24 / 28
24
しおりを挟む
煌びやかなシャンデリアの光が大広間を照らし、貴族たちが華やかな衣装に身を包んで集まっている。招待客の笑い声や軽やかな会話が響く中、侯爵令嬢の私が注目を集めていた。
私は先日ヒグマを退治し王妃様の命を救ったと勲章を授かった。
ファーレン様が準備して下さったドレスは、ブルーの上質な生地に宝石が散りばめてあり、夜空の星のように美しかった。
私の金髪は、シャンデリアの光に照らされると、金糸のように輝き、その青い瞳は深い湖のように澄んだ色に輝いた。
肌は丁寧に手入れしてもらって、陶器のように滑らかだ。ほのかな薔薇色の頬が貞淑さを一層引き立て、皆が感嘆の声をあげた。
その横でエスコートしているのはファーレン様だ。
彼は、義足を意識させることなく堂々と立ち、微笑みを浮かべていた。彼が戦場で示した勇気と同じく、誇り高く、堂々としていた。その姿は貴族たちを驚かせ、それと共に尊敬の対象になっていた。
ファーレン様は一人一人に丁寧に挨拶をし、礼儀正しく、かつ優雅に振る舞った。
そして招待された貴族たちを、微笑みと温かい言葉で和ませた。
会場で私たちを見つけたサーシャが、突然駆け寄って来た。
「お姉様!全然お会いできませんでした。話もできませんでしたわ!酷いわ」
貴族令嬢らしからぬその振る舞いに、周囲の貴族たちは何事かと視線を向ける。
「サーシャ嬢、ここは王宮の夜会です。少し礼儀を弁えるように」
ファーレン様が、冷静にサーシャに注意を促した。
「礼儀?そのようなもの、家族ですから関係ないですわ!」
サーシャはファーレン様の言葉を全く気にせず、さらに無礼な態度を続けた。
「私、レイン様との結婚が決まったの、学院を来年には辞めることにしたんですよ。お姉様が侯爵家に少しも顔を出して下さらないから、こんな場所でしか話ができません。王家は何を考えているのでしょう」
この場で王家を悪く言うことは不敬にあたる。
誰もがサーシャに冷たい目を向けた。
それを聞いていたのか、お父様が急いで駆けつけてきた。
「大変失礼いたしました」
お父様は私たちに深々と頭を下げる。
「お父様!」
サーシャはその様子に驚いて、口を開こうとしたが、すかさずレイン様がそれを阻止した。
「サーシャ、失礼だよ。ここはそのようなことを話す場所ではない」
「サーシャ、後でゆっくり時間をいただきましょう。こちらへいらっしゃい」
お母様が青ざめて、その声がうわずる。
「あれがサーシャ嬢よ」
「なんて大胆なことを…」
貴族たちの声が聞こえる。あの騒動以来、誰もレインを信用しない。
「あのヒグマから逃げた伯爵令息よね」
「結婚するらしいわよ、横取りした婚約者でしょう?」
レインのヒグマ事件も、サーシャが私の婚約者を奪った事実も、社交界では悪い噂として広まっている。
侯爵家の評判は二人のせいで地に落ちる一方だ。
それは両親の耳にも入っているだろう。
周りの貴族たちは不快の色を露わにし、軽蔑を隠さない笑い声が漏れた。
「ファーレン殿下、後程話をする時間を頂戴したく思います」
「ラッシュ侯爵、この場は個人的な話をする場ではない」
「それは重々承知しております。ですが、メイベルはまだ侯爵家の娘でございます。どうか娘と話をさせて頂けないでしょうか」
皆の前でそう言われると、まるで王家が私を家族と会わせないようにしていると取られかねない。
「お父様、最近忙しくしていましたので、時間がなかなか取れませんでしたの」
「そうだね、私がメイベルを引き止めてしまった。しかし、ここは皆が夜会を楽しむ場だ、今そのような個人的な話はしなくても良いだろう」
ファーレン様が、にこやかに私に語りかけた。
その声は温かく、存在を感じさせるもので、混乱していた場を静める効果があった。
さすが王族である。
「時間が空きましたら、こちらから連絡します。お父様はしばらくお待ちください」
いつかはちゃんと話し合わなければならない。家族がこれ以上迷惑をかけるのが忍びなかった。
「殿下……娘と少しだけでも話を」
しつこくお父様は食い下がった。
「ラッシュ侯爵、改めてこちらから連絡すると言っている。これ以上は不敬にあたる。それでは、夜会を楽しんで下さい。ダンスが始まりますので私たちはこれで」
私をエスコートして、ファーレン様がくるりと背中を向けた。少し冷たい態度ではあるが、この場を上手く収束させて下さった。
さすがのお父様も、追いかけてはこなかった。
その時、王宮楽団の演奏が流れだした。
華麗な音楽に合わせワルツが始まる。
国王陛下と王妃様が初めにダンスを踊る。続いてファーレン様がメイベルに手を差し出した。
ファーレン様は舞踏会の中央に進み出た。
義足にもかかわらず、彼の動きは驚くほど滑らかで、まるで舞いのようだった。メイベルと手を取り合い、優雅に踊る姿は、彼の内なる強さと優美さを示していた。
夜が更けるにつれ、ファーレン様の堂々とした振る舞いは、夜会の話題の中心となり、彼の名声はさらに高まった。
二人は誰よりも輝かしい姿で夜会を彩り、貴族たちの心に深く刻まれる存在となった。
そして私の存在は、ファーレン様の婚約者として認識された。
二人の姿は、どこにいてもひときわ目を惹き、誰もがその美しさと優雅さに魅了されたようだった。
私は先日ヒグマを退治し王妃様の命を救ったと勲章を授かった。
ファーレン様が準備して下さったドレスは、ブルーの上質な生地に宝石が散りばめてあり、夜空の星のように美しかった。
私の金髪は、シャンデリアの光に照らされると、金糸のように輝き、その青い瞳は深い湖のように澄んだ色に輝いた。
肌は丁寧に手入れしてもらって、陶器のように滑らかだ。ほのかな薔薇色の頬が貞淑さを一層引き立て、皆が感嘆の声をあげた。
その横でエスコートしているのはファーレン様だ。
彼は、義足を意識させることなく堂々と立ち、微笑みを浮かべていた。彼が戦場で示した勇気と同じく、誇り高く、堂々としていた。その姿は貴族たちを驚かせ、それと共に尊敬の対象になっていた。
ファーレン様は一人一人に丁寧に挨拶をし、礼儀正しく、かつ優雅に振る舞った。
そして招待された貴族たちを、微笑みと温かい言葉で和ませた。
会場で私たちを見つけたサーシャが、突然駆け寄って来た。
「お姉様!全然お会いできませんでした。話もできませんでしたわ!酷いわ」
貴族令嬢らしからぬその振る舞いに、周囲の貴族たちは何事かと視線を向ける。
「サーシャ嬢、ここは王宮の夜会です。少し礼儀を弁えるように」
ファーレン様が、冷静にサーシャに注意を促した。
「礼儀?そのようなもの、家族ですから関係ないですわ!」
サーシャはファーレン様の言葉を全く気にせず、さらに無礼な態度を続けた。
「私、レイン様との結婚が決まったの、学院を来年には辞めることにしたんですよ。お姉様が侯爵家に少しも顔を出して下さらないから、こんな場所でしか話ができません。王家は何を考えているのでしょう」
この場で王家を悪く言うことは不敬にあたる。
誰もがサーシャに冷たい目を向けた。
それを聞いていたのか、お父様が急いで駆けつけてきた。
「大変失礼いたしました」
お父様は私たちに深々と頭を下げる。
「お父様!」
サーシャはその様子に驚いて、口を開こうとしたが、すかさずレイン様がそれを阻止した。
「サーシャ、失礼だよ。ここはそのようなことを話す場所ではない」
「サーシャ、後でゆっくり時間をいただきましょう。こちらへいらっしゃい」
お母様が青ざめて、その声がうわずる。
「あれがサーシャ嬢よ」
「なんて大胆なことを…」
貴族たちの声が聞こえる。あの騒動以来、誰もレインを信用しない。
「あのヒグマから逃げた伯爵令息よね」
「結婚するらしいわよ、横取りした婚約者でしょう?」
レインのヒグマ事件も、サーシャが私の婚約者を奪った事実も、社交界では悪い噂として広まっている。
侯爵家の評判は二人のせいで地に落ちる一方だ。
それは両親の耳にも入っているだろう。
周りの貴族たちは不快の色を露わにし、軽蔑を隠さない笑い声が漏れた。
「ファーレン殿下、後程話をする時間を頂戴したく思います」
「ラッシュ侯爵、この場は個人的な話をする場ではない」
「それは重々承知しております。ですが、メイベルはまだ侯爵家の娘でございます。どうか娘と話をさせて頂けないでしょうか」
皆の前でそう言われると、まるで王家が私を家族と会わせないようにしていると取られかねない。
「お父様、最近忙しくしていましたので、時間がなかなか取れませんでしたの」
「そうだね、私がメイベルを引き止めてしまった。しかし、ここは皆が夜会を楽しむ場だ、今そのような個人的な話はしなくても良いだろう」
ファーレン様が、にこやかに私に語りかけた。
その声は温かく、存在を感じさせるもので、混乱していた場を静める効果があった。
さすが王族である。
「時間が空きましたら、こちらから連絡します。お父様はしばらくお待ちください」
いつかはちゃんと話し合わなければならない。家族がこれ以上迷惑をかけるのが忍びなかった。
「殿下……娘と少しだけでも話を」
しつこくお父様は食い下がった。
「ラッシュ侯爵、改めてこちらから連絡すると言っている。これ以上は不敬にあたる。それでは、夜会を楽しんで下さい。ダンスが始まりますので私たちはこれで」
私をエスコートして、ファーレン様がくるりと背中を向けた。少し冷たい態度ではあるが、この場を上手く収束させて下さった。
さすがのお父様も、追いかけてはこなかった。
その時、王宮楽団の演奏が流れだした。
華麗な音楽に合わせワルツが始まる。
国王陛下と王妃様が初めにダンスを踊る。続いてファーレン様がメイベルに手を差し出した。
ファーレン様は舞踏会の中央に進み出た。
義足にもかかわらず、彼の動きは驚くほど滑らかで、まるで舞いのようだった。メイベルと手を取り合い、優雅に踊る姿は、彼の内なる強さと優美さを示していた。
夜が更けるにつれ、ファーレン様の堂々とした振る舞いは、夜会の話題の中心となり、彼の名声はさらに高まった。
二人は誰よりも輝かしい姿で夜会を彩り、貴族たちの心に深く刻まれる存在となった。
そして私の存在は、ファーレン様の婚約者として認識された。
二人の姿は、どこにいてもひときわ目を惹き、誰もがその美しさと優雅さに魅了されたようだった。
2,808
お気に入りに追加
3,123
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

クレアは婚約者が恋に落ちる瞬間を見た
ましろ
恋愛
──あ。
本当に恋とは一瞬で落ちるものなのですね。
その日、私は見てしまいました。
婚約者が私以外の女性に恋をする瞬間を見てしまったのです。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます
かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。
そこに私の意思なんてなくて。
発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。
貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。
善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。
聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。
————貴方たちに私の声は聞こえていますか?
------------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる