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終わりだ……

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国王と大使が退出したことにより、晩餐会はお開きとなった。

この場に残されたのは、今回の晩餐の準備をし、カーレン国との外交に携わった者たちだ。

王太子殿下はその者たちを集め、周りを王室の憲兵たちに囲ませ彼らの逃げ場を封じる。
物々しい雰囲気に辺りがざわめく。

王太子殿下はゆっくりと口を開いた。

「お前たちはこの晩餐会を台無しにした。この失態は許されるものではない」

彼らはカーレン国の大使と、国王陛下の逆鱗に触れたのだ。
外交官たちはびくつきながら殿下の次の言葉を待った。

「今回の件はここにいる外交官たちの責任だ。特に、この晩餐会の指揮をとった外交大臣代理、準備を主導していたキャサリン秘書官の責任は重大だろう」

それを聞いたキャサリンは、一気に顔を赤くして殿下に訴える。

「な、何を……わたしは下っ端のただの秘書官です。職務に忠実に、精一杯努力してきました。この場を仕切っていたのは外交大臣代理です!金銭を大使の土産に渡したのも彼です。私はただ、ムンババ大使の為に豪華な食事やおもてなし……」

「いい加減にしなさい!」

もう聞いていられないと、口を出した。彼女はまだ無礼をはたらくつもりなの?
アイリスは隣の王太子殿下を見て、発言の許可を取った。

「あなたは全て間違っているわ。私は今日ムンババ様の側ですべてを聞いていました。非礼にもほどがあります。豪華な物を大使がお望みだと?大使は、贅を尽くした物を、これ見よがしに見せられることを下品だと思っていらっしゃった。あなたが準備した今までの会食で好みの物を用意されたことは一度もなかったとおっしゃっていました」

キャサリンが私を睨みつけた。

「……どうせ、あの大使の事も、あなたの体で取り込んだんでしょう!」

とんでもない発言に殿下が怒りをあらわにした。

「不敬罪だ!縛り上げろ」

殿下の命令で憲兵が動いた。
暴れるキャサリンの腕を取り、容赦なく頭を床に押し付ける。

「やめて!はなして!」

キャサリンが叫び声をあげる。誰も助けようとはしない。

憲兵たちはあっという間に手足を拘束し、キャサリンの口に猿ぐつわをかませた。
髪を振り乱しながら逃げようとするキャサリンの鳩尾を、剣の持ち手で強く打ち彼女を跪かせる。


「わ、わしは……この女が勝手に決めた事に従ったまでだ。そもそも代理として仕事をし出したのは最近で、時間がなかった。責任を取らすのなら、現外交大臣にだろう。わしらは関係ない」

外交大臣代理は、わなわなと口元を震わせながら大声を張り上げた。
あまりに自分勝手な言い分に吐き気がしてくる。

「黙れ外交大臣代理!そなたに発言を許した覚えはない」

怪訝そうに眉を寄せ、殿下は広間を見渡す。

その視線を受け、スノウが殿下の前までやって来た。

今までスノウの存在に気づいていなかったのか外交官たちは驚いた様子だった。

スノウは殿下の前で、膝を折り頭を下げた。

「私の管理が行き届かず、このような失態を犯してしまいました」

そうだそうだと外務官たちが後ろからヤジを飛ばす。

スノウはそれを無視し、続けた。

「今回の責任を取り、私はこの外交執務室の者たちを引き連れ、引責辞任いたします」

波打った海原が一斉に静まったように、皆が静止した。
引責辞任?引き連れ?

ざわざわとしだし、口汚い言葉が飛び交った。

「な、なぜわしが道連れに!」

「外交大臣が一人で責任を負えばいいでしょう!」

「そもそも今回の晩餐会の事には私は全くかかわっていない」

皆口々に好き勝手なことを言う。外交室がちゃんと機能していなかったことの表れだ。


「今回の件は、調査の上、追って処分を言い渡す。ただ、今ここに資料がある。外交執務官の適性を調査した物だ。スノウ大臣に試験を受けさせられただろう」

みな思い当たったようで、互いの顔を見合わせた。

「これによると、外交官たちの中で、職務を全うできず、またその能力にも著しく欠けている者たちが多数いる事が分かった」

「その試験は正式なものではないと聞いていた。そんな物は意味がない!」

「国際情勢は常に変化するもの、定期的な試験は必要だろう。そんな事もわかっていなったのか?」

殿下はフンと鼻で笑った。


「それにキャサリン。君の学歴詐称の件。王宮で秘書官として働いているにも関わらず、虚偽の申請を出していたことは犯罪である」

キャサリンは助けを求めるように、涙でぐしゃぐしゃになった赤い目でスノウの方を見る。

スノウは彼女を完全に無視している。

彼の表情に甘さはない。体が竦むような緊張感。

襟足の短い金髪に、青碧の双眸。
全体的に細身で筋肉質だったが今はかなり痩せてみえる。

彼は真剣に裁きを待つ大臣の顔になっていた。

スノウの決意の表情を目にし、彼女は青ざめた。




終わりだ……





殿下は居住まいを正し、威厳を込めた声色で告げる。

「キャサリン。先ほどの発言、情状酌量の余地はない。即刻、この女を城の牢へ」

王太子殿下はそう命令するとキャサリンは両腕を憲兵に捕らえられ、引きずられるようにこの場から連れ出された。


髪は乱れ泣きはらした顔は、もう王宮に勤める女性秘書官の物ではなく、なにか得体の知れない化け物のように見えた。







キャサリンの実の父、マルスタンは北の一番酷いとされる収容所に送られることが決定した。

罪を暴くための厳しい取り調べを終えた後、彼は収容所行の馬車の中で服毒死した。
同じくメイド長も、体力が限界に達し、病に侵され最期は苦しみながら牢の中で息を引き取った。


公爵家の家令達は職を失い、紹介状は出されなかった。いわくつきの公爵家の使用人が、次の職にありつくことは難しいだろう。執事やメイド長の直属として悪事に加担していた者は、財産を没収され、鉱山での強制労働が科せられた。



そしてキャサリンは……城の地下にあるジメジメした薄暗い牢屋の中で、今日も地面に置かれる粗末な食事を鉄格子越しに待っている。



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