【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾

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煌びやかなシャンデリアの光が大広間を照らし、貴族たちが華やかな衣装に身を包んで集まっている。招待客の笑い声や軽やかな会話が響く中、侯爵令嬢の私が注目を集めていた。

私は先日ヒグマを退治し王妃様の命を救ったと勲章を授かった。

ファーレン様が準備して下さったドレスは、ブルーの上質な生地に宝石が散りばめてあり、夜空の星のように美しかった。
私の金髪は、シャンデリアの光に照らされると、金糸のように輝き、その青い瞳は深い湖のように澄んだ色に輝いた。
肌は丁寧に手入れしてもらって、陶器のように滑らかだ。ほのかな薔薇色の頬が貞淑さを一層引き立て、皆が感嘆の声をあげた。

その横でエスコートしているのはファーレン様だ。
彼は、義足を意識させることなく堂々と立ち、微笑みを浮かべていた。彼が戦場で示した勇気と同じく、誇り高く、堂々としていた。その姿は貴族たちを驚かせ、それと共に尊敬の対象になっていた。

ファーレン様は一人一人に丁寧に挨拶をし、礼儀正しく、かつ優雅に振る舞った。
そして招待された貴族たちを、微笑みと温かい言葉で和ませた。

会場で私たちを見つけたサーシャが、突然駆け寄って来た。

「お姉様!全然お会いできませんでした。話もできませんでしたわ!酷いわ」

貴族令嬢らしからぬその振る舞いに、周囲の貴族たちは何事かと視線を向ける。

「サーシャ嬢、ここは王宮の夜会です。少し礼儀を弁えるように」

ファーレン様が、冷静にサーシャに注意を促した。

「礼儀?そのようなもの、家族ですから関係ないですわ!」

サーシャはファーレン様の言葉を全く気にせず、さらに無礼な態度を続けた。

「私、レイン様との結婚が決まったの、学院を来年には辞めることにしたんですよ。お姉様が侯爵家に少しも顔を出して下さらないから、こんな場所でしか話ができません。王家は何を考えているのでしょう」

この場で王家を悪く言うことは不敬にあたる。
誰もがサーシャに冷たい目を向けた。

それを聞いていたのか、お父様が急いで駆けつけてきた。

「大変失礼いたしました」

お父様は私たちに深々と頭を下げる。

「お父様!」

サーシャはその様子に驚いて、口を開こうとしたが、すかさずレイン様がそれを阻止した。

「サーシャ、失礼だよ。ここはそのようなことを話す場所ではない」

「サーシャ、後でゆっくり時間をいただきましょう。こちらへいらっしゃい」

お母様が青ざめて、その声がうわずる。


「あれがサーシャ嬢よ」
「なんて大胆なことを…」

貴族たちの声が聞こえる。あの騒動以来、誰もレインを信用しない。

「あのヒグマから逃げた伯爵令息よね」
「結婚するらしいわよ、横取りした婚約者でしょう?」

レインのヒグマ事件も、サーシャが私の婚約者を奪った事実も、社交界では悪い噂として広まっている。
侯爵家の評判は二人のせいで地に落ちる一方だ。

それは両親の耳にも入っているだろう。
周りの貴族たちは不快の色を露わにし、軽蔑を隠さない笑い声が漏れた。

「ファーレン殿下、後程話をする時間を頂戴したく思います」

「ラッシュ侯爵、この場は個人的な話をする場ではない」

「それは重々承知しております。ですが、メイベルはまだ侯爵家の娘でございます。どうか娘と話をさせて頂けないでしょうか」

皆の前でそう言われると、まるで王家が私を家族と会わせないようにしていると取られかねない。


「お父様、最近忙しくしていましたので、時間がなかなか取れませんでしたの」

「そうだね、私がメイベルを引き止めてしまった。しかし、ここは皆が夜会を楽しむ場だ、今そのような個人的な話はしなくても良いだろう」

ファーレン様が、にこやかに私に語りかけた。
その声は温かく、存在を感じさせるもので、混乱していた場を静める効果があった。
さすが王族である。

「時間が空きましたら、こちらから連絡します。お父様はしばらくお待ちください」

いつかはちゃんと話し合わなければならない。家族がこれ以上迷惑をかけるのが忍びなかった。

「殿下……娘と少しだけでも話を」

しつこくお父様は食い下がった。

「ラッシュ侯爵、改めてこちらから連絡すると言っている。これ以上は不敬にあたる。それでは、夜会を楽しんで下さい。ダンスが始まりますので私たちはこれで」

私をエスコートして、ファーレン様がくるりと背中を向けた。少し冷たい態度ではあるが、この場を上手く収束させて下さった。
さすがのお父様も、追いかけてはこなかった。

その時、王宮楽団の演奏が流れだした。
華麗な音楽に合わせワルツが始まる。
国王陛下と王妃様が初めにダンスを踊る。続いてファーレン様がメイベルに手を差し出した。

ファーレン様は舞踏会の中央に進み出た。
義足にもかかわらず、彼の動きは驚くほど滑らかで、まるで舞いのようだった。メイベルと手を取り合い、優雅に踊る姿は、彼の内なる強さと優美さを示していた。


夜が更けるにつれ、ファーレン様の堂々とした振る舞いは、夜会の話題の中心となり、彼の名声はさらに高まった。

二人は誰よりも輝かしい姿で夜会を彩り、貴族たちの心に深く刻まれる存在となった。

そして私の存在は、ファーレン様の婚約者として認識された。

二人の姿は、どこにいてもひときわ目を惹き、誰もがその美しさと優雅さに魅了されたようだった。


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