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試験
しおりを挟む王都学園の試験日になった。
ロイはやはり覚えが早く。一度聞いた事は決して忘れなかった。
なぜ今まで字を覚えなかったのか不思議だと言うと、無駄な物を覚えるくらいなら、もっと体を鍛えて強くなりたかったと言った。
スラムの世界は力が物をいう。
殴られたら殴り返せないと生き残れない。
ロイは体を鍛えていたが、なにより栄養が不足していた。
満足に物を食べなかったせいで、体は痩せこけて、力も出なかった。
まだ成長段階だとはいえ、栄養のある食事ができるようになり、彼は立派な青年へと変貌を遂げていた。
「ひとつだけお願いがあるんだ」
お願い?
「何かしら?」
「俺が今日の試験に受かって、学園の入学が決まったら、サブリナに会いに行きたい」
会いに来る……
無理だ。
「そうね。考えておきましょう。今日は今までの努力の成果を見せてちょうだい。頑張ってね」
願いを叶える事はできないだろう。
私は城の塔に閉じ込められている。そう……十年も。
いくら王宮へ入りこめたとしても、この幽閉された塔へ来るのは無理だ。
ここから私を逃がしてくれるのだろうか……
人一人を王宮の外へ連れ出す事は難しいだろう。宝石やお金のように持ち運べるものではない。
それに……私は醜いわ。
ロイに会いたくはない。
彼のやる気を削がないよう、考えておくとは言ったが、私を連れだすことは不可能だろう。
そもそも私が王宮に囚われている事をロイは知らない。
◇
「おいサブリナ!朗報だ」
「なに?」
試験が終わり、やっと解放された様子でウキウキとしながらロイが部屋に帰って来た。
「俺には魔力がある」
「……え?」
今回の試験で、希望の科を選択するのだけど、ロイは第一志望を魔法科にした。
魔法科を選択する者は魔力検査が行われる。
ロイは魔力検査で魔力があるという判定が出たらしい。
妹のジェーンは昼の食事の準備をしながら、いつものようにロイの独り言を聞いている。
「俺には魔力があるんだ!」
魔力と言っても様々だ。分かりやすいのは、火、水、風、土の四大元素の魔法。それ以外は癒しを与えたりできる魔法。暗闇やエレキを使える魔法。
変わり種で、私のように映像が見える目を持つ魔法などが存在する。
けれど私のこの力は聞いた事がない。魔法議会や、魔導士協会の様子を見ていてもそんな魔法を使える人はいなかった。
魔法の世界はまだまだ不明な事が多い。
誰にも知られていない未知の力が今後も出てくるのだろう。
「ロイは何の魔力があったの?魔力検査は魔力量を測るのよね。種類は個々で分かっているはずだけれど、人と違って特別にできる事ってなかったわよね」
「火が出せるわけでもないし、温度とか光とか操れないしな。サブリナみたいに映像もみられない」
あるにしても、どんな魔法なのかが不明だ。
「魔量測定した人は何か言っていた?」
「人よりずいぶん魔力量が多いって言ってた」
「魔力量の事だけ?」
「んで、何ができるかって聞かれた」
「なんて答えたの?」
「分かりませんって答えた」
正直すぎる返答に少し呆れたけど、分からない物は仕方がない。
「逃げ足が速かったり、手先が器用だったりは普通の人にでもできる事だから……」
「そうだよな……」
ロイは頭を抱えた。
自分でも何か特別な事ができるとは思っていないらしい。
記憶力はいい方だと思うし、学習能力も高いけど、それは魔法ではない。
「お兄ちゃん、何言ってるの?お兄変装できるでしょ」
突然、パンをかじりながらジェーンが話に入ってきた。
ジェーンは鏡に向かって話している内容で、私たちが魔力の話をしている事を察したのだろう。
「それは、服を着替えて化粧すれば誰にだってできるだろう。今は何の魔法が使えるかって話をしているんだ」
「だから、変装!」
「……?」
「いや、言い方が悪いわね。お兄ちゃんは変装しているんじゃなくて、変身しているの」
どういう事だといぶかしげに眉をひそめる。
「だって一瞬で女になるじゃない。身長だって顔だって変わってるのに、気が付いてなかったの?」
嘘だろうと彼は鏡を見た。
今まで変装が上手いとは思っていたけど、着替えを見るのは失礼だろうと、化粧しているところ等は見た事がなかった。バスルームまで覗いてしまうのは流石にマナー違反だろう。
思い返してみると、彼は自由に肉付きを変えていた。太った紳士にもなったし、ガリガリの浮浪者にもなった。巨人みたいに大きくなったし、子供にだって変装していた。
ロイは大きく息を吐いた。
「マジか……」
「今更だわ」
呆れた様子で、ジェーンはデザートのプディングを口に放り込んだ。
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