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第18話

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そうこうしているうちに、雄一さんが京都へ出張する日がやってきた。

私はこの日をずっと待っていた。

田所さんの事務所の探偵に夫を尾行してもらう。
新幹線で後ろの座席を取って、会話を録音して下さいと具体的なお願いをした。
夫たちの会話をバッチリ押さえて欲しい。

「雄太。今日はとても大切な日なの。ママは勝負に行くから、保育所でお友達と遊んでいてね」


私は雄太をいつもの保育所に預けて、電車に乗って府中へ向かった。
目指すは東京競馬場、秋の天皇賞GⅠレース。


サブリナドリアーナが天皇賞を制し三連単1、2、9の万馬券。
忘れもしない5年前。前回の人生でテレビで競馬中継を観ていた。
私の誕生日の日付けの馬券が万馬券になったのだ。


私は三連単1、2、9で20万円分馬券を購入した。
初めての馬券だ。

ドキドキして、手に脂汗がにじんだ。


高配当の馬券を手に入れた後、どうするかも考えている。
何度も動画で馬券を当てた人がどうするか確認し、大金を手にした人のブログを読んだ。




そしてレースが始まった。

落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。
確かに万馬券が出たと記憶しているけど、配当金がいくらかははっきり覚えていなかった。

記憶の通りサブリナドリアーナが1着に入った。
酔っぱらいのオジサンたちの中に私は立っていた。

出走馬がゴールしたと同時に、馬券が空を飛んだ。
当たらなかった人がその場で馬券を投げ捨てるようだ。

そして私は当たり馬券を握りしめていた。

『三連単、100円で32,950円』

32,950円……20万円だから。

65,900,000円。

手が震えた。


目立ったら駄目だ。競馬場にいる悪者に馬券を奪われるかもしれない。
落ち着け私……大丈夫。落ち着け。

雄太。ママやったよ!心の中で叫び声をあげた。



一生分の運を使い果たしてしまったのではないかと思いながら雄太を迎えに行って家に帰って来た。

6千590万……大金だ。

スマホに京都での夫の不貞行為の報告が入ってきている。
今はそれどころじゃない気分で部屋に入って寝ころんだ。

「ママ、ママ」

「雄太、このまま海外に飛んで一生二人で生きていけるよ」

すべて捨てて逃げ出したい。
……それでも。

『……美玖』

駄目だ。私にはまだ美玖がいる。
気合を入れなおして、田所さんにメールを入れた。


戦うための軍資金はたっぷり手に入った。
もう何も怖くないと思った。

お金があると心に余裕ができる。
前回のようにお金がないせいで、子どもにひもじい思いをさせなくても済む。
重荷を下したように清々しい気持ちになった。

嬉しい。これで優秀な弁護士を雇える。

カレンダーを確認する。

予定では1年後のちょうどこの時期、9月に私は美玖を妊娠する。
美玖の妊娠と同時に私は雄一さんと離婚する。

新居となる部屋の改修工事は終わった。
いつ引っ越してきてもいいと田所さんは言ってくれている。




京都旅行で夫と河合愛梨が交わした言葉は無責任そのものだった。

「子どもが産めない体なのか?そしてそれを旦那は慰めている。だいたい不倫しているという認識がない。この女、自分を悲劇のヒロインのように見せつけている感じがして胡散臭い」

「彼女は過去に3度は中絶をしています。あくまで噂です。その結果感染症で妊娠できない体になったようです。夫はそれも含めて彼女を愛しているようです」

「美鈴ちゃんは、そこまで知っているんだ」

「ええ。けれど、それは盗み聞きした話で証拠として残ってません」

前回の人生で違法に手に入れた情報だった。

「最低なやつだな。それに河合愛梨も、3回も中絶手術をしているなんて普通では考えられない。そもそもそんな女、俺ならば絶対お断りだ。授かった命をなんだと思ってるんだ」

田所さんは怒りに手がふるえている。

「私と離婚した後、夫と河合さんが再婚したければすればいいです。ただ、子供を産めない彼女の代わりに雄太を渡したくはありません」

「当たり前だろう。絶対、雄太をその女になんか渡さない」

田所さんは私の話を聞き、遂々憤り出してしまった。

そして私に、河合愛梨の方面から攻める作戦を提示した。

今まで私は夫のスマホやドライブレコーダー、カーナビなどから証拠を集めていた。
けれど、例えばデートした場所や食べた物、もらったプレゼントなどは女性の方が写真の残していることが多いと彼は言う。

彼女のSNSのアカウントから探りを入れるのは勿論だけど、直接接触して彼女のスマホから情報を得るのが手っ取り早いと考えたようだった。

「見せてもらえばいい」

「本人に見せてもらうんですか?」

「ああ。その方が早いし確実だ」

どうやって?

「河合愛梨本人に接触して、彼女自身から、そしてスマホから情報を得る」

「それって、盗み取るって事ですか?」

「盗むというより、本人から聞きだす」

そんな事できるんだろうか。


「僕、プロだからね」


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