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1プロローグ

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スペイン料理を出すバル。
仕事帰りの客で店内は賑わっている。

河津雪乃かわつゆきの坂本綾さかもとあやは生ハムと魚介のミックスアヒージョを食べながら、ワインを飲んでいた。

「だから、結婚しているっていうだけの話です。愛情が他に移ってしまった夫とずっと一緒に居たいっていう根性が意味不明なんです」

綾は生意気な口はきくが、なかなか根性がある雪乃の3つ下の後輩だ。
良くも悪くも何かを実行する上で恐怖を有していない彼女はある意味尊敬できる。

「そうなんだ」

雪乃はいつもの脈絡のない話の流れに適当に相槌を打った。

「奥さんよりも愛する女の人ができたわけですよ?愛情がなくなっている人と一緒に居ようと思うのがそもそも間違いなんです」

「え……と。それって不倫相手が正しいっていうこと?」

雪乃は驚いた様子で綾を見る。綾は独身だけど自分は既婚者だ。

「正しい、正しくないの問題ではなく。旦那さんの愛情がないのに、夫婦関係を継続しようとする嫁がおかしいって言ってるんです」

「なるほど」

雪乃は苦笑しながらにワインを一口飲む。

「何が言いたいかというと、旦那が浮気して他に好きな人ができた場合、速やかに離婚するべきって話です。結婚って契約みたいなものですよね?でも、契約したからって他に愛する人ができたのなら別れるしかないじゃないですか?旦那さんに執着して、貴方が悪いとか意味が解らない。諦めるしかないじゃないですか?」

「そういう考え方もあるのね」

「ただし、子どもがいたら別です。責任が生じますから。その場合は愛情がなくなっても一緒に居なくてはいけないです。子どもにには未来があるんで、育てる責任は親が同等に持たなくちゃいけません」

「子どもがいなければ、離婚すべきってことね。相手が妻を裏切り浮気してたとしても、離婚は必ずしなくちゃ駄目ってこと」

「逆に、離婚しない理由は何なんだと思います」

綾は身を乗り出し、雪乃に質問する。
雪乃は少し考えて。

「夫を愛しているから、あるいは結婚の誓いを立てから?」

「そんなの一生添い遂げるってその時点で思っていた事に過ぎませんよね」

「時が経てば気持ちは変わるってことが言いたいのね。不倫相手の女性には、問題はないってこと?人の旦那を奪ったのよ」

「相手の男性が妻より不倫相手を選んだ。ただそれだけの話です。不倫相手にはなんの責任もないです。旦那の愛する人が代わったってだけです。それは仕方なくないですか?」

仕方ないの一言で片づけられるような関係でもないと思うけど。

「ただの恋人関係と、婚姻関係は違うんじゃないかしら」

「だから、婚姻届けを出してなかったら同棲している彼氏ってだけで。彼氏に他に好きな子ができたから別れたって話と同じです。その場合、彼氏やその好きになった相手から慰謝料とか取らないですよね?だから、たかが紙一枚での契約にこだわって泥沼離婚劇する嫁側の心理が解らないんです」

「離婚されないように愛情をつなぎとめろってことよね」

まぁ、一理あるのかもしれない。
なにも浮気は夫がするものと決まっている訳ではない。逆もあるんだから。

「自分が愛していたとしても、一方通行じゃ不幸なだけだし、惨めでしょう?」

「確かにね」

「という訳だから、不倫相手に対する慰謝料請求はなしって事でいいですね」

「……?」

「嫁が一番強いって、おかしくないです?」

「不倫は悪でしょう。昔、姦通罪っていう罪もあったんだし」

「それって女性は告訴することができなかった罪ですよね。不公平です。だからそんなくっだらない法律はなくなったんです。今後も変わっていくべきです。不倫相手への慰謝料請求はなしってことで万事OK 」

「嫁が悪いと」

「そうです。愛されなかった嫁が悪い」

雪乃は、呆気にとられた様子で眉を上げた。

愛されなかった嫁が悪い……





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