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【バーナードside】 ソフィアの捜索

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その頃、バーナードの領地では


「何故彼女の居場所が分からないんだ?そんなはずがないだろう!」

バーナードが従者たちに対し怒りを露わにしていた。
マリリンが邸を去り、軍関係の仕事もひと段落した今、バーナードはやっとソフィアの事に集中できるようになった。
本腰を入れて彼女を捜し出そうとしていた。

邸の従者たちには領地内をくまなく探させた。彼女の実家にも使いをやり、行き違いがあったようで彼女の居場所を探していると聞いてみたが『離婚したという知らせがきただけで、今の居場所は知らない』と冷たくあしらわれた。

結婚してから彼女の実家との付き合いはなかった。
ソフィアの実家は伯爵家だった。しかしソフィアの両親は他界していて、今は叔父が爵位を継いでいる。
あまり親しくはつき合っていない関係だった。



「バーナード様、離婚は成立していますし、もう旦那様にできる事はソフィア様に慰謝料を支払う事だけです」

私の何が何でもソフィアを見つけ出そうとする姿に、いい加減あきらめろと言わんばかりに、コンタンが告げる。

「そんな事は……わかっている」

「では、慰謝料の額ですがこちらでよろしいでしょうか」

コンタンは以前から用意していたのか、まとめられた書類を事務的に私の前に出してきた。
書類には、今までにソフィアが領地経営をして得た利益に、邸の資産価値の半分が上乗せされた莫大な金額が記されていた。

「こ、これ……こんなに多額になるのか」

「払えない額ではありません。それに心的ストレスに対する慰謝料も込みですので、妥当な金額ではないでしょうか」

確かに彼女に与えた精神的苦痛は計り知れない。できる事なら直接謝罪し、二度と彼女に辛い思いをさせないと誓う。
もし、ソフィアが私とマリリンの関係を男女間のそれだと勘違いしているなら、はっきり潔白だと言わなければならない。

マリリンたち親子にかかっていた費用がなくなった。ケビンの父親のデクスターに、今までマリリンたちに費やした費用の倍額を請求した。
彼らにはアーロンを責任もって育てると念書を書かせ、定期的に報告する義務を課した。
私たちを騙した罪の代償として、ケビンは相続権を剥奪される。
マリリンは一生、外に出られないよう拘束し、監禁するようにと命じた。
デクスターは五十を疾うに過ぎた男だったが、力に物を言わせて物事を行う豪腕は、彼女にとって恐怖でしかないだろう。
そしてその男の妻として、マリリンは今後、彼専用の奴隷として生きて行く事になる。

邸の使用人も序列の守れない者を首にした。

邸の経済状況は、悪化しているわけではなくかなり上向きの方向にある。
それはサイクスの繊維業が膨大な利益を上げているからだった。

払えない額ではない。

「この慰謝料をソフィアに支払う」

私は書類を見つめてコンタンに伝えた。
彼は大きく頷いた。

「ただし条件がある。直接私が彼女に渡すか、それが叶わないなら慰謝料について彼女との話し合いを求める」

コンタンは眉間にしわを寄せ、私に視線を向けると、はぁ、と大きくため息をついた。

コンタンはソフィアの居場所を知っていると思われる。
ガブリエルは、自分は居場所を知らされていないという。
邸に古くから仕えていてくれるモーガンやダミアはソフィアの居場所を知っているが、教えられないと言われた。私がマリリンに騙されている間に彼らの信用を失ってしまったのだ。

彼らは私の邸で働いている使用人達だ。私の命令を聞かないとなればいつだって首にできる。しかし、自らが招いた失態に対して彼らを責めるのは筋違いだと分かっているからそれはできない。

今回の件も、彼らが動いてくれなければ大変なことになっていただろう。
そうでなければ、私はあのままマリリンたち親子を邸に住まわせ、妻であるソフィアを蔑ろにして、アーロンに家督を譲っていたかもしれない。

全ては私の過ちだった。

けれど、彼女は戦時中もずっと私を待っていてくれた。そこに愛はあったはずだ。
もう一度、もう一度だけチャンスを与えてほしい。

何としてもソフィアの居場所を自分で突き止めてみせるとバーナードは固く拳を握った。




あれから何度もコンタンと話をしたが、結果的に知り得た事は、彼女たちは国外に出国し今は平民として暮らしているという事だけだった。

住所はコンタンも分かっておらず、彼女の居場所を知るのはステラ王女だけだという。慰謝料はステラ王女経由でソフィアに渡る予定だという。
流石に王女には直接話を聞けない。謁見を申し出るも叶わなかった。そして間もなく王女は隣国の王子と結婚し、国を出てしまう。

ステラ王女殿下がこの国からいなくなれば、ソフィアの行方は二度と掴めないだろう。

何日も考えた。

執務室の彼女の席を見ながら、彼女の残した丁寧に書かれた帳簿の数字を指でなぞった。
食堂で味気ない食事をとりながら、テーブルを挟む、向かいの誰もいない空間を見つめた。
眠るベッドの冷たい右側をそっと撫で、そこにソフィアの体温を探した。

そしてある夜、私は気が付いた。

そうだ、彼女とともに消えた彼女の侍女がいたはずだ。

「確か……名前は……ミラ」

ソフィアの行方を追うより、メイドのミラの方を捜せばもしかしたら……
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