃工場の外は牧草地が広がっている。
東方向500m程に小高い森が広がっており、フランツのASはそこから出てくる事になっている。
各部の可動域を確認しているうち、森の木々をなぎ倒しながら件のASが現れた。

『登録の無いそこのAS!所属はどこか!』
外部スピーカーを通しフランツが叫ぶ。湊も外部スピーカーをオンにし返す。
「僕は民間人です!ここから逃げ出したいだけなんです!」
妄想の中の主人公の台詞を叫ぶ。もちろん、逃してくれるわけではないのもわかっている。
『民間人がASなど持つものか!・・・まさか、量産機に見せかけた敵の新型か!?』
フランツのASが銃を構える。基本的なライフルだ。
APをライフル弾のように射出する。俗に言うビームライフルの様な。
「こちらに敵意は無い!ただ逃がしてくれればいい!」
続けてフランツに問いかけるも一向に銃を降ろす気配はない。
(ま、そりゃそうだろうな。シナリオ通りならここで)

再度ペダルを踏み込む。フランツ機の右方向へ回り込むようにブーストを吹かす。
『!?やる気か!』
カァン!とライフルが高い音を発する。
メインカメラからの画像を確認するとやや前方下方の地面に穴が開いているのがわかる。
『次は威嚇では済まされない!貴様を鹵獲し持ち帰る!』
尚もブーストを吹かし続ける。
カァン!カァン!
続けざまの射撃。ロックオンからの射撃が正確なのはいいが、正確すぎて偏差射撃の体をなしていない。
動き続ければ容易に避けることが出来る。
『くそっ、なぜ当たらん!』
何度かの射撃を避けながらフランツ機に切迫する。
体当たりの距離まで近づく。右のブーストを切り左のみで半回転し背後へ回る。
(フランツはレーダーに頼りきりの新兵の設定だ、これでーーー)
タンッ!まずライフルを構えている右手を背後から撃ちぬく。
このブロックでできたロボットの手は人間のような指は無く、
1つのパーツに挟むような形で武器を保持するように出来ている。
単純なライフルなら保持機構もまた単純、銃床から攻撃を加えれば簡単に取り落としてしまう。
『なにっ!?くそっ・・・!』
さらに左ブーストを吹かし一回転。後頚部の接続部に焦点を合わせ。
タンッタンッ!

2発。
威力は必要ない、的確にパーツの接続部を狙えばいい。やや上方へ向け関節をはずすように打ち込む。
フランツ機の頭部から首への接続がはずれ、頭部が宙を舞う。
『メ、メインカメラが・・・!』
フランツがガシャガシャと両腕を振り回している。
ゴーグルと直結している頭部カメラが無ければレーダーすら起動しない。
コクピット内からでは正面の狭い範囲しか見ることが出来ず、背後にいる湊を捉えることはできずにいた。
「僕は・・・僕は民間人だ。軍人のあなたをどうこうできる権限は持ち合わせていない。ただ、逃がしてくれればいい」
『そんな要求が聞けるわけ・・・』
タンッ!湊のハンドガンがフランツ機の右大腿間接を打ち抜く。バランスが崩れ、フランツ機は音を立て倒れる。
「民間人に負けました、なんて報告が出来るのか?機体から降りて自分の足で部隊と合流するんだ」
『く、くそっ・・・』
胸部ハッチが開き、フランツが脱出する。
「覚えていろ民間人!次にまみえる時があれば、必ず私が勝つ!」
フランツは生真面目なやつだ。そういう設定にした。
民間人と勝負し敗れた、なんてフランツのプライドが許さないこともわかっていた。
(ここまで自分の妄想どおりになるとは・・・いや、待てよ。明噺夢って確か)

ーーー偶然に明晰夢を見るのを待つのでなく、起きているときの行動で眠ったときにも自覚を維持できるーーー
そんなことがどこかに書いてあったような記憶がある。
今日は偶然・偶発的・半強制的に眠らされてしまった為夢の内容を最初から知ることは出来なかったが。
もし、眠る前から自分が見た夢を強く思い描いていたら。
もしかすると、見たい夢を見たい時に見ることが出来るのではないか?
もし次の機会があれば、今日はこのシナリオを見よう、明日は・・・なんてことも出来るんだろうか。
面白い発明品に出会った物だ。
だが、しかし・・・いかんせん・・・・疲れた・・・
夢の中で・・・眠るって・・・どんな気持ちなのかな・・・
夢の中の湊の意識が、疲れからか泥の様に混濁していく。深い、深い眠りの中へ・・・

ーーー現実ーーー
「あ、起きた?意外と早かったね」
眼を開けても真っ暗。だが聞いた覚えがある声がするならきっとここは現実なんだろう。
ってことはこの暗闇の正体は・・・あの炊飯器もどきか。
炊飯器もどきから頭を出し、ベッドへ端座位となり少し伸びをする。
「おはよ、湊」
花蓮だ。珠恵もいる。外の風景は特に変わってない。
「おはよう、って一体何時間寝て・・・まさか一日中」
「5分」
湊の声をさえぎり珠恵が話す。え、5分?
「5分だって?たったの?それだけでこんなに・・・体感時間は30分以上は確実に」
「こんなに?疲れたかな?ほい、お目覚めのコーヒー」
珠恵が猫のイラストの入ったカップで、目の覚める香りを差し出してくる。
「あ、あぁ。ありがとう・・・確かに疲れた・・・っていうか」
ふと、夢の中での疑問を投げかけてみる。
「夢の中でも痛みって感じる物なのか?」

「痛み?ふぅん・・・痛みか・・・ちょっとα波の受信機を調整してみるよ。
 また試したくなったら平日の放課後はここで作業してるから。良かったら寄ってよ」
「今日はもう出来ないのか?」
「連続使用はオススメできないねぇ。5分だけでも疲れが出ているようじゃ、長時間の使用は相当クると思うよ」
確かに。夢の中で1日なんて過ごしたら相当疲れが残るんだろう。
「うん、そうか。じゃあ明日もまた寄ってみるよ」
湊はかばんを持ち、情報処理準備室を後にする。
「あ、そうだ結城クン」
背後から珠恵が声をかける。
「---いい夢、見れたかな?」
「おかげさまで、楽しい機械だったよ」
振り向かず、右手を振り帰路へつく・・・

ばん。
かばんで頭を叩かれた。痛い。夢の中で頭をぶつけたより痛い。
「仲良くなるのはいいけど、置いてかないでほしいんだけど」
ごめん、森崎さん。普通に忘れてた。

また明日の夢へ。

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