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第8話
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「まさか入院中一度も見まいに行けないなんて思わなかった」
雄一さんが苦笑しながら、私の荷物をマンションの中に運んでくれた。
「本当にね」
適当に返事をする。
もう彼の顔を見ても、憎しみの感情しか生まれてこない。
同じ空間の空気さえ吸いたくなかった。
「悪阻がまだ完全に治まってないの。ゆっくり眠れるように寝室を別にしたいんだけど、いいかしら?」
どのみちこの先美玖を妊娠するまで彼には抱かれない。
レス状態が続くんだから寝室は別でも大丈夫だろう。
「え……そうなんだ」
驚いた表情の彼に逆に驚いた。
でも確かにこの時期はまだ新婚だし、別室で休むなんて、夫にしてみればおかしい話だったのかもしれない。
「申し訳ないけど、私の荷物を全て子供部屋に移してもらってもいいかしら」
雄一さんは怪訝な表情で、それでも悪阻で苦しんでいた妻の状態を知っているので了承してくれた。
そして私は自室を確保した。
今の時期、夫は河合愛梨と出会って彼女との仲を急速に深めているはずだ。
彼にとっても好都合だろう。
「家事が行き届かないかもしれないから、ちゃんとした食事が作れないと思うの」
「それは、勿論大丈夫だよ。美鈴が入院している間は外で食事を済ませていたし、買って食べたりしてたから気にしなくていい」
退院直後は夫も私を気遣う事ができたのね。
ふっと疲れを吐き出すように息をする。
「お弁当とかは……どうしよう?」
それまでは毎朝弁当を作っていた。2回目なんか持っていかないと分かっていても毎朝作っていた。
彼は営業で外に出る事も多いから弁当を食べられない日もある。
毎日彼の都合を聞くのも面倒だし、全部いらないと言ってくれたらそれにこした事はない。
尽くそうが、文句を言おうが、結局夫は不倫するし、離婚もする。
「弁当も、当分作らなくていいよ。元気になったらまたお願いしようかな」
「わかったわ」
一生作るつもりはないけど。
「それじゃぁ、ごめんね。少し休ませてもらいたいわ」
「疲れた?じゃぁ、夕飯の買い物でもしておこうか」
買物?買って来てくれるんだ。
おかしかった。
前回までの私は退院してすぐに彼の為に動こうとした。だから彼が自分から買い物に行くとは思ってなかった。
今回は遠慮なんてしないし、私だってあなたの為に動きたくないから。
「そうしてくれる?私の分はいらないから自分の晩御飯だけお願いします」
そう言って、自室に入ってドアを閉めた。
放っておけば自分で自分の事はやれる人だったんだ。
前回までの自分の行動に間違いがあったのを改めて知らされた気分だった。
この部屋は雄太が生まれたら私と雄太二人の部屋になる。
できるだけ居心地がいいように、今から模様替えしようと思った。
◇
翌日、雄一さんが起きて私の部屋をノックした。
「仕事に行くけど、何かあったらいつでも電話して」
「ごめんなさいね。朝から起きられなかったわ」
布団から出ずに、彼を見送った。
彼はまだ私の調子が戻らないと思っているだろうけど、もうかなり体調はいい。
前回より1週間ほど長く入院して体調も万全になってからマンションに戻ってきたのだ。
「行ってらっしゃい」
雄一さんが出勤した後、私は行動を起こす。
必要な物はネットで注文する。生活必需品と食品はネットスーパーだ。
これは生活費に分類されるから、浪費にあたらない。
そして出かける準備をして、スマホを買いに行った。
私の結婚前の口座。旧姓のままのものを使って、二台目のスマホを契約した。
そして何より、今私に必要なのは仕事だ。
できれば正社員で雇用して欲しいが、妊婦の私にそれは難しいだろう。
雄太が生まれる日付は分かっている。だからギリギリまで働くことは可能だろう。
入院中、スマホで求人情報をみて、在宅でできる仕事を探していた。
とにかく夫の扶養を抜ける。
子供の親権を確実に取る為、私は動いていく。
期限は美玖を妊娠するまで。
『あと三年』
徐々に収入を増やして、自分で保険料を支払い夫から自立する。
雄一さんが苦笑しながら、私の荷物をマンションの中に運んでくれた。
「本当にね」
適当に返事をする。
もう彼の顔を見ても、憎しみの感情しか生まれてこない。
同じ空間の空気さえ吸いたくなかった。
「悪阻がまだ完全に治まってないの。ゆっくり眠れるように寝室を別にしたいんだけど、いいかしら?」
どのみちこの先美玖を妊娠するまで彼には抱かれない。
レス状態が続くんだから寝室は別でも大丈夫だろう。
「え……そうなんだ」
驚いた表情の彼に逆に驚いた。
でも確かにこの時期はまだ新婚だし、別室で休むなんて、夫にしてみればおかしい話だったのかもしれない。
「申し訳ないけど、私の荷物を全て子供部屋に移してもらってもいいかしら」
雄一さんは怪訝な表情で、それでも悪阻で苦しんでいた妻の状態を知っているので了承してくれた。
そして私は自室を確保した。
今の時期、夫は河合愛梨と出会って彼女との仲を急速に深めているはずだ。
彼にとっても好都合だろう。
「家事が行き届かないかもしれないから、ちゃんとした食事が作れないと思うの」
「それは、勿論大丈夫だよ。美鈴が入院している間は外で食事を済ませていたし、買って食べたりしてたから気にしなくていい」
退院直後は夫も私を気遣う事ができたのね。
ふっと疲れを吐き出すように息をする。
「お弁当とかは……どうしよう?」
それまでは毎朝弁当を作っていた。2回目なんか持っていかないと分かっていても毎朝作っていた。
彼は営業で外に出る事も多いから弁当を食べられない日もある。
毎日彼の都合を聞くのも面倒だし、全部いらないと言ってくれたらそれにこした事はない。
尽くそうが、文句を言おうが、結局夫は不倫するし、離婚もする。
「弁当も、当分作らなくていいよ。元気になったらまたお願いしようかな」
「わかったわ」
一生作るつもりはないけど。
「それじゃぁ、ごめんね。少し休ませてもらいたいわ」
「疲れた?じゃぁ、夕飯の買い物でもしておこうか」
買物?買って来てくれるんだ。
おかしかった。
前回までの私は退院してすぐに彼の為に動こうとした。だから彼が自分から買い物に行くとは思ってなかった。
今回は遠慮なんてしないし、私だってあなたの為に動きたくないから。
「そうしてくれる?私の分はいらないから自分の晩御飯だけお願いします」
そう言って、自室に入ってドアを閉めた。
放っておけば自分で自分の事はやれる人だったんだ。
前回までの自分の行動に間違いがあったのを改めて知らされた気分だった。
この部屋は雄太が生まれたら私と雄太二人の部屋になる。
できるだけ居心地がいいように、今から模様替えしようと思った。
◇
翌日、雄一さんが起きて私の部屋をノックした。
「仕事に行くけど、何かあったらいつでも電話して」
「ごめんなさいね。朝から起きられなかったわ」
布団から出ずに、彼を見送った。
彼はまだ私の調子が戻らないと思っているだろうけど、もうかなり体調はいい。
前回より1週間ほど長く入院して体調も万全になってからマンションに戻ってきたのだ。
「行ってらっしゃい」
雄一さんが出勤した後、私は行動を起こす。
必要な物はネットで注文する。生活必需品と食品はネットスーパーだ。
これは生活費に分類されるから、浪費にあたらない。
そして出かける準備をして、スマホを買いに行った。
私の結婚前の口座。旧姓のままのものを使って、二台目のスマホを契約した。
そして何より、今私に必要なのは仕事だ。
できれば正社員で雇用して欲しいが、妊婦の私にそれは難しいだろう。
雄太が生まれる日付は分かっている。だからギリギリまで働くことは可能だろう。
入院中、スマホで求人情報をみて、在宅でできる仕事を探していた。
とにかく夫の扶養を抜ける。
子供の親権を確実に取る為、私は動いていく。
期限は美玖を妊娠するまで。
『あと三年』
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