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マルコは表情を険しくしている。

「旦那様を問い質すのは時期尚早です」

マルコは冷静にそう言った。

「今の話の内容だけでは、ただ友人とショッピングをしていただけだと言い逃れができます。相手の令嬢も誰だか分かっていませんし、その方と食事をしたり観劇に行ったり二人で宿に……まぁ、その証拠が必要です」

「確かに、聞いた限りでは旦那様が奥様にプレゼントされるネックレスを選んでいただけ、という可能性も捨てきれませんしね」

言葉で説明しても伝わらない。その場の雰囲気は見ていないと分かりずらいだろう。マルコは情報のみで彼に嫌疑をかけるのは間違いだと言いたいのかもしれない。確かにビクターに言いくるめられ、逃げ切られるのが関の山だ。

「けれど!」

マルコは落ち着くようにと右手の手のひらを水平に動かす。

「とにかく、そのネックレスがどうなったかを確認するべきですね。言い逃れできないように、証拠を集める必要があります。僕がお店を回って領収書を確認してきます」

帳簿と領収書を元に、ビクターが過去に行った形跡のある店の名前をピックアップしていった。
彼はこういう調べものに対しては抜けがない。

私は、マルコが言った『離婚したいのか』という言葉の重みを考え、混乱していた。

「……私、どうしたらいいのか分からないわ」


「ロザリア様は、すぐに結論を出される必要はないと思います。ゆっくり考えて、ご自分で納得し、結論をだして下さい」

マルコが安心させるように答えてくれた。私は頷いた。

「ええ。どうするかはともかく、彼がお金を何に使っているのかはちゃんと把握しなくてはいけないわね」

「そうですね。伯爵家の資産なのですから旦那様が一人で自由に使う物ではない。そもそも、まだ旦那様は娘婿ではあっても、爵位を継承していないのですから」

「そう考えると、奥様に離婚されでもしたら、旦那様は無爵になりますよね。意地でも離婚はしないんじゃないですか?」

「離婚となれば、とても大事になるわよね」

「そうですね。離婚されたら、ロゼリア様はまた新たに新しい夫を捜すことになります。それか伯爵様が養子を迎えるかです。そしてロゼリア様はそれでいいのかという事です」

私の血、シェノア伯爵家の血を重んじる父が、他の者を養子に迎えるとは考えられない。

私は、子供を産む必要がある。






私はビクターを愛していた。

彼しか私の夫はいない。
女性に人気があるのは知っている。そもそも彼は私の事をそれほど好きではなかったのも承知していた。
けれど彼は私を選び結婚してくれた。
世の中の貴族たちは政略結婚が当たり前だ。
きっと夫婦になれば、それから生まれる愛情もあると思っていた。

貴族令嬢、令息たちは年頃になると親が相手を選ぶ。
そうしてみな夫婦になっていくものだと思っていた。

「私、間違えたのね……」

広いベッドの上で涙が頬を伝った。

ビクターは帰りが遅くなった時には自分の部屋のベッドで眠る。
今夜はもう顔を見ないで済むと思うとほっとした。



「昨夜は旦那様は夜遅かったようですので、朝食は別にとられるみたいです」

サリーが私に教えてくれた。
結婚したばかりの時は食事は毎日食堂で一緒に食べていた。

最近はお互い時間が合わず、共に食事する事も減ってしまった。

「そう。かまわないわ。午前中は起きてこられないかもしれないわね」

社交界シーズンが始まる。

これからは毎日夜は遅くまで夜会に行き、昼近くまで眠る事になるだろう。

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