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41 if その日に
しおりを挟む【ソフィアside】
バーナードがアパルトマンの前に来ている。今日も。
これで一週間続けて毎日来ていた。
「そろそろでしょうか?」
「ええ。そろそろでしょうね……」
今日もバーナードは、アパルトマンの警備の者に追い出されるだろう。
連日入り口で追い返されている。
先日は近くを通った憲兵に連れて行かれた。
彼がどうなったのか気になったけれど、心配していると思われたくなかったので、静観することにした。
「誰がバーナードの身柄を引き受けに行ったのかしら?」
「え……と。多分ですけど、ムンババ様が」
「なんで!」
ミラは首をひねった。
確かに、彼がすぐに解放されたのはおかしいと思っていた。
ムンババ様なら大使だから、治外法権で?いいえ、そんな越権行為は駄目でしょう。
何故バーナードがムンババ大使と知り合いなのか……よく分からないわ。
「とにかく、ムンババ大使にご迷惑をおかけするわけにはいかないわ。バーナードと話をする」
「はい承知しました」
ダミアは頷いた。
赤ん坊のレオは二人に預けて、私は一人で階段を下りていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【バーナードside】
「ソフィア!ソフィア!」
私はアパルトマンの入り口まで走っていた。
ソフィアは自分の店に顔を出すところだったのか、アパルトマンの入り口に立っていた。
通りはちょうど朝の通勤の時間帯で、人通りが増えてくる。
やっと会ってくれるのかと嬉しくなった。
「バーナード!あなた……」
少し怒ったような顔で彼女は私を見た。彼女はやはり美しい。
話し合おう。そうだ、まず謝らなければ。
今日は花束を持ってきた。朝からホテルの者に用意してもらった。
「ソフィア!私は……」
「バーナード!後ろっ!!」
ソフィアは私の後ろを指さし叫んだ。
彼女の顔が青ざめた。一気に血の気が引いていく。
私は自分の後ろを振り返る。
後ろから必死の形相で女がこちらへ向かってくる。手には鉈の様なものを持っていた。
「な……!マリリンっ!」
人々の叫び声がする!それはスローモーションのようにゆっくりと振り上げられた。
「やめろぉ!!!」
私の横を走り過ぎた女は手に持っていた鉈をソフィアめがけて振り下ろした。
「あんたが悪いのよ!あんたのせいでっ!!」
「きゃああっ!」
「ゃぁぁあっ!!」
恐怖に満ちた声が響き渡った。
「やめろぉぉぉぉおおおお!」
通りは一瞬でパニック状態になる。
男たちが重なるようにマリリンを取り押さえる。
地面に叩きつけられたマリリンが荒れ狂う犬のように叫ぶ。
「あの女が全部悪いのよ!ソフィアのせいよ!」
髪を振り乱し、目を血走らせたマリリンの手から鉈が取り上げられる。
「誰か憲兵を、警備兵を呼べ」
「縄を持ってこい!」
「危ない離れていろ」
人々の声が耳鳴りのように響いている。
「ソフィア……」
血まみれで倒れているソフィアに走り寄り、彼女の上半身を抱え上げた。
血の匂い、生温かい液体が手のひらを汚していく。
ソフィア。
「ソフィア!しっかりしろ、ソフィア!ソフィア」
何故だ、何故なんだ。
人だかりができ、皆がざわざわと騒ぎ出す。
私の耳は聞こえなくなった。
ソフィアに医者を……
早く、誰か医者を呼んでくれ……
私はソフィアに顔を近づけ、呼吸を確認する。
心臓が握りつぶされ、喉の奥を締め付けられるような、恐怖が私を襲った。
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