上 下
36 / 47

大使の歓迎晩餐会

しおりを挟む

晩餐会当日は急遽ムンババ様が用意してくれたドレスで大使をエスコートする役にアイリスが選ばれた。


マリーが気合を入れて私の髪をセットしている。


「大使様はご自分の国のドレスを急ぎ準備して下さったのですね。とても上質でシックでお嬢様にお似合いですわ」

ムンババ大使が用意してくれたドレスは、美しい濃紺の上質な生地に銀の刺繍が施されたものだった。

レースなどの派手な装飾は少なく、カーレン国で産出されるオパールが胸元と袖口に縫い留められていた。

故障した馬車を思い出す。漆黒の外観は、ゴテゴテした無駄な装飾を省いたシンプルな作りだった。
カーレン国という国はドレスもしかり、見た目に惑わされず性能を重視する国なのだと思った。

「ありがとう。久しぶりにこんなドレスを着るわ」

気が引き締まった。コルセットで締め上げているが、関節の部分はゆとりを持たせた、動きを重視したドレスの作りだった。鏡に映る自分の姿を確認する。昔を思い出し背筋が伸びる。



今、スノウは最後の仕事をしに王宮へ向かっているだろう。




そう、自ら断罪されるために。









スノウは先日、私たちの茶会という会議に参加した。
というより王太子殿下に呼ばれていたようだった。


スノウは外交執務室で働いている執務官たちに対して、必要なテストを受けさせていた。

そもそも王宮で事務官として働くためには厳しい試験を突破しなければならない。中には爵位を笠に着てあまり重要ではないポストに仕事をもらえる者もいたが、そういう人は人望がなく出世しない者が多かった。

スノウが皆に受けさせたテストは、古くからいる外交官が職務に見合った知識を有しているかどうかを測るためのものだった。何十年も前に当時の外交官の試験を突破したからと言ってその知識が今も通用するわけではない。
新しい外交に関しての知識が重要だ。

スノウはその成績により、年齢に関係なく国際情勢などに意欲的に取り組める職員を振り分けようとしていたのだ。


その結果と、今後外交室で働けるだけの知識と意欲のある者を抜粋して王太子殿下へまとめた資料を渡したのだった。
それにより、外交職に対しての自分の仕事量も抑えられ、公爵家に帰る時間も増やせると思っていた。
その為に必死に仕事をしていたつもりだった。

けれど時はすでに遅かった。


結果は結果として受け止めなければならない。スノウは自身の責任を最後まで全うするつもりだった。








晩餐会の会場は王宮でも一番広い宝玉の間で行われる。


煌びやかに飾り付けられた宮殿の豪華な広間には様々な酒が用意され、高級な食材で作られた贅沢な料理が並べられた。

キャサリンはこの晩餐会に意欲をみなぎらせていた。
自らの汚点を払拭させるため、このパーティーの成功に全てをかけていた。

公爵家の事件発覚後、彼女は自分の出自を知らなかった物とし、私は関係ないと外交執務官たちに泣きついたようだ。

今回の晩餐会を取り仕切る重要な仕事を任されていたことから、処罰は先延ばしにされている状態だった。

幼いころ養子に出されたので自分の親が公爵家の執事だったとは聞かされていないと言い張った。確かに、幼過ぎて彼女に選択の余地はなかっただろう。
伯爵家は公爵家の裏金を多額に受け取っていた事実を表ざたにされ失爵させられることが決定していた。

キャサリンに残されている物はこの宮殿での地位のみだ。意地でもしがみつくだろう。


古株の外交官たちは今回の晩餐会の仕事は、スノウがいなかったから自分たちが取り仕切ったと成果を横取りするつもりらしい。キャサリンの事は利用して最後は切り捨てるのかもしれない。

今日の晩餐会は、高位貴族たちは勿論、王太子や国王も参加する。

贅を尽くした絢爛豪華なその催しにはかなりの予算が割かれただろう。



そして今、ムンババ大使、カーレン国を歓迎する晩餐会の幕が上がった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

処理中です...