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犯罪人
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アイリスはマリーと共に公爵家に帰って来た。
玄関から中に入ると、屋敷の者が集まっている。物々しい雰囲気が何かが起こったことを物語っていた。
執事とメイド長が私たちの姿を確認すると、使用人の男たちにマリーを捕らえるように命令した。
「な、何をするの!」
駆け寄ってきた使用人の男たちにマリーは両腕を取られて動けないように拘束された。
……!一体どういうことなの。
「何事ですか?マリーを放しなさい!」
私は驚いて男たちに強く命じる。
男たちは私を一瞥するが、マリーの拘束の手を緩めるつもりはないらしい。
不穏な空気がエントランスに立ち込める。
「説明しなさいマルスタン!誰の許可があって私のメイドを拘束しているの?いったいどういう事なの」
できるだけ威圧的に聞こえるように声を張り上げた。
「奥様、このメイドは罪を犯しました」
マルスタンは冷たい表情でニヤリと笑った。
「犯罪?」
「そうです。マリーはこの屋敷の勝手口のスペアキーを持ち出し複製し、勝手に合鍵を作りました。この子の部屋からその鍵が出てきました」
メイド長が、屋敷のメイドから何かを受け取る。
「……っ、勝手に部屋に入ったのですか!」
マリーはメイド長を睨み怒りをあらわに声をあげる。
メイド長はマリーの部屋から見つかったという鍵を私の目の前に突き出した。
間違いなく裏の勝手口の鍵だった。
くっ、私が持っておけばよかった……後悔しても遅い。
「……その鍵は私の命令によってマリーが作ったものです。彼女の意思で合鍵を作ったわけではありません」
「はぁ、なるほど。なぜ合鍵が必要だったのですか?街へ出るために必要だったのでしょうか?公爵家の夫人ともあろう人が好き勝手に屋敷の外へ出てもいいとお思いで?」
「街に何の用があったのですか、どなたか懇意にしている殿方でもいらっしゃったのかしら?忘れられない高貴なお方との密会でもしていらしたのでしょうか」
メイド長の薄い唇が弧を描き、私の方へ視線を流した
「っ!……な、なんですって!アイリス様はそんな事をされる方ではありません!不敬にもほどがあります」
マリーが取り乱した。怒りに打ち震えている。
「あなたはお黙り!下民が気やすく口を開くんじゃありません!」
メイド長は大声で怒鳴りつける。
「奥様の連れてきたメイドですから、ある程度は自由にさせていましたが、もとは施設育ちの市井で育った下賤な者らしいではないですか。そのような者が公爵家に仕えるなんてありえません」
執事はどこで調べたのかマリーの出自を知っていた。
何も言葉が出ない。
いったいなぜ急にこんな状況になってしまったんだろう。
形勢不利だ。なんとか巻き返さなければならない。
「メイド長、黙るのはあなたの方です。立場をわきまえなさい!」
私はぴしゃりと言い放った。
「な、何を偉そ……」
「黙りなさい!」
メイド長の言葉を遮る。
私はゆっくりと中心へと足を進める。
「今一度、この公爵家に仕える者たちに言っておきます」
「この公爵家で現在一番偉い者は誰ですか?そこの、あなた、ユーリだったかしら、答えなさい」
「公爵様です。当たり前でしょう」
「では、その次に偉い者は公爵夫人である私だって知っている?」
「奥様、偉いとは何ですか?そんな立場を傘に着るようなことを言ってもしょうがありませんよ」
執事のマルスタンはそう言うと鼻で笑った。
「公爵様から、奥様を屋敷の外に出すなという命令が下りました。奥様より立場が上の公爵様からです」
その言葉に相槌を打つ使用人達。
スノウが?いったいいつのこと?
「分かりますか?奥様は日常的に勝手に外へ出てしまわれます。ですからそうできないように策を考えなければなりません。もちろん外に出る手助けをしてしまうこの、コソ泥メイドは憲兵に差し出します」
「やめてっ!マリーは私の命令に従っただけだって言ってるでしょう!」
「ならば、奥様、貴方が自ら犯罪を示唆したという事で牢屋に入りますか?それはいくらなんでも外聞が悪いでしょう」
それを聞いたマリーの顔は青ざめ、許しを請うかのように必死に叫んだ。
「私はどのような処分も受け入れます!でも、アイリス様だけはっ!」
旦那様に会ったのは昼頃、それから今までの数時間の間に何があったというの。
「旦那様に会わせてください。貴方達のいう事は信用できないわ。旦那様をすぐに呼んできて」
彼が帰って来ている様子はない。
という事は仕事場から伝令を出したの?なんで急に……
この屋敷には味方はいない。頼みの綱はスノウだけ。けれど彼から命令されたと言われたらどうしようもない。
『考えるのよ、考えてアイリス……』
何とかこの状況を回避する方法を考える。
「無駄なあがきを。さぁ、マリーを連れて行きなさい。勿論証拠は揃っている。みっともなく言い逃れをしようなど考えるなよ」
「待ちなさい!分かった。わかりました。あなた達の言う通りにします。マリーは鍵を複製してしまった事により、この公爵邸を出ていってもらうわ。首にします。解雇するわ」
「ほう、自ら自分のメイドを切り捨てるのですか。なるほど、冷たい主人ですねぇ……」
うるさい。最低な男。
「この公爵家から犯罪者が出たとなれば問題になるでしょう。この屋敷を解雇して出ていかせます」
メイド長と執事は顔を見合わせた。
なにやら二人で相談し合い頷いた。
「良いでしょう。二度と公爵家へ近寄らせないと約束してください。解雇します。勿論、紹介状なんて書きません。給料も、退職金もなしです。持ってきた荷物のみを持ち、今すぐ屋敷から出ていきなさい。それが条件です」
「この屋敷の物は持ち出さないようにちゃんと見張るのよ」
メイド長はマリーの方を見ながら顎をしゃくった。
マルスタンは、さぁ、と男たちに拘束させたままマリーを連れて行くよう命じた。
「生意気に、いったい何様のつもりなのかしら。たかだか侯爵家ごときがお古の娘を差し出したくらいで偉そうに」
「くくっ、とうとう、旦那様にも見放されましたね」
使用人たちが私に聞こえるよう話し出した。
「分かっているだろうが、少しでも屋敷に近づいたり、奥様と接触しようとしたら、憲兵に突き出すからな」
まるで荷物でも扱うかのようにマリーの腕を乱暴に引きずり男たちは彼女の自室へ向かう。
「お嬢様……」
「大丈夫よマリー。私の事は心配しないで」
行く場所は分かっているでしょう。と私は唇だけ動かしてマリーに告げた。
玄関から中に入ると、屋敷の者が集まっている。物々しい雰囲気が何かが起こったことを物語っていた。
執事とメイド長が私たちの姿を確認すると、使用人の男たちにマリーを捕らえるように命令した。
「な、何をするの!」
駆け寄ってきた使用人の男たちにマリーは両腕を取られて動けないように拘束された。
……!一体どういうことなの。
「何事ですか?マリーを放しなさい!」
私は驚いて男たちに強く命じる。
男たちは私を一瞥するが、マリーの拘束の手を緩めるつもりはないらしい。
不穏な空気がエントランスに立ち込める。
「説明しなさいマルスタン!誰の許可があって私のメイドを拘束しているの?いったいどういう事なの」
できるだけ威圧的に聞こえるように声を張り上げた。
「奥様、このメイドは罪を犯しました」
マルスタンは冷たい表情でニヤリと笑った。
「犯罪?」
「そうです。マリーはこの屋敷の勝手口のスペアキーを持ち出し複製し、勝手に合鍵を作りました。この子の部屋からその鍵が出てきました」
メイド長が、屋敷のメイドから何かを受け取る。
「……っ、勝手に部屋に入ったのですか!」
マリーはメイド長を睨み怒りをあらわに声をあげる。
メイド長はマリーの部屋から見つかったという鍵を私の目の前に突き出した。
間違いなく裏の勝手口の鍵だった。
くっ、私が持っておけばよかった……後悔しても遅い。
「……その鍵は私の命令によってマリーが作ったものです。彼女の意思で合鍵を作ったわけではありません」
「はぁ、なるほど。なぜ合鍵が必要だったのですか?街へ出るために必要だったのでしょうか?公爵家の夫人ともあろう人が好き勝手に屋敷の外へ出てもいいとお思いで?」
「街に何の用があったのですか、どなたか懇意にしている殿方でもいらっしゃったのかしら?忘れられない高貴なお方との密会でもしていらしたのでしょうか」
メイド長の薄い唇が弧を描き、私の方へ視線を流した
「っ!……な、なんですって!アイリス様はそんな事をされる方ではありません!不敬にもほどがあります」
マリーが取り乱した。怒りに打ち震えている。
「あなたはお黙り!下民が気やすく口を開くんじゃありません!」
メイド長は大声で怒鳴りつける。
「奥様の連れてきたメイドですから、ある程度は自由にさせていましたが、もとは施設育ちの市井で育った下賤な者らしいではないですか。そのような者が公爵家に仕えるなんてありえません」
執事はどこで調べたのかマリーの出自を知っていた。
何も言葉が出ない。
いったいなぜ急にこんな状況になってしまったんだろう。
形勢不利だ。なんとか巻き返さなければならない。
「メイド長、黙るのはあなたの方です。立場をわきまえなさい!」
私はぴしゃりと言い放った。
「な、何を偉そ……」
「黙りなさい!」
メイド長の言葉を遮る。
私はゆっくりと中心へと足を進める。
「今一度、この公爵家に仕える者たちに言っておきます」
「この公爵家で現在一番偉い者は誰ですか?そこの、あなた、ユーリだったかしら、答えなさい」
「公爵様です。当たり前でしょう」
「では、その次に偉い者は公爵夫人である私だって知っている?」
「奥様、偉いとは何ですか?そんな立場を傘に着るようなことを言ってもしょうがありませんよ」
執事のマルスタンはそう言うと鼻で笑った。
「公爵様から、奥様を屋敷の外に出すなという命令が下りました。奥様より立場が上の公爵様からです」
その言葉に相槌を打つ使用人達。
スノウが?いったいいつのこと?
「分かりますか?奥様は日常的に勝手に外へ出てしまわれます。ですからそうできないように策を考えなければなりません。もちろん外に出る手助けをしてしまうこの、コソ泥メイドは憲兵に差し出します」
「やめてっ!マリーは私の命令に従っただけだって言ってるでしょう!」
「ならば、奥様、貴方が自ら犯罪を示唆したという事で牢屋に入りますか?それはいくらなんでも外聞が悪いでしょう」
それを聞いたマリーの顔は青ざめ、許しを請うかのように必死に叫んだ。
「私はどのような処分も受け入れます!でも、アイリス様だけはっ!」
旦那様に会ったのは昼頃、それから今までの数時間の間に何があったというの。
「旦那様に会わせてください。貴方達のいう事は信用できないわ。旦那様をすぐに呼んできて」
彼が帰って来ている様子はない。
という事は仕事場から伝令を出したの?なんで急に……
この屋敷には味方はいない。頼みの綱はスノウだけ。けれど彼から命令されたと言われたらどうしようもない。
『考えるのよ、考えてアイリス……』
何とかこの状況を回避する方法を考える。
「無駄なあがきを。さぁ、マリーを連れて行きなさい。勿論証拠は揃っている。みっともなく言い逃れをしようなど考えるなよ」
「待ちなさい!分かった。わかりました。あなた達の言う通りにします。マリーは鍵を複製してしまった事により、この公爵邸を出ていってもらうわ。首にします。解雇するわ」
「ほう、自ら自分のメイドを切り捨てるのですか。なるほど、冷たい主人ですねぇ……」
うるさい。最低な男。
「この公爵家から犯罪者が出たとなれば問題になるでしょう。この屋敷を解雇して出ていかせます」
メイド長と執事は顔を見合わせた。
なにやら二人で相談し合い頷いた。
「良いでしょう。二度と公爵家へ近寄らせないと約束してください。解雇します。勿論、紹介状なんて書きません。給料も、退職金もなしです。持ってきた荷物のみを持ち、今すぐ屋敷から出ていきなさい。それが条件です」
「この屋敷の物は持ち出さないようにちゃんと見張るのよ」
メイド長はマリーの方を見ながら顎をしゃくった。
マルスタンは、さぁ、と男たちに拘束させたままマリーを連れて行くよう命じた。
「生意気に、いったい何様のつもりなのかしら。たかだか侯爵家ごときがお古の娘を差し出したくらいで偉そうに」
「くくっ、とうとう、旦那様にも見放されましたね」
使用人たちが私に聞こえるよう話し出した。
「分かっているだろうが、少しでも屋敷に近づいたり、奥様と接触しようとしたら、憲兵に突き出すからな」
まるで荷物でも扱うかのようにマリーの腕を乱暴に引きずり男たちは彼女の自室へ向かう。
「お嬢様……」
「大丈夫よマリー。私の事は心配しないで」
行く場所は分かっているでしょう。と私は唇だけ動かしてマリーに告げた。
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