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第21話

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雪乃はそれから前島さんの家へ行くのをやめた。
香さんへの愛情に前島さんが気付いたからだ。

前島さんは、雪乃の契約の半年が来るまでは手を貸すと言ってくれた。
自分の気持ちに気付かせてくれた恩があるし、乗りかかった舟だからと。

けれど、香さんは、体の関係がないにしろ他の女が前島さんのアパートに出入りすることをよくは思わないだろう。

「ということで、先輩の面倒を私がみることになったわけですね」

「別に一人でも時間を潰すことはできるわよ」

会社近くの温泉施設で天ざるそばを食べながら綾ちゃんに前島さんの事情を話していた。

「実際は違うけど、康介さんは前島さんを雪乃先輩の不倫相手だと思ってるんですよね?毎週男の家へ通っている妻を、いったいどんな気持ちで見ているんでしょうね。旦那さんって変わってますよね」


「そこまで我慢しても私と別れない理由が分からないわ」

少なくとも雪乃は、当時康介が浮気していることを知らなかったから、同じベッドで眠れたのだと思う。今の夫は、全く違う意味で苦しんでいるはずだ。


「真奈美さんから慰謝料が振り込まれたの」


「そうなんですね。300万でしたっけ?凄いボーナスじゃないですか」

「真奈美さんのご主人が払ったのか夫が払ったのか聞いたわ」

「え!旦那さんが不倫相手の慰謝料を持ったんですか?」

「康介は、私が請求した300万と同じ額を、慰謝料として真奈美さんのご主人に振り込んだの。300万が互いの家を行き来したことになるわ。結果、夫が支払ったと言われればそういう事になるかもしれないわね」


「じゃぁ、先輩が弁護士費用も含めて750万をご主人から受け取った事になったんですね」

「まぁ、そうなるかな。あちらの夫婦は、旦那さんが浮気していたから、その分の慰謝料を妻である真奈美さんに支払ったみたいだし、彼らは離婚した。子共の親権は真奈美さんが持った。養育費は子供さんが成人するまで支払われるそうよ」

「先輩、やけに詳しいですね」


***********************


「離婚の原因はご主人の浮気だけど、結局真奈美さんも康介と浮気していたわけだし、康介も話し合いに参加してたようよ。だから康介からあちらの家庭の事情は聞いているわ。慰謝料の清算が終われば、真奈美さんとは連絡を取らないって言ってた」

康介の帰りはここ何週間か遅かった。
土日も家にいる事が少なかった。
真奈美さんとの話し合いが拗れているんだなと感じていた。


綾ちゃんは首をひねった。


「おかしくないですか?」

「なんで?」

「真奈美さんは自分の旦那さんから慰謝料をもらったんですよね?でも真奈美の浮気に対する、嫁からの慰謝料は支払われなかったんですよね?それって、ご主人は自分の浮気の慰謝料を妻に払って、離婚して子供を取られた。妻は得なだけですよね?」


「ご主人は仕事しているし子供を育てるのって無理でしょう?それに、ご主人はお金を払ってでも、不倫相手と早く一緒になりたかったんじゃないかしら。私は、あちらの家庭がどうなろうが関係ないと思っているから、詳しくは分からないし、知りたくもないわ」


綾ちゃんはスマホを出して何かを検索している。


「私って、雪乃先輩の陰の手下として活躍してたじゃないですか」

「ええ、かなり手助けしてくれたわ。ありがとう」


「真奈美さんの情報をいろいろ探していた時、彼女の子育てブログを発見したんです。まぁ、あまり関係ないなと思ってチラ見しかしていなかったんですが」

雪乃は綾ちゃんが送ってくれたブログのURLで彼女の子育てブログを見る。

「家族仲が悪いようには見えないわね……」

「そうです。単身赴任で夫がいないことは、書いてましたけど、ご主人がたまに帰ってきた時や、お子さんの誕生日には一緒にパーティー開いたりしてたし、幸せ家族そのものですよ」

新米ママの子育て日記っという名前で、日々の子供たちの成長や、ちょっとしたエピソードなんかをあげているものだった。


「旦那さんの浮気には触れてないわね……でも、子育てに関するブログだしわざわざ身内の恥をさらさないでしょう」

「真奈美さんのご主人って、本当に浮気をしてたんですか?これを読んだ限りは、子煩悩なパパにみえるんですけど」

そう言われてみると、確かにパパと会えなくて寂しがっている子供たちの様子や、久しぶりに会えた時の喜びの画像なんかが幸せそうにアップされている。
旦那さんの顔はモザイク処理されているけど、お子さんの写真はデジタルタトゥー状態であがっていた。



「康介は、ご主人が以前から浮気していて、真奈美さんはそれに悩んでいたと言っていたわ。真奈美さんも旦那さんの浮気を、康介に相談していたって」

「康介さんが言ってたんですよね?雪乃さんは康介さんと真奈美さんからそのことを聞いた。あちらのご主人からは聞いていないんですよね」


「そう……だけど……」
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