11 / 31
第11話
しおりを挟む
夫が赤ちゃんの物を揃えださない私を気にしているようだ。
義母に言われたのかもしれない。
「そろそろ、ベビーベッドとか準備しなくて大丈夫なの?子供に必要な物、ちゃんと買っている?ベビーカーとかもいるだろうし」
ベビーベッドは前回も購入したけど邪魔なだけだった。
「子どもは私と同じ布団で寝るわ」
歩けるようになれば、そこでおとなしくじっとなんてしていない。
ベビーベッドのサークルなんて無意味だ。
「それでいいの?」
「いいわ」
夫に適当に返事をする。
彼は平日2日、水曜と金曜に河合愛梨と会っている。
それ以外は残業や仕事の接待もあるだろう。
遅くなる理由の全てが不倫という訳ではない。
けれど最近は土日に接待と言って出かけることも増えてきた。
1回目のように、浮気を疑って彼に早く帰って来て欲しいとお願いしたり、何をしたのか何処へ行って来たのかという細かい質問をしたりもしなかった。
そもそも夫に興味がない。
2回目のように、彼のご機嫌をとって、尽くして笑顔で優しく接する事もしなかった。
取り戻せない彼からの愛情は必要ない。
今の私の考え方は、無料の住居と食事を与えてくれる夫はATM。
食事も作らなくていいのなら、帰ってこない方が楽だとさえ思っている。
夕食を作らなければならない日は、宅配で注文している保存のきくおかずをレンチンして皿に盛って出した。
夫は気がついていないだろう。最近の冷凍食品は有能だ。
洗濯や掃除も完璧にではなく適当に済ませていたし、シャツはわざわざアイロンをかけないで、クリーニングに出した。
彼の為に何かをする事に拒否反応が出てしまうので、そこはお金で解決した。
その代金は生活費として家計簿につけているので問題はない。
彼女との逢瀬の為に新しい下着が欲しいのなら、自分で買えばいいだろう。服の趣味もこれから変わってくるんだから勝手にどうぞって感じだ。
わざわざ私が夫の洋服を用意する必要はない。
◇
「そろそろクリスマスだよな」
「……は?」
クリスマスなのは、町を歩けばわかるし、テレビでも年末に向けて特番が組まれている。
けれど、敢えてクリスマスだという言葉を私の前で発する夫に驚いた。
「そういえば、今まではイベントの日を私の方から言っていたかもしれないわね……初体験だわ」
「なんだ?」
「え、いや。何でもないわ。そうね、クリスマスよね。年末はいろいろと忙しいだろうから、よかったらクリスマスディナーとかに行ってきたらどうかしら?」
「行ってきたらって……」
「あなたも忘年会とかあるでしょうし、職場でのお付き合いも増えるでしょう。私の事は気にせず、クリスマスもお仕事頑張ってくださいね」
夫は眉間にしわを寄せた。
いや、いや、そこは喜んでしかるべきでしょう。
浮気相手と過ごせるチャンスよ。
クリスマスでもイブでも、ロマンティックに二人の時間を満喫してくれてかまわないわ。
「なにか、その……クリスマスに欲しいものとかはないの?確かに年末だから仕事が忙しく、帰宅は遅くなると思うし、クリスマスに一緒に過ごせないかもしれないから」
「ああ……クリスマスにプレゼントか。もしかして考えてくれてるの?」
そういえば前回は、ブランド物のピアスをもらったっけ。
検索すれば女性に人気のブランドって一番に出てくるピアスをプレゼントされた記憶がある。
当初は嬉しかったけど、あれは、無駄だったわ。
子どもが生まれたら、ピアスは危険だし、もし落として誤飲したらと思うとつけられなかった。
「妻へのプレゼントは忘れないよ。夫として当たり前だろう。結婚して初めてのクリスマスなんだし」
「ああ……そうよね」
私は早速、スマホで自分が欲しいものを検索して夫に見せた。
「え?これ?」
「高すぎるかしら?」
「いや、まぁ……値段は凄いけど。これ?」
K18ゴールドネックレスだ。他の宝石はついていない喜平、6面ダブルネックレス。50グラム。38万円。
「シンプルなのが良いの」
「いや、その……プロ野球選手じゃないんだし」
私が選んだネックレスは、ぶっとい何の飾り気もない歌舞伎町のホストがつけていそうな金のネックレスだった。
「私はこれが欲しいの。新婚旅行にも行けなかったしね」
新婚旅行は妊娠したからいけなかった。それに比べれば安いものだ。
高級なベビーベッドや安全を考慮した多機能ベビーカーは、重たいだけで無駄だと知っているから買わなかった。
それもいろいろ買ってないんだし38万くらい出させるでしょう。
「本当にこれが良いの?」
「ええ。これがいいわ」
金の価格は5年後3倍に高騰する。
ネックレスは資産として保有できる。
◇
1度目や2度目と違う夫の行動や言葉に驚かされる。
前回はそんなこと言わなかったのにと思うと、どうやってそれを回避しようか考えなければならない。
「美鈴、赤ん坊が生まれたら外食もできないだろうから、今度の休みにレストランにでも行く?」
「え!いやだわ……」
思わず本音が出てしまった。
「いえ、あの……もう生まれてきてもおかしくない時期でしょう?出先で破水したら困るから遠出は控えた方が良い」
「遠くじゃなくて近場でもいいよ」
「外食は食品添加物が気になるから」
「ああ、そうか。お腹に子どもがいるからその辺は気になるよな」
なんとか諦めてくれたようだ。
「雄一さんは気分転換に、ドライブにでも行ってきたらどうかしら?カップルにはおすすめの夜景スポットがあるみたいよ」
「俺、夜景好きとかじゃないけど」
「また私が行けるようになった時のために下見でもしてきたらいいじゃない」
「ひとりで?」
ひとりで男性が夜景を見に来るなんてありえないでしょう。
河合愛梨と行きなさいよ。
きっと彼女も喜ぶでしょう。
家で夫に冷たく対応すれば、逆に彼が絡んでくるという法則を3回目の人生で発見してしまった。
河合愛梨との仲が拗れたという様子はない。
雄一さんに話しかけられることが、鬱陶しくてしょうがない。
どう転ぼうが、離婚されるエンドは決まっているんだから、できるだけ私に関わってこないで欲しい。
義母に言われたのかもしれない。
「そろそろ、ベビーベッドとか準備しなくて大丈夫なの?子供に必要な物、ちゃんと買っている?ベビーカーとかもいるだろうし」
ベビーベッドは前回も購入したけど邪魔なだけだった。
「子どもは私と同じ布団で寝るわ」
歩けるようになれば、そこでおとなしくじっとなんてしていない。
ベビーベッドのサークルなんて無意味だ。
「それでいいの?」
「いいわ」
夫に適当に返事をする。
彼は平日2日、水曜と金曜に河合愛梨と会っている。
それ以外は残業や仕事の接待もあるだろう。
遅くなる理由の全てが不倫という訳ではない。
けれど最近は土日に接待と言って出かけることも増えてきた。
1回目のように、浮気を疑って彼に早く帰って来て欲しいとお願いしたり、何をしたのか何処へ行って来たのかという細かい質問をしたりもしなかった。
そもそも夫に興味がない。
2回目のように、彼のご機嫌をとって、尽くして笑顔で優しく接する事もしなかった。
取り戻せない彼からの愛情は必要ない。
今の私の考え方は、無料の住居と食事を与えてくれる夫はATM。
食事も作らなくていいのなら、帰ってこない方が楽だとさえ思っている。
夕食を作らなければならない日は、宅配で注文している保存のきくおかずをレンチンして皿に盛って出した。
夫は気がついていないだろう。最近の冷凍食品は有能だ。
洗濯や掃除も完璧にではなく適当に済ませていたし、シャツはわざわざアイロンをかけないで、クリーニングに出した。
彼の為に何かをする事に拒否反応が出てしまうので、そこはお金で解決した。
その代金は生活費として家計簿につけているので問題はない。
彼女との逢瀬の為に新しい下着が欲しいのなら、自分で買えばいいだろう。服の趣味もこれから変わってくるんだから勝手にどうぞって感じだ。
わざわざ私が夫の洋服を用意する必要はない。
◇
「そろそろクリスマスだよな」
「……は?」
クリスマスなのは、町を歩けばわかるし、テレビでも年末に向けて特番が組まれている。
けれど、敢えてクリスマスだという言葉を私の前で発する夫に驚いた。
「そういえば、今まではイベントの日を私の方から言っていたかもしれないわね……初体験だわ」
「なんだ?」
「え、いや。何でもないわ。そうね、クリスマスよね。年末はいろいろと忙しいだろうから、よかったらクリスマスディナーとかに行ってきたらどうかしら?」
「行ってきたらって……」
「あなたも忘年会とかあるでしょうし、職場でのお付き合いも増えるでしょう。私の事は気にせず、クリスマスもお仕事頑張ってくださいね」
夫は眉間にしわを寄せた。
いや、いや、そこは喜んでしかるべきでしょう。
浮気相手と過ごせるチャンスよ。
クリスマスでもイブでも、ロマンティックに二人の時間を満喫してくれてかまわないわ。
「なにか、その……クリスマスに欲しいものとかはないの?確かに年末だから仕事が忙しく、帰宅は遅くなると思うし、クリスマスに一緒に過ごせないかもしれないから」
「ああ……クリスマスにプレゼントか。もしかして考えてくれてるの?」
そういえば前回は、ブランド物のピアスをもらったっけ。
検索すれば女性に人気のブランドって一番に出てくるピアスをプレゼントされた記憶がある。
当初は嬉しかったけど、あれは、無駄だったわ。
子どもが生まれたら、ピアスは危険だし、もし落として誤飲したらと思うとつけられなかった。
「妻へのプレゼントは忘れないよ。夫として当たり前だろう。結婚して初めてのクリスマスなんだし」
「ああ……そうよね」
私は早速、スマホで自分が欲しいものを検索して夫に見せた。
「え?これ?」
「高すぎるかしら?」
「いや、まぁ……値段は凄いけど。これ?」
K18ゴールドネックレスだ。他の宝石はついていない喜平、6面ダブルネックレス。50グラム。38万円。
「シンプルなのが良いの」
「いや、その……プロ野球選手じゃないんだし」
私が選んだネックレスは、ぶっとい何の飾り気もない歌舞伎町のホストがつけていそうな金のネックレスだった。
「私はこれが欲しいの。新婚旅行にも行けなかったしね」
新婚旅行は妊娠したからいけなかった。それに比べれば安いものだ。
高級なベビーベッドや安全を考慮した多機能ベビーカーは、重たいだけで無駄だと知っているから買わなかった。
それもいろいろ買ってないんだし38万くらい出させるでしょう。
「本当にこれが良いの?」
「ええ。これがいいわ」
金の価格は5年後3倍に高騰する。
ネックレスは資産として保有できる。
◇
1度目や2度目と違う夫の行動や言葉に驚かされる。
前回はそんなこと言わなかったのにと思うと、どうやってそれを回避しようか考えなければならない。
「美鈴、赤ん坊が生まれたら外食もできないだろうから、今度の休みにレストランにでも行く?」
「え!いやだわ……」
思わず本音が出てしまった。
「いえ、あの……もう生まれてきてもおかしくない時期でしょう?出先で破水したら困るから遠出は控えた方が良い」
「遠くじゃなくて近場でもいいよ」
「外食は食品添加物が気になるから」
「ああ、そうか。お腹に子どもがいるからその辺は気になるよな」
なんとか諦めてくれたようだ。
「雄一さんは気分転換に、ドライブにでも行ってきたらどうかしら?カップルにはおすすめの夜景スポットがあるみたいよ」
「俺、夜景好きとかじゃないけど」
「また私が行けるようになった時のために下見でもしてきたらいいじゃない」
「ひとりで?」
ひとりで男性が夜景を見に来るなんてありえないでしょう。
河合愛梨と行きなさいよ。
きっと彼女も喜ぶでしょう。
家で夫に冷たく対応すれば、逆に彼が絡んでくるという法則を3回目の人生で発見してしまった。
河合愛梨との仲が拗れたという様子はない。
雄一さんに話しかけられることが、鬱陶しくてしょうがない。
どう転ぼうが、離婚されるエンドは決まっているんだから、できるだけ私に関わってこないで欲しい。
468
お気に入りに追加
645
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。


立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる