旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾

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3  知らない女性と赤子

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バーナードは後ろを振り向き、所在無げに俯く女性を招き入れる。
粗末なワンピースを身に着け、汚れたおくるみの中に赤ん坊を抱えた、若い女性が彼の後ろに立っている。

「ソフィア、彼女はマリリンだ。赤子の名前はアーロン。しばらくの間ここで面倒を見ることになる」

彼は「大丈夫だから」と彼女達親子に声をかけ、安心するようにと頷いてからマリリン達を紹介した。

「え……」

急に知らない女性を紹介されて私は戸惑った。

どういうことかと屋敷の皆が主人に問いかけるような視線を送る。

「後から詳しいことは説明する。とりあえず彼女達の部屋を用意してくれ。新しい着替えと温かい食事を。湯浴みも頼む」


マリリンは客人であるという事を忘れないように、と彼は屋敷の者に指示を出した。

彼女はまだ日が浅い赤ん坊を抱いて申し訳なさそうに頭を下げた。

服は汚れていて長い移動に疲れ果てた様子だが、小柄で色白で可愛らしく、守ってあげたいと庇護欲をかき立てるような女性だった。

取り合えず客室を彼女に用意するよう、私が執事に頼んだ。屋敷の使用人たちはバタバタと大急ぎで客人の為に部屋の準備を始めた。

バーナードに言われたとおり、彼女たちを部屋に案内したが、赤ちゃんがいる事で必要な物がたくさんあるだろうと、私も手伝った。

「奥様は旦那様のお世話をして差し上げてください。ここは私共で何とかしますので」

ダミアに言われて私は「そうね」と返事をした。旦那様のお食事の準備や、着替えの用意など、滞りないか確認をしなければならない。

「それじゃぁ、申し訳ないけどよろしくお願いね」

使用人たちは私よりずっと赤ちゃんの事に詳しいだろう。
後は任せて、私は急いで食堂へ向かった。



バーナードは湯あみを終え服を着替えると、私と共に広間に用意された豪華な食事をとった。

久しぶりに主人を迎えた喜びに屋敷の者たちも浮足立っていた。
バーナードは時折客人の事が気にかかるようで、彼女たちの様子をメイド長たちに訊ねた。

私はやっと会えたのに自分以外の女性を気遣う夫に少し寂しい思いがした。
二年間離れていても毎日彼を思って祈りを捧げていた。今は無事に自分の傍にいてくれる夫に対して我儘な事は言えない。
夫婦の時間はこれからたくさん取れるだろう。そう思いなおして笑顔で彼の姿を見ていた。

バーナードは、執務室に私と執事のモーガン、メイド長のダミア、そして私の専属メイドのミラを呼ぶと、連れてきたあの親子の話を始めた。



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