1 / 28
1プロローグ
しおりを挟む
スペイン料理を出すバル。
仕事帰りの客で店内は賑わっている。
河津雪乃と坂本綾は生ハムと魚介のミックスアヒージョを食べながら、ワインを飲んでいた。
「だから、結婚しているっていうだけの話です。愛情が他に移ってしまった夫とずっと一緒に居たいっていう根性が意味不明なんです」
綾は生意気な口はきくが、なかなか根性がある雪乃の3つ下の後輩だ。
良くも悪くも何かを実行する上で恐怖を有していない彼女はある意味尊敬できる。
「そうなんだ」
雪乃はいつもの脈絡のない話の流れに適当に相槌を打った。
「奥さんよりも愛する女の人ができたわけですよ?愛情がなくなっている人と一緒に居ようと思うのがそもそも間違いなんです」
「え……と。それって不倫相手が正しいっていうこと?」
雪乃は驚いた様子で綾を見る。綾は独身だけど自分は既婚者だ。
「正しい、正しくないの問題ではなく。旦那さんの愛情がないのに、夫婦関係を継続しようとする嫁がおかしいって言ってるんです」
「なるほど」
雪乃は苦笑しながらにワインを一口飲む。
「何が言いたいかというと、旦那が浮気して他に好きな人ができた場合、速やかに離婚するべきって話です。結婚って契約みたいなものですよね?でも、契約したからって他に愛する人ができたのなら別れるしかないじゃないですか?旦那さんに執着して、貴方が悪いとか意味が解らない。諦めるしかないじゃないですか?」
「そういう考え方もあるのね」
「ただし、子どもがいたら別です。責任が生じますから。その場合は愛情がなくなっても一緒に居なくてはいけないです。子どもにには未来があるんで、育てる責任は親が同等に持たなくちゃいけません」
「子どもがいなければ、離婚すべきってことね。相手が妻を裏切り浮気してたとしても、離婚は必ずしなくちゃ駄目ってこと」
「逆に、離婚しない理由は何なんだと思います」
綾は身を乗り出し、雪乃に質問する。
雪乃は少し考えて。
「夫を愛しているから、あるいは結婚の誓いを立てから?」
「そんなの一生添い遂げるってその時点で思っていた事に過ぎませんよね」
「時が経てば気持ちは変わるってことが言いたいのね。不倫相手の女性には、問題はないってこと?人の旦那を奪ったのよ」
「相手の男性が妻より不倫相手を選んだ。ただそれだけの話です。不倫相手にはなんの責任もないです。旦那の愛する人が代わったってだけです。それは仕方なくないですか?」
仕方ないの一言で片づけられるような関係でもないと思うけど。
「ただの恋人関係と、婚姻関係は違うんじゃないかしら」
「だから、婚姻届けを出してなかったら同棲している彼氏ってだけで。彼氏に他に好きな子ができたから別れたって話と同じです。その場合、彼氏やその好きになった相手から慰謝料とか取らないですよね?だから、たかが紙一枚での契約にこだわって泥沼離婚劇する嫁側の心理が解らないんです」
「離婚されないように愛情をつなぎとめろってことよね」
まぁ、一理あるのかもしれない。
なにも浮気は夫がするものと決まっている訳ではない。逆もあるんだから。
「自分が愛していたとしても、一方通行じゃ不幸なだけだし、惨めでしょう?」
「確かにね」
「という訳だから、不倫相手に対する慰謝料請求はなしって事でいいですね」
「……?」
「嫁が一番強いって、おかしくないです?」
「不倫は悪でしょう。昔、姦通罪っていう罪もあったんだし」
「それって女性は告訴することができなかった罪ですよね。不公平です。だからそんなくっだらない法律はなくなったんです。今後も変わっていくべきです。不倫相手への慰謝料請求はなしってことで万事OK 」
「嫁が悪いと」
「そうです。愛されなかった嫁が悪い」
雪乃は、呆気にとられた様子で眉を上げた。
愛されなかった嫁が悪い……
仕事帰りの客で店内は賑わっている。
河津雪乃と坂本綾は生ハムと魚介のミックスアヒージョを食べながら、ワインを飲んでいた。
「だから、結婚しているっていうだけの話です。愛情が他に移ってしまった夫とずっと一緒に居たいっていう根性が意味不明なんです」
綾は生意気な口はきくが、なかなか根性がある雪乃の3つ下の後輩だ。
良くも悪くも何かを実行する上で恐怖を有していない彼女はある意味尊敬できる。
「そうなんだ」
雪乃はいつもの脈絡のない話の流れに適当に相槌を打った。
「奥さんよりも愛する女の人ができたわけですよ?愛情がなくなっている人と一緒に居ようと思うのがそもそも間違いなんです」
「え……と。それって不倫相手が正しいっていうこと?」
雪乃は驚いた様子で綾を見る。綾は独身だけど自分は既婚者だ。
「正しい、正しくないの問題ではなく。旦那さんの愛情がないのに、夫婦関係を継続しようとする嫁がおかしいって言ってるんです」
「なるほど」
雪乃は苦笑しながらにワインを一口飲む。
「何が言いたいかというと、旦那が浮気して他に好きな人ができた場合、速やかに離婚するべきって話です。結婚って契約みたいなものですよね?でも、契約したからって他に愛する人ができたのなら別れるしかないじゃないですか?旦那さんに執着して、貴方が悪いとか意味が解らない。諦めるしかないじゃないですか?」
「そういう考え方もあるのね」
「ただし、子どもがいたら別です。責任が生じますから。その場合は愛情がなくなっても一緒に居なくてはいけないです。子どもにには未来があるんで、育てる責任は親が同等に持たなくちゃいけません」
「子どもがいなければ、離婚すべきってことね。相手が妻を裏切り浮気してたとしても、離婚は必ずしなくちゃ駄目ってこと」
「逆に、離婚しない理由は何なんだと思います」
綾は身を乗り出し、雪乃に質問する。
雪乃は少し考えて。
「夫を愛しているから、あるいは結婚の誓いを立てから?」
「そんなの一生添い遂げるってその時点で思っていた事に過ぎませんよね」
「時が経てば気持ちは変わるってことが言いたいのね。不倫相手の女性には、問題はないってこと?人の旦那を奪ったのよ」
「相手の男性が妻より不倫相手を選んだ。ただそれだけの話です。不倫相手にはなんの責任もないです。旦那の愛する人が代わったってだけです。それは仕方なくないですか?」
仕方ないの一言で片づけられるような関係でもないと思うけど。
「ただの恋人関係と、婚姻関係は違うんじゃないかしら」
「だから、婚姻届けを出してなかったら同棲している彼氏ってだけで。彼氏に他に好きな子ができたから別れたって話と同じです。その場合、彼氏やその好きになった相手から慰謝料とか取らないですよね?だから、たかが紙一枚での契約にこだわって泥沼離婚劇する嫁側の心理が解らないんです」
「離婚されないように愛情をつなぎとめろってことよね」
まぁ、一理あるのかもしれない。
なにも浮気は夫がするものと決まっている訳ではない。逆もあるんだから。
「自分が愛していたとしても、一方通行じゃ不幸なだけだし、惨めでしょう?」
「確かにね」
「という訳だから、不倫相手に対する慰謝料請求はなしって事でいいですね」
「……?」
「嫁が一番強いって、おかしくないです?」
「不倫は悪でしょう。昔、姦通罪っていう罪もあったんだし」
「それって女性は告訴することができなかった罪ですよね。不公平です。だからそんなくっだらない法律はなくなったんです。今後も変わっていくべきです。不倫相手への慰謝料請求はなしってことで万事OK 」
「嫁が悪いと」
「そうです。愛されなかった嫁が悪い」
雪乃は、呆気にとられた様子で眉を上げた。
愛されなかった嫁が悪い……
226
お気に入りに追加
355
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された悪役令嬢は即死しました。私が死んだせいで婚約者が破滅したようですが知りません。
レオナール D
恋愛
王太子が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。
身に覚えのない罪状で断罪された公爵令嬢は王太子に縋りつくが、「私に触るな!」と突き飛ばされてしまう。
そのまま倒れる公爵令嬢であったが……その場にいた全ての人間が騒然とした。
打ちどころが悪かったのだろう、公爵令嬢は即死していたのである。
婚約者を殺害してしまった王太子は、坂道を転がり落ちるようにして破滅していく。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私の作った料理を食べているのに、浮気するなんてずいぶん度胸がおありなのね。さあ、何が入っているでしょう?
kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ?
「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」
まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。
旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
18歳の誕生日を迎える数日前に、嫁いでいた異母姉妹の姉クラリッサが自国に出戻った。それを出迎えるのは、オレーリアの婚約者である騎士団長のアシュトンだった。その姿を目撃してしまい、王城に自分の居場所がないと再確認する。
魔法塔に認められた魔法使いのオレーリアは末姫として常に悪役のレッテルを貼られてした。魔法術式による功績を重ねても、全ては自分の手柄にしたと言われ誰も守ってくれなかった。
つねに姉クラリッサに意地悪をするように王妃と宰相に仕組まれ、婚約者の心離れを再確認して国を出る覚悟を決めて、婚約者のアシュトンに別れを告げようとするが──?
※R15は保険です。
※騎士団長ヒーロー企画に参加しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる