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第13話
しおりを挟む真奈美さんは自分のSNSのアカウントを簡単に雪乃に教えた。
馬鹿でもなければ、自ら不倫の証拠なんて提示しない。
この人は、自分の不倫の写真をわざわざ妻である私に見せたいんだ。
雪乃はそう確信した。
「これが証拠になって、あなたは私から慰謝料請求されるかもしれません」
「それも覚悟の上です。だいたい200万くらいが上限ですよね。1年の不倫ですし。けれど、それは康介さんが払うと言ってくれているので。もう、私には何もできません」
この女の慰謝料を、康介が……支払うの?
嘘でしょう。
「康介とはまだ付き合いが続いているのですか?」
「あの日、エグゼホテルのディナーのときに別れました。康介さんは奥様に関係がバレたので別れると言っていました」
「ホテルのディナーを……もしかして康介と一緒に食べました?」
「はい。最後の晩餐と言いますか、もうお別れだという事で一緒に食事をしました」
離婚を切り出したあの日、彼女に別れを告げに行くと焦ってマンションを飛び出して、エグゼホテルでディナー?食べたの?
信じられない。
「……嘘でしょう」
「ホテルのレストランで、奥さんにスマホを壊されたから、もう連絡ができないと康介さんが言っていました。彼は私の番号を記憶してませんし、今は連絡が取れません」
いや、もうとっくにスマホのデータは復活してるし。
連絡を取ることは可能だろう。
しないのであって、できないわけではない。
「ひとつだけ、大事なことを聞きますね。真奈美さんは、現在のご主人と離婚して康介と一緒になりたいと思っていますか?」
「……ううっ……それは……私には子供がいます。離婚はできません。けれど、康介さんは私にとって一番大事な人で、今でも愛しています。もし、もし……奥様との離婚が成立し康介さんが独身になったら、私は夫と離婚してでも、彼と生きていきたいと思っています」
「は?」
もはや、驚きを通り越して悪寒がする。
「ごめんなさい……ううっ……正直な気持ちです。本当に申し訳ありません」
彼女は泣きながらテーブルに突っ伏してしまった。もうなんか、わざとらしいというか、演技ですよね、としか言いようがない。呆れて物が言えないとはこういう事だと思った。
真奈美さんが泣いている間に、スマホで彼女のSNSを確認した。
アカウント名は『MANA=KOU』1年前に作られている裏垢だ。
行ったレストラン、泊まったホテル。旅行した温泉宿。もらったプレゼント。
私は急いでアカウント情報を綾ちゃんにラインで送って、証拠を確保して貰う。
綾ちゃんはこういった作業は得意だ。
スクショ案件は全て完璧にこなす。
あとから真奈美さんが削除しても、綾ちゃんが魚拓で残す。
もう、完全に終わったわ。
康介さん、あなた地雷女を引き当てたわね。
************************
雪乃は今日の事は康介に話さないと決めた。
弁護士を雇って、彼女を訴えるつもりだ。
もう、事を荒立てず穏便に済ますという考えは雪乃にはなかった。
彼女から宣戦布告されたんだから、なにも遠慮する事はないだろう。
徹底的にやっつける。
準備期間が必要だった。
弁護士を雇い、証拠を揃えなければならない。
康介との話し合いも何度かしなくてはならないだろう。
真奈美さんは慰謝料を支払い謝罪をすればそれで事は終わると思っている。
彼女は自分がしたことを軽く考えすぎている。
康介とは3年夫婦として過ごしてきた。
彼は策士だし、頭もキレる。
けれど、そんな彼が選んだ相手が、子持ちの真奈美さん?
康介はいったい何を思っているのかが知りたかった。
なぜ?どうして?理由はあるはずだと思った。
ただの浮気で遊びの関係の真奈美さんの方が私より優れていたのか。
もう女として雪乃を見られなくなったのか。
真奈美さんの言うことを全て信じれば、康介はまだ真奈美さんのことを愛していて別れたくないと心の中で思っているはずだ。
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