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屋根裏部屋

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ーーーースノウーーーー



離婚……だと?

不測の事態に頭が混乱する。
アイリスは何を言い出すんだ。

手のひらの汗までわかるような驚愕で二の句を継げない。


「旦那様、このような状態になるまで気が付きもしない方と共に、今後結婚生活を続けていくつもりはありません」


アイリスは感情を挟まない表情でまるで割り切ったかのようにそう告げた。

「ちょ、ちょっと待て。状況が今はまだよく分かっていない。マルスタンが、私の命令を歪曲して捉えたんだ。とにかく落ち着いてから話をしよう」

時間がない。なんとかアイリスの機嫌を直さなければならない。

「時間がないのはいつもの事でしょう」

「すまない。これからムンババ大使がこの屋敷にやってくる。君に会いに来るんだ。急に決まったことで今更変更はできない。どうか今だけ私の言うようにしてくれ。君は公爵夫人だろう」

ムンババ大使という言葉にアイリスは虚を突かれたようだった。けれど今は公爵家の夫人である事に変わりはない。
なんとしてでも気持ちを変えさせて早急に状況を変えなければならない。



「……あなたは……最低ですね」

アイリスの声がひやりとした怒りに切りかわった。

主人に対して発する言葉ではないだろう。けれど、自分も今必死なんだ、私まで同じように怒りをあらわにしては状況は悪化するだけだ。
ムンババ大使の件が済めば時間をかけてちゃんと話し合うつもりだ。


「マルスタンたちには後で厳しく罰を与える。君にこんな扱いをしておいてただでは済まさない。君につらく当たった使用人たちも教育をし直そう。約束する。とにかく服を着替えて、客を迎える準備をしてくれ」




ーーーーアイリスーーーー


この人はいったい何なんだろう。
こんな状態の妻を前に、客の相手をするように言っている。

もう、無理だわと思った。
彼に対して抱いていたイメージが音を立てて崩れていく。仮にも公爵、外交大臣。重責を担う城の重臣。それがこんなにも情けない人だったなんて。自分の知りうる言葉では言い表せないほどの絶望感に苛まれる。

階下からざわざわとした複数の足音が聞こえた。


「だ、旦那様。お客様がこちらに向かわれています!外国の大使のかたで……」

家令の者が階段を駆け上がってくる。

「な、なんでだ!客室に案内しろ!迎賓室にだ。まったくなにをやっているんだ」

スノウは掴みかかりそうな勢いで使用人を怒鳴りつける。

その時、低く通った声が響き、ムンババ大使が長いストライドで颯爽と現れた。
外出用のサーコートの下に黒のベスト。金糸の刺繍が施され、一目で上質な物だとわかる布地で作られたスラックスは長い脚と彼の威厳を最大限に引き立てている。


「これは、公爵殿。急に来てしまい随分焦っているようだな」

彼の目は、獲物を見つけた獣のように光を放つ。


「大使、このような場所ではなく。どうぞ客室に……」

頭を下げたスノウの顔色は今にも倒れそうなほど青白い。

使用人の男が私の姿をかくすように前に出る。

ムンババ大使が他人の屋敷の中を好き勝手に動き回ること等普通は考えられない。けれど彼は使用人たちの制止を強硬突破したようだ。

突然の事に驚いてしまい、粗末な服のままスカートを持ち上げてカーテシーをした。


『アイリス夫人、遅くなってしまった。すまなかった』

ムンババ大使が私に向かってカーレン語で優しく話しかけた。


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