49 / 71
49 心配
しおりを挟む
私の姿が見えないと離宮で騒ぎになっていた。
護衛の騎士の人は姿を見つけ「どこへ行っていたんですか!」と声を荒げた。
「ごめんなさい。バラ園があまりに素敵だったから鑑賞しているうちに時間を忘れてしまいました」
バラ園にいたと聞いた時には安堵の表情を浮かべ「無事でよかったです」と呟いた。
私の姿が見つからず、かなり怒られたのかもしれない。
彼らの立場を考えずに、一人になれたことを喜んでしまった自分が恥ずかしい。
「サラ様がいらっしゃらないので、みんな心配して探し回っていました。お茶会はとっくに終わったと聞きましたし、もう日も暮れかけていますので」
モリスさんが安心したように胸をなでおろす。
モリスさんはお茶会に参加した方々に連絡を取り、私の行方を捜してくれていたようだ。
「本当にごめんなさい。今度からは気を付けます」
黙って何時間も姿を消したことを反省した。数時間居場所が分からなくなったくらいでこんな騒ぎになるなんて思ってなかった。
「何か……あったのでしょうか、髪が」
マリアが恐る恐る尋ねる。私の髪が下ろされていることに戸惑っているようだ。
その時。
「サラ!」
バタンッ、と扉が開いてヴォルフさんが駆け込んできた。
傍まで走ってくると、そのまま私を強く抱きしめた。
******
いつの間にか人払いされて、部屋の中は私とヴォルフさんだけになっている。
ヴォルフさんは私を椅子に座らせて自分も椅子に座った。膝が当たるくらい近くまでくると、手を取ってまっすぐに私の目を見つめた。
「泣いたのか。怪我はしていないか?いったい何があった」
心配してヴォルフさんも私を探し回ってくれていたようだ。
いつもは仕事で夜中まで働いている。彼がこんなに早く離宮へ戻ってくることはない。
城の中とはいえ、広大な土地だし、たくさんの人が出入りする。事件に巻き込まれたんじゃないかと思ったのかもしれない。
「心配おかけして申し訳ありませんでした」
ちゃんと行く先を告げて自らの行動に責任を持たなければならなかった。護衛までつけてもらっているのだから。
ダリスでは誰も私の行方など気にしなかった。仕事を押し付けたい時に見当たらなければ後で嫌味を言われるくらいだった。
ここはダリスではない、ロイドだ。
私はロイドの人たちに真摯に対応しなければならない。
ヴォルフさんに今日のお茶会での出来事を話しだした。一人で考える時間が欲しかったこと、混乱した感情を整理するために時間がかかったこと説明した。
そして自分の我儘な思いも伝えた。できるだけ正直に時間をかけてゆっくりと話した。
話が終わるまでヴォルフさんは口を挟まずしっかりと聞いてくれた。
そして昨日街へ連れて行ってもらえて嬉しかったことも伝えた。「ありがとう」とお礼を言っていなかった事を謝った。
バラ園で名前も知らない男性に自分の気持ちをすべて話せたことで、憑き物がとれたように素直な思いをヴォルフさんに伝えられた。
ガゼボで大泣きしてしまったことは話したが、彼の事は素性が分からないのでヴォルフさんに心配をかけないよう話さなかった。
「サラ、俺も昨日は楽しかった。最後、喧嘩のような感じに終わってしまったから、もしかして君が城から出て行ったんじゃないかと心配した。ちゃんと戻ってきてくれてほっとした」
「まさか、黙って出て行くなんてことはしません」
ヴォルフさんは苦笑いすると私の頬を撫でた。
「そもそもソフィアって誰だ。俺の記憶にはない」
「婚約者だったと聞きました」
「婚約者候補だったの間違いだろう。あの時俺には婚約者候補が何人もいた。その中の一人だったのかもしれない」
「彼女は十年間ヴォルフさんを忘れられなかった。そう伝えてほしいと頼まれました。私はそれに腹を立ててしまいました」
ヴォルフさんは深く頷くと口を開いた。
「サラ、君は俺の事が好きだと言っている」
「え、そうなんですか!」
突然、予想外の言葉に驚く。
「君は他の女性に嫉妬して、自分の今までの態度が間違いだったと話しているんだ」
「……そうです」
「なら、君は俺の事が好きなんだ」
誰かに嫉妬したり、興奮して泣きじゃくってしまったり、自らの言動を後悔したり……この持っていきようのない不安定な感情は、全てヴォルフさんを好きだから。
彼に恋をしていたからなのか。
顔面蒼白になった。私はもう立派な大人だし婚約だってしていた。今更、誰かに恋をして心を乱すなんて。
愛だの恋だのが悪では無い。惚れた腫れたでチャラチャラした思考しかない若い令嬢達に腹を立て、嫉妬し、そのくせ羨ましいと思った。
この対極の混沌とした感情は、恋のせいなのか。
『ならば今から君もすればいい』バラ園の彼が言った言葉が頭をよぎる。
「サラ、問題ない。俺も君が好きだから」
ヴォルフさんに自分の気持ちを打ち明けられた。
どさくさに紛れての告白とはこういう時に使う言葉なのだろう。
もはや頭の中は真っ白だ完全に飛んでしまった。
どうやら私はヴォルフさんに恋をしている。そしてヴォルフさんも私を好きだという。
そしてこの案件は問題ないらしい。
頭の中が混乱してしる。仕切りなおした方がいい。
ここで、そうなんですね!相思相愛じゃないですか良かった。と喜んで終わる問題ではない。
ちゃんと考えなければならない。相手は一国の王子だ。
「その件は……一度持ち帰らせて頂きます」
私の口からやっと出てきた言葉は、まるで仕事の相手に対するようなそれだった。
護衛の騎士の人は姿を見つけ「どこへ行っていたんですか!」と声を荒げた。
「ごめんなさい。バラ園があまりに素敵だったから鑑賞しているうちに時間を忘れてしまいました」
バラ園にいたと聞いた時には安堵の表情を浮かべ「無事でよかったです」と呟いた。
私の姿が見つからず、かなり怒られたのかもしれない。
彼らの立場を考えずに、一人になれたことを喜んでしまった自分が恥ずかしい。
「サラ様がいらっしゃらないので、みんな心配して探し回っていました。お茶会はとっくに終わったと聞きましたし、もう日も暮れかけていますので」
モリスさんが安心したように胸をなでおろす。
モリスさんはお茶会に参加した方々に連絡を取り、私の行方を捜してくれていたようだ。
「本当にごめんなさい。今度からは気を付けます」
黙って何時間も姿を消したことを反省した。数時間居場所が分からなくなったくらいでこんな騒ぎになるなんて思ってなかった。
「何か……あったのでしょうか、髪が」
マリアが恐る恐る尋ねる。私の髪が下ろされていることに戸惑っているようだ。
その時。
「サラ!」
バタンッ、と扉が開いてヴォルフさんが駆け込んできた。
傍まで走ってくると、そのまま私を強く抱きしめた。
******
いつの間にか人払いされて、部屋の中は私とヴォルフさんだけになっている。
ヴォルフさんは私を椅子に座らせて自分も椅子に座った。膝が当たるくらい近くまでくると、手を取ってまっすぐに私の目を見つめた。
「泣いたのか。怪我はしていないか?いったい何があった」
心配してヴォルフさんも私を探し回ってくれていたようだ。
いつもは仕事で夜中まで働いている。彼がこんなに早く離宮へ戻ってくることはない。
城の中とはいえ、広大な土地だし、たくさんの人が出入りする。事件に巻き込まれたんじゃないかと思ったのかもしれない。
「心配おかけして申し訳ありませんでした」
ちゃんと行く先を告げて自らの行動に責任を持たなければならなかった。護衛までつけてもらっているのだから。
ダリスでは誰も私の行方など気にしなかった。仕事を押し付けたい時に見当たらなければ後で嫌味を言われるくらいだった。
ここはダリスではない、ロイドだ。
私はロイドの人たちに真摯に対応しなければならない。
ヴォルフさんに今日のお茶会での出来事を話しだした。一人で考える時間が欲しかったこと、混乱した感情を整理するために時間がかかったこと説明した。
そして自分の我儘な思いも伝えた。できるだけ正直に時間をかけてゆっくりと話した。
話が終わるまでヴォルフさんは口を挟まずしっかりと聞いてくれた。
そして昨日街へ連れて行ってもらえて嬉しかったことも伝えた。「ありがとう」とお礼を言っていなかった事を謝った。
バラ園で名前も知らない男性に自分の気持ちをすべて話せたことで、憑き物がとれたように素直な思いをヴォルフさんに伝えられた。
ガゼボで大泣きしてしまったことは話したが、彼の事は素性が分からないのでヴォルフさんに心配をかけないよう話さなかった。
「サラ、俺も昨日は楽しかった。最後、喧嘩のような感じに終わってしまったから、もしかして君が城から出て行ったんじゃないかと心配した。ちゃんと戻ってきてくれてほっとした」
「まさか、黙って出て行くなんてことはしません」
ヴォルフさんは苦笑いすると私の頬を撫でた。
「そもそもソフィアって誰だ。俺の記憶にはない」
「婚約者だったと聞きました」
「婚約者候補だったの間違いだろう。あの時俺には婚約者候補が何人もいた。その中の一人だったのかもしれない」
「彼女は十年間ヴォルフさんを忘れられなかった。そう伝えてほしいと頼まれました。私はそれに腹を立ててしまいました」
ヴォルフさんは深く頷くと口を開いた。
「サラ、君は俺の事が好きだと言っている」
「え、そうなんですか!」
突然、予想外の言葉に驚く。
「君は他の女性に嫉妬して、自分の今までの態度が間違いだったと話しているんだ」
「……そうです」
「なら、君は俺の事が好きなんだ」
誰かに嫉妬したり、興奮して泣きじゃくってしまったり、自らの言動を後悔したり……この持っていきようのない不安定な感情は、全てヴォルフさんを好きだから。
彼に恋をしていたからなのか。
顔面蒼白になった。私はもう立派な大人だし婚約だってしていた。今更、誰かに恋をして心を乱すなんて。
愛だの恋だのが悪では無い。惚れた腫れたでチャラチャラした思考しかない若い令嬢達に腹を立て、嫉妬し、そのくせ羨ましいと思った。
この対極の混沌とした感情は、恋のせいなのか。
『ならば今から君もすればいい』バラ園の彼が言った言葉が頭をよぎる。
「サラ、問題ない。俺も君が好きだから」
ヴォルフさんに自分の気持ちを打ち明けられた。
どさくさに紛れての告白とはこういう時に使う言葉なのだろう。
もはや頭の中は真っ白だ完全に飛んでしまった。
どうやら私はヴォルフさんに恋をしている。そしてヴォルフさんも私を好きだという。
そしてこの案件は問題ないらしい。
頭の中が混乱してしる。仕切りなおした方がいい。
ここで、そうなんですね!相思相愛じゃないですか良かった。と喜んで終わる問題ではない。
ちゃんと考えなければならない。相手は一国の王子だ。
「その件は……一度持ち帰らせて頂きます」
私の口からやっと出てきた言葉は、まるで仕事の相手に対するようなそれだった。
応援ありがとうございます!
305
お気に入りに追加
883
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる