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14 レストランでのディナー

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今日は旦那様と外出する。観劇に行って、夜は素敵なレストランでのディナーだ。二週間も前からモーガンが店を予約してくれている。

結婚して二年と半年、旦那様とはショッピングさえ一緒に行ったことがなかった。
彼と一緒に出掛けるのは、これが初めてと言ってもいいだろう。

とても嬉しくて期待に胸が膨らむ。

サイクスのドレスショップで、既製品のドレスを何着か購入した。
とても素敵なデザインで、仕事でも着ていけそうなので気に入っている。

「奥様、少し地味ではないですか?旦那様と観劇に行かれるのですから、何か宝石でもあれば良かったんですけど……」

準備を手伝ってくれているミラが眉根を寄せる。
宝飾品は全て戦時中現金に換えた。

贅沢品は必要なかったし、一番重要だったのが食料だったから仕方がない。

「つける宝石がないのが残念だけど、ショールが光る素材で華やかだから大丈夫よ」

その時トントントンとドアがノックされ、モーガンがやってきた。

「奥様。こちらは旦那様からです」

モーガンは綺麗な布が丁寧に貼ってあるケースを持ってきた。
それは、旦那様からのプレゼントだった。
中には美しいなアメジストのネックレスが入っている。
落ち着いた紫色のネックレスは今日のドレスにもぴったりだ。

私は「ありがとう!」と喜んでモーガンからそのプレゼントを受け取ると、鏡の前で早速着けた。

白い首元に綺麗なネックレスが映える。

「奥様良かったですね!旦那様が邸にお戻りになってから、初めてのプレゼントですね!とっても綺麗です」

ミラが嬉しそうに鏡に映る私を見て声をあげた。



しばらくすると、旦那様が私を部屋まで迎えに来る。

「ソフィア……とても綺麗だ」

「ありがとうございます。ネックレスとても嬉しいです」

私は旦那様から頂いたネックレスを少し持ち上げて、笑顔でお礼を言った。
旦那様は照れたように笑うと。

「コンタンが君には紫のネックレスが似合うと助言してくれたんだ。確かに落ち着いた色で、美しい君の肌に映え、よく似合っているな」

「コンタン……が、ですか」

旦那様がご自分で選ばれたわけではなかったのかと少し残念に思った。

さあ行こうかと右手を出されたので、エスコートしてもらい部屋を出た。

その時、廊下の端からマリリンさんのメイドが走ってやってきた。
とても焦っているようだ。

「旦那様!旦那様、マリリン様がお呼びです」

ハッとして、メイドの顔を鋭く見つめる。
今?何故?

「場をちゃんと見なさい。今から旦那様は奥様とお出かけになられます」

ダミアがメイドを叱責する。
その様子を見て旦那様が右手を上げてダミアを制した。しかし顔は笑っていない。不機嫌そうにメイドの方を見る。

「あ……の……」

「よい。どうした?」

「あの、マリリン様が、今日とても体調が良くて、アーロン坊ちゃまもお元気ですし、本日ならばスコット様の御実家に伺えるとおっしゃっていらっしゃいます」

「……!」

スコット様の実家へ?今まで頑として外出を拒否してらっしゃったのに、今日に限って行けるというの?

「何故今日なんだ……」

旦那様の休日は殆どない。このタイミングを逃せばマリリンさんはスコット様の御両親に自ら会いに行ったりはしないだろう。
旦那様は迷っていらっしゃるようだった。

「ソフィア……」

旦那様は絞り出すように私の名を呼ぶ。

「ええ。承知しました。大丈夫です、旦那様との外出の機会はまた訪れますから」

この機会を逃せば、マリリンさんはずっとこの邸から出て行かないかもしれない。そう考えると、観劇や食事なんてこの先いくらでもできる。

「すまない。ソフィア……夕方、いや、レストランの予約をしている時間までには必ず帰る。夜は一緒に過ごそう。レストランへは必ず一緒に行こう」

「ええ。待っていますわ」

旦那様は私の返事を聞くと、頷き、モーガンと共にマリリンさんの部屋へ向かった。
その様子を邸のメイド達は気まずそうに窺っていた。

いたたまれなくなり、私は自室に引き返す。

悔しくて悲しくて、唇を噛み締めた。




その日は夕方になっても旦那様は帰宅されなかった。
旦那様についていった側近が戻って来て、私に伝言するように頼まれたと言った。

「申し訳ありません。本日旦那様は、戻られるのが遅くなるということです。奥様には、君だけでもレストランへ行って楽しんできてくれと伝えるようにと……」

「ええ。分かりました」

やっぱりね……と思った。彼に期待してはいけない。

傍で聞いていたモーガンが、従者に向かって詳しく話すようにと言った。

「その、私から言うのはどうかと思うのですが……マリリンさんはスコット様の御両親からかなり冷たくされたようで、アーロン君は孫ではないとはっきり言われて、落ち込まれて……その、旦那様が慰めてらっしゃって」

「いい加減にして!」

ミラがカッとなり、大声で怒った。ダミアがミラを諫めずにそのまま静観している。

「ミラ、落ち着きなさい」

結局私が彼女をなだめた。

「そうなるに決まっているわ。だってアーロン君は、全然スコット様に似てないんだもの!」

誰もが口に出さなかったことを、ミラはハッキリと言い切ってしまう。

そう。アーロン君は、全くスコット様に似ていない。

そう。黒髪で黒い瞳のアーロン君は、旦那様にとても似ていた。


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