浮気夫、タイムリープで地獄行き

おてんば松尾

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第10話

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私は英会話講師としてオンラインで個別指導をする事にした。

時間給は5千円。
1日3時間授業をして、週に3日働く。

私は英語だけはずば抜けてできる。祖母の教育の賜物だった。



有難いことに、私は人気若手女優に似ているらしく、綺麗な顔をしていると言われ、生徒さんに人気だ。
受講生もサラリーマンから学生まで男性が大半を占めていた。

既婚男性に食事の誘いを受けたりもした。
妊娠していると言うと、大半はそこで諦めてくれた。

「雄太、ママって結構モテるのかもしれないわよ?」

お腹に向かってそう語りかけた。男性にちやほやされるのは女性としては嬉しい事だろう。
けれど結婚してから、雄一さん以外に愛した男性はいなかった。
惚れた腫れたなんて論外の、それどころじゃない人生を歩んできた。

今は子どもたちの親権を取り、離婚するという目標がある。
恋愛なんかはどうでもいい。

別の日。

『夫婦でね、主人と一緒に海外旅行に行くのが夢なの』

私の受講生の中に60代のご夫婦がいた。川崎夫妻だ。

『川崎さんはご夫婦ともに仲がよくて羨ましいです』

授業が終わり時間に余裕がある時は、生徒さんと普通のおしゃべりをして過ごした。

『私たちはずっと喫茶店をやっていてね、子どももいないから趣味にしかお金を使う事がないのよ』

『喫茶店を営んでいらっしゃるんですね』

このご夫婦は私の家から3駅離れた場所にお住まいだったと思う。

『先生、もしよかったら遊びに来て下さい。家も近いでしょう?』

『そうですね。ずっと家に引き籠っているので、たまには喫茶店でゆっくりしたいです』

大学までは大阪にいたから、東京に親しい友人はいなかった。
こうやって生徒さんたちとおしゃべりができる時間は嬉しい。





可愛らしいこぢんまりした喫茶店は、カウンターとテーブル席で18席ほどだろうか。
清潔感があり、ご夫婦の趣味の観葉植物がたくさん置かれていた。

私は川崎夫婦の営む喫茶店に遊びに来ていた。

「ここまでどれくらいかかりました?」

「電車は10分もかからないです。家からここまで30分くらいですかね」

「近いですし、いつでも来て下さいね」

「またランチを食べに来てもいいですか?私はもうじき出産なんですが、身寄りがいませんので川崎さんに仲良くして頂けたらとても嬉しいです」

母親のような温かみを持った川崎さんは、私の友人になった。

オンライン授業は結構高額なので、ご夫婦プランでも月に2万5千円はかかる。
直接授業をしましょうかと申し出て、会社を通さず週に1度、喫茶店へ来ることにした。
彼らはランチを御馳走してくれて、私の相談にも乗ってくれた。

何度も通ううちに、私は彼らに夫が不倫をしている事を話していた。

「離婚したとしても、一人で子どもを育てるのは大変だわ。夫婦関係の修復はできないのかしら……」

「頑張っても無理です。浮気を許す許さないの問題ではなく、彼の気持ちが私にもうないんです」

「そう……」

「先生、このビルのテナントが空いてるんだけどそこを借りたらどうかな?」

川崎さんのご主人が、ここの2階のテナントを勧めてくれた。
住まいを確保するのは絶対条件だ。
どこかに2DKくらいのアパートを借りようと思っていた。

「テナントですか?」

「商売をしようってわけじゃないんだから、先生にテナントを勧めてもしょうがないじゃない」

「いや、ここは改築するだろう?もう築40年経っているビルだし、今度大幅に改築が始まるんだ。テナント仕様にせず、住居として住めるようにしたらいい」

「そうよね。田所さんも喜ぶでしょう。かなり古いビルだから立地は良いし、賃貸料は格安だわよ」

話を聞くと、ここの2階で探偵事務所をしているという田所さんという人がこのビルのオーナーらしい。
このビルの持ち主で、探偵事務所もやっているという。

探偵と聞いて前回の記憶がよみがえった。


「探偵事務所って、看板はかかっていませんでしたけど?」

「そうなの。看板は外しているのよ。そんなに大きな事務所じゃないし、探偵も彼と後2人しかいないから。仕事をたくさん引き受ける訳にもいかないんですって。大きく宣伝はしていないから、お客さんは口コミで来るって言ってたわ」

そんな探偵事務所もあるんだなと思った。
私もそろそろ探偵に頼みたい調査があったから、凄い巡りあわせのような気がした。

田所さんに話を聞いてみよう。

私はそう決心した。


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