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15グレン

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「家を処分してもいいんだが、子供たちが休暇のときに帰る場所があった方がいいと思って。慰謝料として君に家をもらって欲しい。もちろん売りに出すなら、それでも構わない」

「あなたは何処に住むの?」

「少し田舎の方でゆっくり働きたいと思って騎士団に異動願を出した。勤務地はかなり遠くになるから、王都に家は必要ない」

「そうなのね。もしかして、離婚したから左遷されたとか?それともメリンダ様と再婚するために離れるの?」

「左遷ではなく、自分から異動願を出したんだ。それと、前にも言ったけど、メリンダとの関係は終わった。今後一切会うつもりはないよ」

俺を信用していないのだろう。彼女は訝しげに眉をひそめた。

「私、仕事で高位貴族のジュエリーも作るの。だから、知り合いの貴族も多いの」

「……」

フレアは何が言いたいのだろう。俺は言葉につまる。

「メリンダ様の噂はよく耳に入るわ。貴方が男爵家の離れで、逢瀬を繰り返していることもラングレー伯爵夫人から聞いているの。男爵家の夫人によくお茶に呼ばれるそうなの」

「見られていたのか。すまなかった。また君を傷つけたな」

もうこれ以上の失態はないかと思っていたけど、まだ下はあるんだなと思った。
それを聞いて我慢していたフレアはつらかっただろう。
何処までも最低な夫だった。

「ラングレー夫人は今回の件で、私に対しての慰謝料をドワン男爵に請求するわ。辺境伯との結婚を駄目にしたくないのなら、男爵は素直に支払うでしょう。私は彼女の不倫を口外しない代わりに、男爵から500万ゴールド慰謝料を支払ってもらう。10年間の不貞だから、妥当な金額だそうよ。立場が上の伯爵から話してもらうから、彼女は支払わないわけにはいかないでしょう」

フレアは高位貴族の夫人たちを味方につけているらしい。
ラングレー夫人は伯爵夫人だが実家は侯爵家だったはず。いつの間にか妻は強力な人脈を手に入れていた。

「わかった」

「ラングレー夫人が言うには、浮気する人は慰謝料を請求して反省させないと同じ事を繰り返すんですって。だからちゃんと非を認めさせろって言われたわ」

「ああ。君の思う通りにしてくれていい」

「あなたが、メリンダ様と再婚するのなら、慰謝料はあなたに請求しようと思った。けれどそうじゃないなら、彼女に支払ってもらう。それでもいいの?」

「ああ。かまわない」

俺がすんなりメリンダへの慰謝料請求を認めた事にフレアは驚いているようだった。

「あなたは、家も財産も失うけど……本当にそれでいいの?」

「いや、もう。十分だ……俺は、甘かったよ。騎士という立場も忘れ、自分の欲に走ってしまった。この家も、金も全てフレアに渡す。もう、何もいらない。ここまで君を苦しめて、我慢させて悪かった」

俺は反省している。多くの物を失って、初めて自分の過ちに気が付いた。

「家族を失う苦しみを味わってちょうだい」

フレアは10年耐えたんだ。俺の苦しみなんて比じゃないだろう。

この先死ぬまで、自分の犯した罪を背負い、生きていく覚悟を決めている。

***

それから1週間後。

明日王都を出て新しい勤務地に向かう。

俺は家にある自分の荷物をすべて処分した。
最後に家の権利書や鍵、その他の譲渡書類を渡すためフレアに来てもらった。



「個人的な物は全て処分したはずだけど、もし俺の物が出てきたら、捨ててもらって構わない。今まで家族で使っていた物はそのままにしている。ここはもう君の家だから、後は好きにしてくれ」

「思い出のある家だったから、私としてはありがたいわ。この家をどうするかは、子供たちと相談して決めます」

「つらい思いをしながら10年も耐えて俺の妻でいてくれてありがとう。子供たちを良い子に育ててくれてありがとう」

過去にして来たこと、しなかったことを考えていた。
15年間、夫婦として過ごした時間がこの家にはあった。
この家は子供が産まれ忙しい中、家族と一緒に過ごしてきた大切な思い出の場所だった。

「愛はなくても生活はできた。私たちを養ってくれたことには感謝している。ゼノとルナのような素晴らしい子供が生まれたのはあなたがいたからよ」

愛はあった。だが、それを彼女に言ったとしてももう遅い。
言葉で何を言おうが、今までの行動が伴っていなかったのだから信じてもらえないだろう。

「フレア、子供たちの学費や生活にかかる費用はこれからも俺が支払う。けれど、君自身が生活できる収入はあるのか?」

「私も仕事をしているから大丈夫よ。心配いらない」

「今はアパートに住んでいるんだろう。一人で引っ越しはできるか?」

「引っ越すかは決めていないわ。もしそうなったとしても、荷物はそんなにないから大丈夫」

「そうだな……ここをどうしようが君の自由だ」

この家で子供たちは育ったんだ。家族として過ごした15年が消えてなくなるようで辛く感じた。

「何を心配しているの?子供二人をほとんど一人で育てたのよ。できない事なんてないわ。何かあったら近所の人も手伝ってくれるし、ここには友人もたくさんいる。子供にも休みの日に会えるから寂しくないわ」

「そうだな、いらぬ心配だったな」

「もうあなたとは他人。これからは私に連絡を取らないでほしい。子供の父親はあなたしかいないから、子供たちとは自由に会えばいいと思う。けれど、私は子供たちとの間に入らないから、直接彼らに連絡して頂戴」

「ゼノとルナには手紙を書くよ。また子供の世話は君任せになってしまうけどよろしく頼む」

「ええ」

「それと、君には幸せになって欲しい」

「……ええ。勿論そのつもりよ」

フレアが最後に見せた顔は、美しい笑顔だった。









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