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勝負の時
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この土地に嵐をよぶという作業は、激しく体力を消耗した。
強風で吹き飛ばされ、落雷に打たれそうになりながら、私は必死にやり遂げた。
全てが終わった時には、その場に倒れ込んで意識が朦朧とした状態になった。
オリバー様はそんな私の世話をずっとしてくれた。
濡れた髪を乾かし、食事を食べさせ、強張った筋肉をマッサージしてくれる。
土壌が完璧に乾く前にまた雨を降らせた。私はそれを繰り返した。
これからに備えて、オリバー様はここに拠点となる基地を建てた。大理石でできた頑丈なものだ。
それからひと月が経ち、王都の周りではイナゴの被害が拡大し始めた。
そろそろ決行の時期だ。
砂煙のようなイナゴの大群がタイムリーパーのフェロモンに誘導され、父の広大な土地へやって来る。
八人のタイムリーパーたちの戦い。本番の幕開けだ。
イナゴを集めては凍らせ、次の集団を呼び、また凍らせ、焼き払った。
焼け落ちた葉に新しく土を混ぜ雨を降らせ草を育てまた焼き払い。
繰り返しの作業は精神的にも肉体的にも私たちを蝕んでいく。
けれど国民と自分たちの命がかかっている。
「壌土」はもっとも作物が育ちやすい土だ。
焼き払った後の灰は肥料になるが、すぐには作物が育たない。
その為オリバー様と共に良い壌土を作り直す。そこの層から土を掘り起こして、私が雨を降らす。
「大丈夫か?疲れていない?」
オリバー様が声をかけてくれた。
疲れてはいても動けない程でもない。
「大丈夫です」
以前はあまり気に留めていなかったが、オリバー様は使用人達にも声をかけてくれる思いやりのある方だった。
かなりの距離を移動する。私達は一日でかなりの距離を移動する。
「この土地は全て足場が悪いから舗装した道を作る方が効率が上がるかもしれない」
彼はそう言いながら地図を確認した。
「むやみやたらと作るのではなく、できるだけ真っすぐでシンプルな道の方がいいです。五番目のような。できればシンメトリーにするのがいいかと」
「流石、荘園を手掛けていただけあるな」
畑でも道でも、商店でもアパートでも。先に道を作るのが効率的だ。
「そういえば、この辺りはまだ掘っていませんでした」
「ん?掘る?」
「はい。父が無駄なダイヤを捜していろいろ採掘していたんです。全く何も出なかったんですけれどね。ここら辺は、粘土質でなかなか作業が進まず、まだ掘ってなかった場所です」
年度に足を取られ転びそうになった。
オリバー様がグイっと引き上げてくれる。
「気を付けて」
「ええ。ありがとうございます。粘土土は水はけが悪いですけど栄養を含んでますからすぐにまた草が生えますね」
そう言いながら、私達は作業に戻った。
新しい壌土をどんどん作る。がガガガッと音を立てて、地面が下から上へ動いたかと思うと、今度はぐるりとひっくり返って混ざり合うような土へと変化する。
区画を整理して焼き払う場所、凍らす場所、休ませる場所に分けて皆がそれぞれ作業をした。
「あんなに面倒な虫でも、畑の良い肥料になる。そう思えば少しはこの苦労も報われる気がするな」
「そもそもイナゴがいなければこんなことしなくて済んだんですけどね」
「まぁ、そうい……ん?」
「どうかしましたか?」
オリバー様が何か見つけたらしい。イナゴの生き残りだったら嫌だなと思い覗き込んだ。手には黒っぽい石の塊を持っている。
「これは、ダイヤだ」
「え?うそ!」
オリバー様は大粒のダイヤを手のひらに乗せて私の方へ差し出した。
それは土と灰に塗れて汚れてるが透明でキラキラ光っている。
「私の力で粉砕されない石はない。この大きさで残っているのは珍しい。かなりの強度があるという事だ」
「水晶じゃないでしょうか?ダイヤモンドとは違う気がします」
ダイヤと水晶では全く価値が違う。
それに水晶はそんなに硬くはないだろう。
確かにこの石には水晶ではない輝きがある気がする。
二人で辺りを見回したが、それらしい石は他にはなかった。
「詳しくは分からないけど、ここには、本当にダイヤが埋まっているのかもしれないぞ」
彼は冗談とも本気ともつかない言葉をつぶやいた。
「どうしましょう……」
「どうしようか」
とにかく、この石は持って帰って皆に見せようという話になった。
後にわかったが、それは確かにダイヤモンドだった。
これは父が買った土地だからと、父にその石を渡す事になった。
その他にも作業中にはいろんなものが出てきた。一番すごかったのが温泉が湧き出てきた事だった。
正直、イナゴ退治にはかなり迷惑な発見だった。
「この際、皆が休めるように温泉の部分だけ湯船を作ったらどうかしら?」
フェロモンを操るテレーネがオリバーに訊ねた。
「いや……どうかな……」
「温泉を作って、毎晩湯船に浸かれるようにしよう」
フェリペ王子が許可を出した。
王子の一声で皆の表情が輝いた。
全員働き過ぎていたので、ちょっとした娯楽ができる事が嬉しかった。
そのせいでオリバー様の仕事が増えてしまった事は言うまでもないけど、彼は文句を言わずに、大理石で作るよと言ってくれた。
私はオリバー様と一緒に働く時間の中で、彼の人柄に触れる事ができた。
いつも私を気にかけてくれる優しさにどんどん魅かれていった。
強風で吹き飛ばされ、落雷に打たれそうになりながら、私は必死にやり遂げた。
全てが終わった時には、その場に倒れ込んで意識が朦朧とした状態になった。
オリバー様はそんな私の世話をずっとしてくれた。
濡れた髪を乾かし、食事を食べさせ、強張った筋肉をマッサージしてくれる。
土壌が完璧に乾く前にまた雨を降らせた。私はそれを繰り返した。
これからに備えて、オリバー様はここに拠点となる基地を建てた。大理石でできた頑丈なものだ。
それからひと月が経ち、王都の周りではイナゴの被害が拡大し始めた。
そろそろ決行の時期だ。
砂煙のようなイナゴの大群がタイムリーパーのフェロモンに誘導され、父の広大な土地へやって来る。
八人のタイムリーパーたちの戦い。本番の幕開けだ。
イナゴを集めては凍らせ、次の集団を呼び、また凍らせ、焼き払った。
焼け落ちた葉に新しく土を混ぜ雨を降らせ草を育てまた焼き払い。
繰り返しの作業は精神的にも肉体的にも私たちを蝕んでいく。
けれど国民と自分たちの命がかかっている。
「壌土」はもっとも作物が育ちやすい土だ。
焼き払った後の灰は肥料になるが、すぐには作物が育たない。
その為オリバー様と共に良い壌土を作り直す。そこの層から土を掘り起こして、私が雨を降らす。
「大丈夫か?疲れていない?」
オリバー様が声をかけてくれた。
疲れてはいても動けない程でもない。
「大丈夫です」
以前はあまり気に留めていなかったが、オリバー様は使用人達にも声をかけてくれる思いやりのある方だった。
かなりの距離を移動する。私達は一日でかなりの距離を移動する。
「この土地は全て足場が悪いから舗装した道を作る方が効率が上がるかもしれない」
彼はそう言いながら地図を確認した。
「むやみやたらと作るのではなく、できるだけ真っすぐでシンプルな道の方がいいです。五番目のような。できればシンメトリーにするのがいいかと」
「流石、荘園を手掛けていただけあるな」
畑でも道でも、商店でもアパートでも。先に道を作るのが効率的だ。
「そういえば、この辺りはまだ掘っていませんでした」
「ん?掘る?」
「はい。父が無駄なダイヤを捜していろいろ採掘していたんです。全く何も出なかったんですけれどね。ここら辺は、粘土質でなかなか作業が進まず、まだ掘ってなかった場所です」
年度に足を取られ転びそうになった。
オリバー様がグイっと引き上げてくれる。
「気を付けて」
「ええ。ありがとうございます。粘土土は水はけが悪いですけど栄養を含んでますからすぐにまた草が生えますね」
そう言いながら、私達は作業に戻った。
新しい壌土をどんどん作る。がガガガッと音を立てて、地面が下から上へ動いたかと思うと、今度はぐるりとひっくり返って混ざり合うような土へと変化する。
区画を整理して焼き払う場所、凍らす場所、休ませる場所に分けて皆がそれぞれ作業をした。
「あんなに面倒な虫でも、畑の良い肥料になる。そう思えば少しはこの苦労も報われる気がするな」
「そもそもイナゴがいなければこんなことしなくて済んだんですけどね」
「まぁ、そうい……ん?」
「どうかしましたか?」
オリバー様が何か見つけたらしい。イナゴの生き残りだったら嫌だなと思い覗き込んだ。手には黒っぽい石の塊を持っている。
「これは、ダイヤだ」
「え?うそ!」
オリバー様は大粒のダイヤを手のひらに乗せて私の方へ差し出した。
それは土と灰に塗れて汚れてるが透明でキラキラ光っている。
「私の力で粉砕されない石はない。この大きさで残っているのは珍しい。かなりの強度があるという事だ」
「水晶じゃないでしょうか?ダイヤモンドとは違う気がします」
ダイヤと水晶では全く価値が違う。
それに水晶はそんなに硬くはないだろう。
確かにこの石には水晶ではない輝きがある気がする。
二人で辺りを見回したが、それらしい石は他にはなかった。
「詳しくは分からないけど、ここには、本当にダイヤが埋まっているのかもしれないぞ」
彼は冗談とも本気ともつかない言葉をつぶやいた。
「どうしましょう……」
「どうしようか」
とにかく、この石は持って帰って皆に見せようという話になった。
後にわかったが、それは確かにダイヤモンドだった。
これは父が買った土地だからと、父にその石を渡す事になった。
その他にも作業中にはいろんなものが出てきた。一番すごかったのが温泉が湧き出てきた事だった。
正直、イナゴ退治にはかなり迷惑な発見だった。
「この際、皆が休めるように温泉の部分だけ湯船を作ったらどうかしら?」
フェロモンを操るテレーネがオリバーに訊ねた。
「いや……どうかな……」
「温泉を作って、毎晩湯船に浸かれるようにしよう」
フェリペ王子が許可を出した。
王子の一声で皆の表情が輝いた。
全員働き過ぎていたので、ちょっとした娯楽ができる事が嬉しかった。
そのせいでオリバー様の仕事が増えてしまった事は言うまでもないけど、彼は文句を言わずに、大理石で作るよと言ってくれた。
私はオリバー様と一緒に働く時間の中で、彼の人柄に触れる事ができた。
いつも私を気にかけてくれる優しさにどんどん魅かれていった。
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