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8 三カ月

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マリリンさん達が来て、もう三カ月経った。
その後もマリリンさんはスコット様の御両親に会いに行く様子はない。

外へ出て運動したり、体を動かさなければ元気が出ないんじゃないだろうか。お医者様は産後で気が沈んでいるだけだから、体のどこかが悪いとか病気だというわけではないと言っている。

マリリンさんと何度コミュニケーションを取ろうとしても無駄だった。
散歩に誘ったりお茶に誘ったりしたけれど「赤ちゃんがいるから、ゆっくりできません。申し訳ありません」と断られた。

『食事やお茶なんて、赤ん坊連れでできるはずがない』
新しく入ったメイド達が話しているのが聞こえた。
配慮が足りず、自分が迷惑がられているような気がした。
どんどん自分の居場所が少なくなっているように感じる。

それでも全く部屋から出ないのはどうかと思い、庭の花が綺麗なので赤ちゃんも一緒に散歩しませんかと 誘ってみたが、日に焼けてしまうと赤ん坊の肌に悪いからと断られた。

私とあまり顔を合わせたくないのだ。そう思うと、いつの間にか声をかけなくなってしまった。

そんなある日、旦那様がマリリンさんと赤ちゃんと3人で庭を散歩しているところを見て驚いた。
私が誘ってもこないのに、旦那様とはご一緒するのね。
思わず柱の陰に隠れてしまう自分が惨めに思えた。

変な嫉妬心を持つ自分の心が卑しいと感じ、ただの散歩だと何度も言い聞かせ、そっとその場から離れた。





執務室にいると、彼から一緒に食事をと誘いを受けた。
旦那様が帰宅されたのに気が付かなかった。
旦那様は王都へ行くことが多く、帰らない日もよくある。

「申し訳ありませんお出迎えもできずに」

「いや、構わない。久しぶりに早く帰れたので、一緒に夕食をと思って声をかけた」

旦那様と食事を共にすることがめったになかったので嬉しかった。いろいろ話したいことがあったし、なによりゆっくり顔を見られるので幸せだと思った。

「すぐに準備いたします」

ダミアがそう言って食堂の厨房へ向かった。
私も着替えを手伝いに旦那様の自室へ一緒に向かう。

「随分町も活気づいているようだな。君たちの頑張りが領民たちのやる気に繋がり、とても景気が良いように見える。町の者たちも皆嬉しそうだ」

「はい。執務関係が専門の、新しく入った事務官たちが優秀で、どんどん事業が進んでいきます。これも旦那様の寛大な措置のおかげです」

バーナードに褒められると、苦労した甲斐があったと嬉しく思う。

「もう、モーガンもかなりの年だ。新しい者に執務を教え込んでもらい、これからの領地経営を、彼らが私の右腕となって手伝ってくれれば良い。ハービスもますます発展し、領民たちの生活も潤うだろう」

確かにモーガンはかなり高齢だ。本人はまだまだ頑張れますと言ってくれているけど、甘えてばかりもいられないわね。
そう考えると、コンタンやガブリエルは、なくてはならない大切な存在だわ。

「旦那様が信頼して執務を任せてくださっているので、自由に大きな計画を立てることができると皆が喜んでいます」

「そうだな、まぁ、手が回らないから今は任せっぱなしになっているが、報奨金で、予算の心配をしなくてもよくなったのは大きいな」

今までは、日々の食料を確保するだけでも苦労した。今は旦那様が戦争で功績を上げられたから、予算もでき、沢山の使用人を雇える。領地にも還元できることはとても有り難いことだった。


さあ今から食事を始めようという時に、メイドが入ってきた。

「失礼します。旦那様!マリリン様がお呼びです!」

慌てた様子でメイドは旦那様にそう告げる。
今から食事だというのに一体どうしたんだと、バーナードは少しムッとしている。

「アーロン坊ちゃまが……具合が悪いようで」

「なんだって!」

バーナードはガタンと音を立て、急いで席を立つ。

「すまないソフィア、様子を見てくる」

ナプキンが床に落ちたのも気付かないようだ。バーナードから焦りと緊張感が伝わる。

「はい。どうぞ行って差し上げてください」

私も心配して、ドアのところまで旦那様についていく。

「君は先に食事していてくれ」

そう言うと、彼は急いで部屋を出て行った。

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