さよならまでの六ヶ月

おてんば松尾

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プロローグ

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ちょうど夏至の日だった。


太陽の位置が高くなり、一年で一番日照時間が長くなる日だ。

夏至の昼間は太陽がほぼ真上からあたるので影がなくなる。


子供心に自分の影がなくなるのがとても怖かった。

ずっと神社の境内の大きい欅の木の下で枝を伸ばした木の葉っぱの下に隠れていた。

影の中に居れば、私の影はなくならない。

そう思った。




七夕の準備で笹の葉に短冊が飾られている。

見本に何枚か書くように、父から短冊を渡された。字がまだ上手に書けない。

私は短冊に絵を描いた。
白い服を着て背が高い男の人の絵だ。

少年が一人、私の側に駆け寄って来て「この人誰?」と私に訊いた。

この人は彦星だ。
けれど名前が出てこなかった。




「神様」

「神様描いたの?」

「うん」


「神様と結婚したら、なんだって願いを叶えてくれるんだ。知ってた?」

「うん」

そんなの知らない。けど、神社に参拝に来る人は皆、願いごとを言って帰る。

だから神様は願いごとを叶えられる人だ。

それは知っていた。

「俺が神様だったら結婚したい?」

「うん。結婚しましょう」

「わかった」


まだ五歳の私は、結婚の意味はあまり分かっていなかった。

でも神様のお嫁さんになるのはとてもいいアイディアに思えた。

だって、なんでも願いが叶うんだもん。


いつの間にか太陽が頭上から少し動いたようだった。

私の短い影が現れた。

自分の身体が、地上に戻ってきた気がして少しほっとした。



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