【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾

文字の大きさ
上 下
3 / 28

3

しおりを挟む
「メイベル様、今日、レイン様がいつも通りに迎えにいらしたのですが、サーシャ様は我が侯爵家の馬車で学院へ登校されました」

メイドのララが私の朝食を運びながらそう報告してくれた。

「え……と、それって、レインと一緒の馬車には乗らなかったってこと?」

「ええ。別々の馬車で行かれました」

「急に一緒に行かなくなったなんておかしいわね」

そんなにあからさまな行動に出たら、まるで不義があったと認めているようなものじゃない。
やはり、昨日の私の『キス』していた発言が影響していると思われる。

「レイン様はメイベル様の婚約者です。サーシャ様が妹だとはいえ、若い男女が密室で二人きりになるのはよくないと思います。今まで旦那様がお許しになっていたことがおかしかったのですわ。今までの行動は、メイベル様に対して大変失礼だったと思います」

ララは幼い頃から私付きのメイドとして傍にいた。家族よりも私に近いといっていい存在だから、いつも私の味方になってくれる。

「ララ。レインの気持ちがサーシャにあるのなら、私は彼と結婚したくない。たとえ政略結婚だとしても、我慢して一生添い遂げるなんて不幸でしかないわ。窓から落ちてそれに気が付いたの」

ララは沈痛な面持ちで何度も頷いた。

「そうなんですね。メイベル様の気持ちが一番大事です。私はお嬢様には幸せでいてもらいたいです。最初から別の人に気があるような婚約者だなんてあんまりですわ。やましいことが無いんだったら、今まで通り同じ馬車で登校されたと思います」

「婚約者としてレインには誠実であって欲しいと思っていた。けれど、サーシャを好きなら仕方がないわね。彼には正直に気持ちを伝えてほしいと思っているの。無理やり結婚してしまうのはよくないわ」

「今更体裁を取り繕うなんて、レイン様もどういうつもりなんでしょう。メイベル様には言えませんでしたけど、私はてっきりサーシャ様と婚約し直されると思っていました」

私もそう思っていた。この家に来ても、私に会いに来たわけではなかった。レインはいつもサーシャとお茶をしていた。
屋敷の使用人ですら気が付いていたのだから確かに今更だ。

「誰が見ても、彼の気持ちはサーシャにあったわ。サーシャも満更ではなかったでしょうから、そうなるはずよね」

開き直って、サーシャへの愛を確認し合う道には進まなかったのかしら?

「やはり、サーシャ様では侯爵家の跡取りとしてやっていくのが難しいからですかね。メイベル様を手放さないために、このまま結婚を強行されるのでしょうか?」

「その可能性はあるわね。けれど、どっちにしろ、私はこのままレインの婚約者でいたくないわ」

「ええ、もちろんです。あんな浮気者こちらから願い下げですわ!お嬢様にはもっと素晴らしいお相手が見つかります」

私は、婚約解消でも、破棄でも、白紙でもなんでもいいからさっさと彼との関係を終わらせたいと思っていた。

「なんとかして、早く婚約解消にならないかしら」


***


そのまま私は家でゆっくり3日間休養を取った。
何度か両親も部屋に様子を見に来たようだけど、ララに眠っているからと断ってもらった。

けれど、いつまでもベッドで寝ている訳にはいかない。
私もそろそろ行動を起こさなくてはならないと思った。


「お父様、執務の手伝いの件ですが、私が休んでいる間でも優秀な執事や現役のお父様がいらっしゃいますので、滞りなく進んでいるようですね」

「いや……その、メイベルがいなくては私の自由が利かない。領地へ足を運ばなくてはならないし事務関係の書類も溜まっている。数時間でも手伝ってくれたら助かるのだが」

「いいえ、お父様。この先のことを考えたら、手伝うのはレインの仕事ではないでしょうか?」

「どういう意味だ?」

レインは単純に、結婚後も私に侯爵家の仕事を丸投げしようと考えていた。
執務は大変だし難しい。
彼も頭は悪くないが、騎士として自分は自由にやっていきたいと思っているのは確かだ。
結婚後は仕事を私に任せて、自分は今まで通り遊び回りたいのだとしか思えない。
侯爵という爵位を手に入れ、大変な仕事は家に閉じ込めた妻にやらせようと考えていただけだろう。


「私は侯爵家の跡継ぎとして、今まで教育されてきました。けれど、レインはサーシャと結婚するでしょう。お互い想い合っていますから。そうなれば、侯爵家の仕事はレインとサーシャがする事になります。私は後を継がないですから」

「な、なにを言っているんだ!今まで、苦労して領地経営や執務を学んできただろう!私は幼い頃から、メイベルの教育に力を注いできた。その意味が分かるか?サーシャには無理だからだ」

サーシャが無理ならレインがすればいい。意味が分かるか?お父様。

「ですが、サーシャとレインは愛し合っているでしょう。私は婚約者ですが、今まで一度もレインから、婚約者らしい扱いを受けた記憶はありません。サーシャよりもずっと下にみられていました。婚約は解消して下さい」

「それはできない。お前も分かっているだろう。これは政略結婚だ、好きだからと言って結ばれる物ではない。貴族に生れた以上、政略結婚は当たり前の常識だ」

お父様には話が通じないと思った。
あんな事があったのに、まだレインとの婚約を続けろと言うのか。
私は二人の逢瀬を見、窓から落ちた。そして3日も意識が戻らなかったのに、それを知っているのに結婚をさせようとするのか。

「私は、二人の逢瀬を何度も見ているのですよ?実の妹に気があるレインと結婚しろというのですか?」

婚約者である私が寄り添い合う二人を見て、ショックを受けないと思っているのだろうか。
それくらい我慢しろと言っているのだろうか。

「レインはそんなつもりはないと言っていた。婚約者の交代も望んではいない。サーシャはお前の妹としてみていただけだと言っている。サーシャも無邪気なだけで悪意はない」

そんな馬鹿な話はない。
サーシャには悪気はなかった。
だから許さなくてはならないのか……

「私は何度も注意しました。妹だからといって、姉の婚約者と二人きりで会うのはおかしいと言いました。けれど、彼らはそれくらい良いだろうという考えでした」

「確かに、考えが甘かった。そこは否めない。だが、これからはそんな事がないよう気を付けると言っている。お前も、妹に嫉妬しているだけだろう。そんなくだらない事に拘ってどうする」

「今まで一度だって私は大切にされたことはありませんでした。ショッピングや祭り、イベント、茶会、カフェにも彼はサーシャを伴い参加していました。それを嫉妬だったというのなら、そうなのかもしれない。けれどもう、その段階はとうに過ぎていて、今はレインに近づくのも気持ちが悪い状態です。もう手遅れです」

お父様は言い返されるのに慣れていない。
その表情には、驚きと失望が入り混じっている。

「な……お前は、急になんでそんなことを言い出すのだ。今まで私に反論などしなかったではないか」

まさか私が口答えするなど、思ってなかったのだろう。
完全に理解不能という感覚が伝わる。

「今までは我慢していました。けれど、もう限界です。思っていたことを口に出さなかったから、こんなことになってしまいました。ですから、これからは自分のやりたいようにさせて頂きます」

このまま話し合っても埒が明かない。

「駄目だ。婚約は継続だ。解消はない。話はこれで終わりだ」

「……」

親が決める結婚が当たり前の時代だ。私の意志は関係ないのだろう。彼にとっては私の幸せなんてどうでもいいことなのかもしれない。

「承知しました。では、解消になるまで私は執務の手伝いを放棄します」

「……っ、なんだと!」

お父様は怒りのあまり苛立った様子で、拳でテーブルをドンと叩いた。


「お、お前は!貴族の令嬢としての気概が足りない!」


「その言葉、そっくりそのままサーシャに言えばいいのでは?」

私は決然とした表情で冷笑を浮かべ、その場から立ち去った。

自分の価値観や信念を守り抜く姿は、まるで千鶴そのもの。
今の私は、困難や危険に立ち向かう精神的強さを持っている。
私は鋼鉄の意志を持っている。
自らの行動に誇りを持ち、戦いにおいて実践する真の侍魂を持っている。

しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...