29 / 31
第29話
しおりを挟む「どう転んでも、雄太君の親権を得ることはできません」
「話があるって、その事ですか?美鈴の居場所を教えてくれるんじゃなかったんですか、約束が違う」
田所という探偵は書類とボイスレコーダーを持ってマンションへやってきた。
美鈴の居場所を知っているという話だった。
弁護士からも催促されていた時だったから、藁をもつかむ気持ちで彼を招き入れた。
「あなたの浮気調査を依頼されていました。今回は雄太君の親権について話をしたいと思いやってきました。勿論美鈴さんの許可を得ています」
「ああ……そういうことか」
こいつがあの証拠の数々を集めたんだな。
まったく迷惑な話だ。
「これは、本郷雄一さんと河合愛梨さんが話された内容を、プリントアウトしたものです。会話の録音はあります。スマホのメッセージもありますのでお読みください」
そこには、俺と愛梨が美鈴に子供を産ませて、自分たちが育てようという話をした内容が書かれていた。
また浮気の証拠か。もう慰謝料は払ったんだから今更読んでも同じだろう。
『雄太の親権を取って、二人目も産まれたら一緒に育てよう』
『次は女の子がいいわ』
『性別までは選べない。けど、妊娠期間と生まれてから少しの間は手がかかるから美鈴に育てさせた方が楽だろう』
『雄太君は私に慣れさせた方がいいから、ちょくちょく連れてきてね』
『愛梨が育てたら雄太はやんちゃになりそうだな』
『根暗よりよっぽどいいわよ。奥さんって地味じゃない?早く私の子どもにならないかな』
『そうだな、早く二人の子どもにしたいな』
「おい、これはなんだ!」
俺は目を見開いて書類を握りしめた。
『結婚したら家政婦さんとかシッターさんとか雇ってもいいわよね?私は仕事を続けるつもりだから』
『そうだな。美鈴みたいに家に引き籠って所帯じみて欲しくないしな』
『子供達も、インターナショナルスクールに入れられるわよ。私もそれなりに収入があるから贅沢して暮らせると思う』
「まさか、美鈴には知られてないよな?」
探偵は返事をしない。
『美鈴さんって専業主婦よね?離婚したら生活できないんじゃないかしら』
『慰謝料を払って、追い出せばいいだけだ。パートはしてるみたいだけど時給で働いてるらしいから生活は苦しいだろうな』
血の気が引いていく。
まさか……
「まさか……これ、この会話を、美鈴も聞いたのか?」
「美鈴さんも知っています」
「こんな……こんな話を、聞いたのか、俺は、なんてこと」
俺は握りしめた拳でテーブルを強く叩いた。
美鈴が、聞いた……
最低だ。俺は何て最低な人間なんだ。
美鈴はなんで言わなかったんだ。
「本気じゃなかった。そうなればいいなという感じの会話で……美鈴の事を利用しようとか……」
「利用しようとしていましたよね?美鈴さんは知っていました。それでもあなたとの結婚生活を続けていた」
「なんで、なんで彼女はそんな……」
「離婚届と、親権についての書類にサインをお願いします。もうこれ以上美鈴さんを苦しめないで下さい」
信じられない。寒くもないのに震えてきた。
いつの間にか涙が溢れだす。
俺は最低だ……
「裁判になれば、このやり取りが表に出ます。もうこれ以上、彼女に辛い思いはさせないで下さい」
「すまなかった……申し訳ない。本当に、すまない……美鈴」
テーブルに額をこすりつけるように頭を下げていた。
773
お気に入りに追加
645
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。


【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる