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「ただし、君には新しくサーシャとの縁を持たせる。婚約者をサーシャとし、騎士として自らの行動に責任を持ち、その職務を果たせ」


「え!お父様。私がレイン様と結婚するということですか?」

「そうだ」

「では……その……侯爵家の跡継ぎには私がなるということですか?」

サーシャは、驚いたように目を見開いた。
お父様の表情が険しくなり、首を横に振った。

「跡継ぎの話はゆっくり考える。レインが学院を卒業すれば、サーシャはレインの妻となる」

結婚できる年齢はこの国では定められていない。両親が許可を出せば、何歳でも結婚はできるのだ。
女子が15,16で妻になるのも決して珍しいことではない。

「では……レイン様の騎士団のお給料で、生活をするということですか?」

騎士団の給金はそんなに良いものではない。
サーシャがレインと結婚したとしても、平民の暮らしは耐えられないだろう。他の騎士の妻のようには生活しないだろうしサーシャには無理だ。

「騎士団の給金では、今までのように贅沢はできまい。だから、この屋敷でお前たちは暮らせばよい。執務はメイベルがすればいいだろう。お前たちのように、貴族である者が平民になり、市井へ下りて暮らすことは無理だろうから、仕方があるまい」

……ん?

どういう事だ?

「それは、婚約者を、メイベルからサーシャに変更するという事でしょうか」

レインは驚いたように目を丸くした。

「ええ……そうなりますわね」

お母様は少し不服そうだ。
けれど、サーシャをレインと結婚させるのに何も言わないところをみると、知っていたのだろう。

もしかして、サーシャとレインの面倒をずっと侯爵家で見ることになるのか、私が侯爵家で働いて、彼らを養えと言っているのだろうか?
今と同じように、サーシャに何不自由ない生活の保障を与えると言うことか。

そもそも、今回の件を見る限り、レインが騎士に向いているとは思えない。
貴族の縁故で王宮騎士団に入ったとしても、出世が望めるような騎士にはなれないだろう。
彼の世話まで私がしなくてはならないのだろうか。

レインやサーシャに予算を付けて、このまま屋敷に住まわせるのか。

納得ができなかった。
私が知らないところで、何かの取り決めがなされたように感じた。

「ウィスパー伯爵には、そのように伝え了承を得ている」

お父様の言葉に、確実に何か裏で契約が交わされたと感じた。

「侯爵家の跡取りはどうなるのでしょうか?」


跡取り問題を先送りにしたことがおかしいと思った。
私が後を継ぐのであれば、侯爵家の仕事を手伝うのは仕方がない。今まで、跡取りになる為に教育されてきたんだ。
けれど、サーシャが跡を継ぐのなら、私が手伝う必要はない。
私はこのまま、侯爵家の駒になりたくない。

「今回の婚約解消により、跡取り問題は先送りになった。メイベルの婚約者はまた新たに探すことになるだろうが、それまではこの侯爵家の執務を手伝うように。学院を卒業しても、自立ができるわけではないだろう」

婚約者を探す?
お父様が本当にそうするのか疑問だ。

「メイベルは、今まで通り、ここにずっといてもいいのよ。レインとサーシャが結婚しても、あなたは侯爵家の娘なのですから」

お母様は私に優しそうな笑顔を向ける。
そもそも、レインとサーシャを住まわせている状態での私の結婚はあり得ない事のように思う。
なぜなら、婚約者が決まって私が結婚すれば侯爵家は私の物になるはずだ。

もしかしたら、二人に子供を産ませて、その子を後継者として育てる道を考えているのかもしれない。
私は確実に利用される。


「今まで、メイベルは執務の手伝いを休んでいたが、今後は戻るように。お前の望みは叶えただろう。婚約は無くなった。外に出て自分で仕事を見つけ暮らすことなど無理だ。女が一人でやっていくのは困難だ。メイベルは優秀だが、王宮の文官や、家庭教師で身を立てたとしても、今まで通りの生活はできないだろう」

「そうよ、住む場所だって必要だし、使用人も雇えないような暮らしになるのはつらいでしょう?」

この国の成人年齢は18歳。
私は今まだ学生だ。

貴族籍を抜いて、市井に下り平民として暮らす。あるいは家を出て、修道院に身を寄せる。

自分で自由になるものは何一つ持っていない。
親の庇護の元生活している現状では動きが取れない。

どうする……私。



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