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第30話 新しい人生
しおりを挟む柔らかい素材のゆったりしたワンピースを着て、美鈴が俺の前に座っている。
こんなに綺麗な女だったんだなと思った。
少しふっくらしたのか、肌つやもよく幸せそうだ。
子どもと一緒に食事ができる個室のあるレストランだった。
遊ぶためのおもちゃも用意されているので雄太は楽しそうだ。
「雄太は少し会わないうちに大きくなったな。面会交流を許可してくれてありがとう」
「親ではなく子供の権利だからね。雄太も外食できるって喜んでたし」
「ああ」
雄太は部屋においてあるブロックを夢中で組み立てている。
想像力がたくましいのか、あっという間に家をつくりあげた。
「元気そうでよかった」
久しぶりに話をするから、何を話せばいいのか緊張して分からない。
美鈴には謝罪をして、雄太の養育費を払わせてほしいと願い出た。
本当に人としてあるまじき行為で、許してもらえるとは思っていないが、せめて陰ながら応援させてほしいと申し出た。
「ええ。元気よ」
「仕事はどうしているんだ?生活費は大丈夫なのかな。まぁ、心配ないとは聞いてるんだけど」
「大丈夫よ。養育費もちゃんと受け取ってるわ。雄太の将来の学費にでもあてさせてもらうわね」
「その時はまた、振り込むよ。私立とかを考えてるんだったら学費は出させてほしい」
教育をどうするかは美鈴が決めることで、俺は口出しできない。
「愛梨さんはどう?結婚しないの?」
「ああ。そうだな、いずれは籍を入れるつもりだけど、まだ離婚して間もないからしばらくは良いかなって思ってる」
美鈴は少しムッとしたようだった。
「3年も待たせたんだから、籍を入れなさいよ。男としての責任はちゃんと取るべきだわ」
「わ、分かっている。そうだよな、ああ。そうする」
「人の家庭を壊してまで愛した人なんでしょう?ちゃんと幸せにしてあげてね。今度の交流までには良い知らせが聞きたいわ」
何故美鈴が、愛梨のことをそんなに心配するのか分からない。
けれど、自分が離婚してまで貫いた関係なんだから中途半端にはするなという意味なんだろう。
「ああ、そうするよ。もう一度、婦人科に行って妊娠のことを相談するって言っていた」
「詳しくは分からないけど、男性も、あなたも一緒について行ってあげるべきよ。子どもは二人の問題なんだから」
「彼女は一緒に行くのを嫌がるんだ。自分が子供を産めないってことが許せないんだと思う。愛梨も辛いんだろう」
「そうね……ちゃんと、守ってあげなくちゃね。卵子は取り出せるかもしれないし、海外では代理出産は普通に行われていることだし。方法はいろいろあると思うわ」
もう愛梨のことは良いだろう。
「雄太は保育園に行っているのか?友達はできたんだろうか」
「お友達は沢山いるわ。近くに良い保育所があるから通っているの。この子は早生まれでしょう、皆より成長が遅いかと思っていたけど、お利口なのよ。保育園の先生もしっかりしているって誉めてくれるの」
「そうか。君に似て賢い子なのかもしれないな」
そう。美鈴は頭がよかった。
しっかり雄太を育ててくれている。
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