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3抑制剤

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今すぐ薬を手に入れなければならない。
今この王宮に残っている者は、警備の騎士など、ごく少数。
バース性がオメガの人間で抑制剤を今持っている者は、多分王宮に残っていないだろう。
そもそもオメガ自体が希少だ。

助けを呼ぼうにもあのフェロモンだ。

他の人間を彼女に近づかせるわけにはいかない。アルファやベータに襲われる可能性を否定できない。

彼女から発する匂いは、それほど強いフェロモンだった。

レイは王国を守る立場にある宮廷弁護士なのだ。
王宮から犯罪者を出し、ここを犯罪現場にするわけにはいなかった。

オメガは床にうずくまり苦しそうに震えている。少なくともここは王宮の書庫だからレイプ被害を受ける確率は低い。だがヒートを起こした時の行為は段違いに良いというから他の男たちに現状はみせられない。
性行為をするためだけにオメガを飼いならす者も世の中には存在するという。

つらそうな彼女の背中にむけて「抑制剤を手に入れるから、少し待ってろ」といい置き、レイは走って書庫を出た。

外に出て、正門は使わずに裏口から入り階段を3階分駆け上がった。

医局になら薬があるだろう。

オメガの発情を抑える方法は2つのみ。抑制剤を使うか、アルファがオメガと性行為をしその精子を胎内に入れるかである。後者はあり得ないかいから、何としても抑制剤を入手しなければならない。 

レイは走りながら、医局に女性がいたら薬を持って行ってもらうように頼もうと考えた。
医務室は閉まっているだろうが、王宮の医局は24時間誰かがいる。
レイは薬剤関連の弁護を引き受けることが多いから、友人も医師として勤務している。
薬はロックの掛かった薬品庫に管理されているので多分勝手に取ることはできない。
彼が夜勤でいてくれたらいいが……

「エリオン!……頼む!」

「……なに?どうしたこんな時間に。珍しいな」

エリオンは俺と同じ時期に王宮へ出仕しだした宰相の子息だった。
学院で共に学んだ幼なじみでもある。

「エリオン、悪い、急ぎでオメガの抑制剤がいる」

息を切らしながら用件だけをいう。エリオンは少し戸惑っているのか、無言になった。

「…お薬は使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しく使いましょう、っていうだろ。処方薬だからな」

診察を先にしろなど無茶なことだ。
だが、だれかれ構わず薬を渡すのは法に触れる犯罪行為。
エリオンは間を置いた。

「……貸しだぞ」

エリオンはアルファ同士で気が合い、お互い独身だ。同期で話も合うため、一緒にいて居心地が良い友人だった。

勘の良いエリオンは察してくれたようで、薬品庫を開けて錠剤を渡してくれた。

「1錠でいいが、かなり酷いようなら2錠呑ませろ。脱水症状にならないように水分取らせて。瓶に水が入っている、20~30分で薬が効いてくるからそれまでは我慢させて。それと……お前はオメガに近づくなよ、それとオメガ専門の救急……』

「わかった!」

エリオンが話し終わらないうちにレイは背中を向けた。
これは高くつきそうだなと思いながら、薬と水筒を数本近くにあったタオルでくるんで医務室を走り出た。


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