25 / 28
第25話
しおりを挟む
三年半一緒に暮らしたマンションに康介と二人で帰ってきた。
帰路はお互い口をきかず、康介はずっと険しい顔をしていた。
部屋に入ったとたん、雪乃は康介に腕を掴まれる。
彼の強い力に驚いた。
「ちょっ……やめてよ、痛い!」
「……そんなに俺と離婚したかったのか!」
康介の責めるような口調に驚いた。
こんな夫の顔は知らない。
彼もことを初めて、怖いと感じた。
「放して!康介さん」
「望み通り離婚してやる。でもまだ今、雪乃は俺の妻だ」
彼はそう言うと無理やりリビングまで雪乃を引きずっていき、上半身をテーブルに押し付けた。
「やめてよ!」
雪乃は康介から逃れようと暴れるが、男性の力にはかなわない。
彼の前で一度も流さなかった涙が頬を伝う。
康介はその涙を見て腕の力を緩めた。
床に座り込み、ソファーに背を預け天井を見上げて深くため息をついた。
「すまない……」
「夫婦間であっても、一方が拒否しているのに無理やり性行為に及ぶのは性的DVよ」
「……ああ」
「最初にすんなり離婚に応じてくれていたら、こんな状態にはならなかった」
再構築をしようと互いが思っていたなら、何とかなったのかもしれない。
真奈美さんが康介を遊びの相手だと割り切っていたのなら、あの半年間のくだらない契約も意味を成したのかもしれない。
全てが最悪の方向へ進んでしまい、もう取り返しがつかない。
「これで最後だからお願いと言われ、真奈美を抱いた。抱きたいわけではなかったが、最後にしてもらえるなら何でもいいと思った」
「私は、あなたが浮気をしてもいいと言った半年の間、誰にも抱かれてないわ」
雪乃は浮気をしていいという契約だった半年の間、他の男性に体を許さなかった。
夫が裏切ったからと言って、自分が同じことをできるかと言われれば、できなかった。
「……そう、だったのか……」
「愛がなくても、体の関係は持てるわよね。世の中にはお金で性を売る商売だってあるんだから。でも、するかしないかは本人の意思の持ちようだと思う」
きっと康介が言うように、真奈美さんが騙して再び体の関係を持ったのかもしれない。
康介は真奈美にまんまと嵌められてしまったのかもしれない。
「俺が、馬鹿だった。雪乃を取り戻したくて必死だった。結果的に辛い思いをさせてしまった。本当にすまなかった」
康介の声は震えていた。
「雪乃……離婚しよう」
翌朝、康介がサインした離婚届がダイニングテーブルの上に置いてあった。
帰路はお互い口をきかず、康介はずっと険しい顔をしていた。
部屋に入ったとたん、雪乃は康介に腕を掴まれる。
彼の強い力に驚いた。
「ちょっ……やめてよ、痛い!」
「……そんなに俺と離婚したかったのか!」
康介の責めるような口調に驚いた。
こんな夫の顔は知らない。
彼もことを初めて、怖いと感じた。
「放して!康介さん」
「望み通り離婚してやる。でもまだ今、雪乃は俺の妻だ」
彼はそう言うと無理やりリビングまで雪乃を引きずっていき、上半身をテーブルに押し付けた。
「やめてよ!」
雪乃は康介から逃れようと暴れるが、男性の力にはかなわない。
彼の前で一度も流さなかった涙が頬を伝う。
康介はその涙を見て腕の力を緩めた。
床に座り込み、ソファーに背を預け天井を見上げて深くため息をついた。
「すまない……」
「夫婦間であっても、一方が拒否しているのに無理やり性行為に及ぶのは性的DVよ」
「……ああ」
「最初にすんなり離婚に応じてくれていたら、こんな状態にはならなかった」
再構築をしようと互いが思っていたなら、何とかなったのかもしれない。
真奈美さんが康介を遊びの相手だと割り切っていたのなら、あの半年間のくだらない契約も意味を成したのかもしれない。
全てが最悪の方向へ進んでしまい、もう取り返しがつかない。
「これで最後だからお願いと言われ、真奈美を抱いた。抱きたいわけではなかったが、最後にしてもらえるなら何でもいいと思った」
「私は、あなたが浮気をしてもいいと言った半年の間、誰にも抱かれてないわ」
雪乃は浮気をしていいという契約だった半年の間、他の男性に体を許さなかった。
夫が裏切ったからと言って、自分が同じことをできるかと言われれば、できなかった。
「……そう、だったのか……」
「愛がなくても、体の関係は持てるわよね。世の中にはお金で性を売る商売だってあるんだから。でも、するかしないかは本人の意思の持ちようだと思う」
きっと康介が言うように、真奈美さんが騙して再び体の関係を持ったのかもしれない。
康介は真奈美にまんまと嵌められてしまったのかもしれない。
「俺が、馬鹿だった。雪乃を取り戻したくて必死だった。結果的に辛い思いをさせてしまった。本当にすまなかった」
康介の声は震えていた。
「雪乃……離婚しよう」
翌朝、康介がサインした離婚届がダイニングテーブルの上に置いてあった。
438
お気に入りに追加
439
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
伯爵令嬢は、愛する二人を引き裂く女は悪女だと叫ぶ
基本二度寝
恋愛
「フリージア様、あなたの婚約者のロマンセ様と侯爵令嬢ベルガモ様は愛し合っているのです。
わかりませんか?
貴女は二人を引き裂く悪女なのです!」
伯爵家の令嬢カリーナは、報われぬ恋に嘆く二人をどうにか添い遂げさせてやりたい気持ちで、公爵令嬢フリージアに訴えた。
彼らは互いに家のために結ばれた婚約者を持つ。
だが、気持ちは、心だけは、あなただけだと、周囲の目のある場所で互いの境遇を嘆いていた二人だった。
フリージアは、首を傾げてみせた。
「私にどうしろと」
「愛し合っている二人の為に、身を引いてください」
カリーナの言葉に、フリージアは黙り込み、やがて答えた。
「貴女はそれで構わないの?」
「ええ、結婚は愛し合うもの同士がすべきなのです!」
カリーナにも婚約者は居る。
想い合っている相手が。
だからこそ、悲恋に嘆く彼らに同情したのだった。
心を失った彼女は、もう婚約者を見ない
基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。
寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。
「こりゃあすごい」
解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。
「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」
王太子には思い当たる節はない。
相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。
「こりゃあ対価は大きいよ?」
金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。
「なら、その娘の心を対価にどうだい」
魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。
「子供ができた」と夫が愛人を連れてきたので祝福した
基本二度寝
恋愛
おめでとうございます!!!
※エロなし
ざまぁをやってみたくて。
ざまぁが本編より長くなったので割愛。
番外編でupするかもしないかも。
選択を間違えた男
基本二度寝
恋愛
出席した夜会で、かつての婚約者をみつけた。
向こうは隣の男に話しかけていて此方に気づいてはいない。
「ほら、あそこ。子爵令嬢のあの方、伯爵家の子息との婚約破棄されたっていう」
「あら?でも彼女、今侯爵家の次男と一緒にいらっしゃるけど」
「新たな縁を結ばれたようよ」
後ろにいるご婦人達はひそひそと元婚約者の話をしていた。
話に夢中で、その伯爵家の子息が側にいる事には気づいていないらしい。
「そうなのね。だからかしら」
「ええ、だからじゃないかしら」
「「とてもお美しくなられて」」
そうなのだ。彼女は綺麗になった。
顔の造作が変わったわけではない。
表情が変わったのだ。
自分と婚約していた時とは全く違う。
社交辞令ではない笑みを、惜しみなく連れの男に向けている。
「新しい婚約者の方に愛されているのね」
「女は愛されたら綺麗になると言いますしね?」
「あら、それは実体験を含めた遠回しの惚気なのかしら」
婦人たちの興味は別の話題へ移った。
まだそこに留まっているのは自身だけ。
ー愛されたら…。
自分も彼女を愛していたら結末は違っていたのだろうか。
眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
その言葉はそのまま返されたもの
基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。
親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。
ただそれだけのつまらぬ人生。
ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。
侯爵子息アリストには幼馴染がいる。
幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。
可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。
それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。
父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。
幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。
平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。
うんざりだ。
幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。
彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。
比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。
アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。
まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる