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27 【ソフィアside】アパルトマンでの生活
しおりを挟むあら……
アパルトマンの部屋で私は小さく声をあげた。
ミラが頂いた花束に、メッセージカードがそのまま挟まっていたのだ。
いつもはカードだけは丁寧に纏めて置いていると聞いていた。
もしかしたらメッセージカードに気が付かず、そのまま花束を持ってこられたのかもしれない。
このアパルトマンのオーナーはとても人気があるらしく、沢山のプレゼントが各所から届く。花束などは毎日のように頂いているらしかった。
そしてアパルトマンの住人や、近所の商店などにお花をお裾分けに来てくれる。
枯れてしまうよりは、沢山の人の目に触れた方がお花も喜ぶだろうからとオーナーが言っているようだった。
お相手の方には、皆で鑑賞させていただきますと伝えているらしい。
カードは封筒に入っているわけではなかった。だから手に取るとそのまま読むことができた。
失礼になるかもしれないが、花束を渡された方のカードなのか、お裾分けに持ってきてくれたメイドが挟んだものなのか、どちらか分からなかったので目を通す。
誰からのカードなのか名前は確認できた。
けれど、内容はこちらの言語で書かれたものではなく、私には読めなかった。
今まで見たことのない文字で、どこの国の言葉なのか不明だった。
「ムーン・ババール・ポゼッサー……」
花束を渡された方の名は、ムーン様。こちらの言葉では「月」を意味する。
「素敵なお名前ね……」
「ソフィア様どうかなされましたか?」
ミラが私に訊ねてきた。
「間違えてカードがそのまま挟まっていたようなの。花束の送り主様からだと思うわ」
「まぁ、大変!すぐにお返ししてきますね」
ミラは急いでカードを手に取ると、アパルトマンの上階へ向かって走っていった。
あっ、と考え私もミラの後を追った。
カードの名を読んでしまったことを伝えた方が良いと思ったからだ。
最上階のペントハウスはフロア全体をこのアパルトマンの女性オーナーが使用していた。
仕事にも使っているようで、身なりの良い従業員らが出入りしているのを見かけたことがあった。
さほど人の出入りが激しいわけではなく、至って静かだったので気にはならなかったが、もしかしてカードを贈ったのがこちらに出入りしている方ならきっと気分を害されるだろう。
「あら、嫌だ。挟まったままお渡ししてしまったのね!ごめんなさい」
彼女たちはフロアの玄関前で立ち話をしていた。
「いえ、こっちも確認してなかったからごめんなさいね」
「オーナーは当分このアパルトマンには戻ってこないのよ……『花束はもう貰えない』って伝えているとオーナーは言っていたけど、上手く伝わってないのかしらね」
「そうなのね。でもお花はとても嬉しいわ。私が貰ったわけではないけど、なんだかドキドキして浮かれてしまうもの」
「そうよね!プレゼントして下さる方は、とても素敵な殿方なのよ」
彼女たちは楽しそうにおしゃべりしている。このまま恋愛談義に花を咲かせそうだった。
「……こんにちは」
私はミラたちのおしゃべりを止めるべく声をかけた。
二人ともハッと驚いたようだった。
私がやってきたことに気が付いていなかったらしい。
ミラはおしゃべりだし、噂が広がったら、ここのオーナーにご迷惑がかかる。
若い女性たちの話題の中心はやはり恋愛のこと。人の口に戸は立てられないけど、後でミラには注意しておこうと思った。
「こんにちは!まぁソフィア様」
オーナーの専属のメイドだというマリーが挨拶を返してくれた。そして彼女は小さくカーテシーをする。
「ソフィアと呼んで下さい。敬称は必要ありませんわ。貴族ではないですから」
私は笑顔で彼女にそう告げた。カーテシーも勿論必要ない。けれど長年の癖という物は中々抜けきらない。彼女もきっと貴族の邸で教育を受けていたのだろう。
「私たちは雇われている身ですから、ソフィア様はソフィア様です!」
ミラがそう言った。
「オーナーはお留守のようですね?」
私はオーナーのアイリス様の所在を訊ねた。最近姿をお見かけしてないので、いらっしゃらないだろうとは思うが、礼儀としてきちんと挨拶はしておきたい。
「ええ。フォスター領へ鉄道で行ってらっしゃいます。しばらくはお戻りになりませんわ」
オーナーのメイドのマリーはそう教えてくれた。
フォスター領と言えば海に面したとても潤った領地だと聞く。
海の向こうの国々との貿易の為、国際港として今後まだまだ発展するだろうといわれ、外国人も沢山住んでいると新聞に載っていた。
このアパルトマンのオーナーは王宮にも出仕していた方らしく、とてもお忙しいと聞いている。女性なのにとても精力的に働かれ、それでいて目を惹くとても美しい容姿の方だった。
強い意志を持って、本気で何かに取り組んでいる姿は、妊娠を理由に部屋に閉じこもっている今の私には眩しく映っていた。
「あのね、私、カードのお名前を拝見してしまいましたの。申し訳ないと思い、それをお伝えしたく参りました」
マリーは驚いた様子で、受け取ったカードを確認した。
「あっ、ええ。お名前だけですよね。カーレン語はアイリス様しかお読みになれませんから」
カーレン語……
聞いたこともない言語だ。
「世界は広いですわね。私等はカーレンと言う言葉を今初めて耳にしました。勿論、カードの内容は読めませんでしたわ」
でしょうねとマリーは笑顔で頷いた。
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