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第9話
しおりを挟む前回利用していた探偵事務所は優秀だった。けれど、お金を支払えなかった私に最後は冷たかった。
当たり前だ。彼らは仕事。
サクッと離婚されたらそこで仕事は終わるんだから、長引かせた方が彼らにとっては得。
浮気調査が長期間に及べば、その分収益になる。
何年間も大金を支払い続けてくれる私は上客だっただろう。
今回の浮気調査はできるだけ自分でやる。
パソコンは独身時代から使っているものがある。
スペックは良いし、問題なく使えるだろう。
今まで自分に起こった出来事を記録していく。時系列で、一度目と二度目に起こった事を書いていく。
こうやって見ていくと、酷いもんだ。
なんで私は5年もこんな状況に耐えていたんだ。
それは彼に対する愛情が残っていたから。
私は彼を愛していて、手放したくなかったんだ。
「彼のどこがよかったのか、今となっては分からないわ」
私の大きな過ちは彼を愛したこと。それに気がついた今、彼に対する愛情なんて欠片も残っていない。
最終的にはどう足掻こうが夫は私と離婚し、子どもの親権は取られる。
そして5年後私は死ぬ。
夫の不倫の証拠を掴んで、慰謝料を請求したところで探偵の調査費用はそれを上回る。
結果河合愛梨からの慰謝料ももらえたとしても私の手元に残るお金はマイナスだ。
それなら、浮気の調査なんてどうでもいい。慰謝料なんか取らないでさっさと離婚した方がいい。
けれど問題は子ども。
子ども達にはまた会いたい。美玖をお腹の中に宿すまで3年。
そしてその種は雄一さんしか持っていない。
夫から受け取る養育費なんてたかが知れてる。
独身時代もそれなりの収入はあったし、私がマックスで働いたら、それは必要ない。
問題はお金ではないのだ。
美玖ができたらすぐに離婚できるように計画を立てる。
親権はそもそも母親が有利。
今度は親権に強い弁護士を自分のお金で雇う。
私にちゃんとした収入があることを証明できれば、子どもを奪われなくて済む。
子どもの親権を確実に得るために『美玖を自分達の子にする為私を妊娠させた』という言質が取りたい。
夫は雄太を妊娠した時はそうじゃなかったけど、美玖の場合は確実に最初から私に産ませて奪うつもりでいた。
犯罪にはならないかもしれないが、倫理的には許されない行為。
それを証明するための証拠が必要だ。
今まで何百回も夫の浮気の調査報告書を読んでいる。
だからピンポイントで、夫がいつどこで浮気するのかが分かってる。
まだ子どもがお腹の中にいるこの時期なら、私自身が動く事ができるし、証拠の動画や写真は自分でも撮れる。
確実な証拠は探偵にお願いするつもりだけど、それはまだ先の話だ。
「効率的だわね。今考えたら前回のように、あんなに多くの浮気の証拠は必要なかった。私も探偵事務所に利用されていたって事ね」
4冊分の浮気の証拠なんて必要なかった。相手から取れる慰謝料は大した額ではない。
我ながら前回の自分の馬鹿さ加減に呆れてしまった。
お腹の雄太に話しかけながら苦笑した。
「雄一さんとの離婚理由はなんだっていい。性格の不一致でも離婚はできる。そもそも彼は私以外の人を愛しているんだから、離婚は容易いはず。でも雄太は、妹に会いたいよね?ママも、また美玖のママになりたいの」
◇
「働きたい?」
雄一さんが仕事から帰ってくるのを待って話をした。
普段は帰りが遅い時は先に寝ている。正確には寝たふりをしている。
今夜は雄一さんの許可を取らなければならない事があるから、仕方なく食卓に座っている。
「ええ。仕事といってもオンラインの在宅で2時間程度よ。月に数万円。お小遣いくらいにしかならないけど、私も気分転換が必要だから」
「いや、数万円の小遣いくらい俺の金から出せばいい。働く必要はないだろう。あと半年で子どもも生まれるんだから」
「じっと家の中にいるとストレスが溜まってしまうの。雄一さんは仕事で帰りが遅いでしょう?早く帰って来てとか残業はやめてとか言っちゃいそうになるから」
「残業は仕方がない。できるだけ早く帰れるようにはしようと思うが」
「スポーツジムを退会してって言いたいけど、それも雄一さんにとっては趣味でしょうから」
「そ、そうだよな。ジムは身体にもいいし。俺の趣味だしな」
焦ってるわね。
「家で筋トレしている人も多いし、機材を買った方が安いかもしれないわね……」
「いや、ジムの方が大きなマシーンもあるし、効率よく鍛えられるから」
「そうよね。じゃぁ、在宅でパートしてもいいかしら?」
「ああ。勿論いいよ。ずっと家の中で誰とも話をしない状況は胎教にも良くないだろう」
「ありがとう!」
よし。許可が出た。
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