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最終章 ~最強の更に先へ~

第137話  神②

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 死んで私に器をよこしなさい、か……。
 駿の話じゃ、駿が魔王を殺したら【魔】の器が移動したようだ。
 そこから導き出される解は……。
 
 器は、所持者が死ねば殺した者へ移る。
 
 だが、オレは違うと思っている。
 勘だが、オレの勘には【知】……叡智から来る判断も含まれている。
 まだインストール中(仮)だからオレは意識的には使えないけど。

 おそらくだが、器ごとに所持者の移行条件がある。
 そもそも、最初に選ばれた者はどういう理由で選ばれたのか。

 世界を安泰……平和に導くため?

 そうだとしたら【魔】はともかく、【魂】は?
 所持者である神は自分を信仰させようとし、軍隊を組織している。やろうとしているのは世界征服だ。
 
 それに、聖物の意志も気になる。
 聖物の存在意義は世界の秩序を保つこと。器がそれと同じである可能性は極めて低い。
 
 餓者髑髏がしゃどくろの会話からの想像でしかないが。
 聖物は神器の下位互換でかつ、神器への対抗手段。

 聖物による能力上昇は加護をも遥かに凌ぐ。
 道理で神器の能力が1つ解放状態で勝てないわけだ。

 神器の所持者を選ぶ理由はよくわからない。
 が、すでに代替わりが起きた【魔】に関しては1つ、仮設が立てられる。
 それは、最強の存在であること。

 現に駿は二つ名が【最強】だ。

 魔力を上手く使える者である、魔力量が多いという可能性もあるか。
 
 それに、他に4つ、神器はあるはずだが、それらの所持者は確認されていない。
 オレが持っている【知】の最初の所持者はオレのはずだ。

 つまり、器が選んだ所持者まだ生まれていない、ということ。
 すなわち、器の所持者は過去、今、未来を通して1人のみ。

 つまり、【魂】を手にする条件を満たす中でも最上級の存在が神だったというわけになる。
 その野望はいただけないが。

 しかし、聖物持ちが駿の時代に現れた、存在したという記述はない。
 ないだけでいたのかもしれないが……少なくとも、神、魔王、駿とは接触していない。

 聖物が反応したのは、今の・・神。
 昔の神は世界の均衡、秩序を崩す存在じゃなかった? 

 しかし、世界の秩序を保つ使命があっても負けてしまったら意味がないだろうに。

 ……違う?
 聖物の意志が、聖物の使命は世界の均衡を保つことだと言ったというのを、オレは聞いた。
 それが違うのだとしたら?

 神を止めること=世界の均衡を保つことだとすると?

 ……聖物の使命は、器の補助?
 オレという器を補助し、加護を得た略奪者を倒す?

 わからない。
 これらはすべて仮説を繰り返して得た結論であって、どこか1か所でも事実と反すれば、すべて崩れる。
 が、納得はいく答えだ。

 聖物の使命は、世界の均衡を保つため、神を討とうとしていた。
 もしくは、器の所持者であるオレに協力している。

 どちらにしろ、目の前の神を討つことは変わらない。



 そんな神は左手を上に向け、

「――『灰燼蝶かいじんちょう』」

 神の周囲に、深紅の蝶が発生する。それも、複数。
 それらの蝶が撒き散らす鱗粉すら高熱を帯び、地面の水が蒸発している。

 蝶は上空に飛びあがると、オレの真上に飛んできた。
 鱗粉を落とすつもり……もう落ちてきている。

 走ってその場から離れ、オリハルコンを刀に変え、神に斬りかかる。

「オリハルコン……まだ・・残っているのですか」

 神はオレのオリハルコンを見て、驚きと嬉しさを含めた声を上げる。

 オリハルコンを最初に使用していたのは、神だったな。
 それを駿に与え、三賢者に広がり、世界に広がった。

「――それは好都合!」

 実際は、そうではなかった。
 神は足元に大量に魔力を流し込んだ。周辺の地面から斬撃が……いや、違う!

 ――オリハルコンだ!

 周辺の地面から、隙間なく生えた棘はすべてオリハルコンだった。

 そうだ。神はさっき、オリハルコンはまだ、と言った。
 魔物連合盟主として、そして【魔導士】として活動していたんだ。それに、その前もきっと、この世界に住んでいたはずだ。
 オリハルコンがこの世界の住人に愛用され続けていたことなど、知らないはずがない。

 オレもまだまだだな。この程度、聞いた瞬間に疑問を持てなかったなんて。
 疑問を持てたところで、か。

 結局反応できたし、良しとしよう。

 しかし、辺り一面、オリハルコンの棘だらけで地面が見えない。
 動きづらい。
 しかも、蝶はオレの上空を旋回し、鱗粉を落とし続ける。

 オリハルコンには、神の濃密な魔力が込められているのがわかる。
 鱗粉にも、そうだ。

 どちらを先に対処すべきかは、明らかだ。
 鱗粉をどうにかする方が先だ。

「――『晶弾・龍』 ――『晶塊』」

 下から『晶弾・龍』で蝶を、鱗粉を防ぎながら攻撃する。
 挟み込むように、蝶たちの上空に『晶塊』を出現させ、『晶弾・龍』にする。

 上空に『晶塊』が出現すれば、蝶はどけると思ったのだが……避けない。なら、好都合だ。

 炎の蝶を挟み込む――喰らうように『晶弾・龍』が迫り……咀嚼する。

 炎の蝶たちは水晶を溶かしながらも、受けるダメージに耐え切れず、霧散した。
 余った水晶は再び一つに纏め、大きな剣にした。

「――『晶装・剣』」

 盟主はこちらを一瞥もせずに左手を上げた。
 それに合わせ、足元のオリハルコンが『晶装・剣』を受け止める。

 受け止めた『晶装・剣』に更にオリハルコンの棘が伸び、『晶装・剣』を破壊する。

 にしても、だ。ここの地下にオリハルコンの鉱脈があったのか。
 いや、ミスリル鉱脈か。
 神が魔力を注いだおかげで、オレも確認できる。しかし、かなり深くにある。これは誰も気付かなかったわけだ。
 長い間、魔力をミスリルとともに閉じ込めていたであろう空間すら認識できる。

 神はすでに主として登録していたのか。それで隠蔽していたのか。

「まさか、最後の決戦場が貴方の故郷になるとは思ってもいなかったでしょう?」
「さすがにな。こんなじゃ、ここで生まれ育った実感がないけどな」
「貴方を怒らすのが――」
「――『晶拳』」

 腹が立ったので、『晶拳』を神に向けて放ったが、再びオリハルコンが動いて盟主を守った。

「無駄です。オリハルコン鉱床がある以上、貴方に勝ち目はありません」

 ……たしかに、対抗策がない。
 神は【緻密な魔力操作】を持っている。オリハルコンを乗っ取ることはできない。
 
 オリハルコンを壊すか?
 鉱物と鉱物じゃ、相性が悪い。水晶の硬度はオリハルコンより弱い。

 ……そうだ、オリハルコンで攻撃すればいいんだ。
 神がいくら緻密に魔力を操作しようと、その魔力量が増えたわけじゃない。

 使われていないオリハルコンが脆くなっている可能性はある。

 そうと決まれば、『晶装』で手甲を作って――力技だ!

 ――ゴンッ!

 近くにあったオリハルコンの棘を殴ってみた。
 やはり、壊せた。

 欠けたオリハルコンに魔力を送り、支配権をオレにする。
 だが、これまでだ。使用用量は増えるなんてことはない。これ以上取り込めば、脆くなって、神に取り返されるかもしれない。
 それだけで済めばいいが、オレの所持しているオリハルコンも持っていかれる可能性もある。
 そんなことになれば、オレは詰みだ。

「オリハルコンを素手で破壊ですか……無意味」
「そうか?」

 構わず、オレはオリハルコンを殴り続ける。
 神は何も攻撃してこない。その理由は明白。

 ――必殺の一撃を準備中。

 神の体内で、恐ろしいほど緻密に魔力が練られている。
 魔力が糸のように寄り集まり、形を形成している。完成に時間が掛かるのだろうが。

 オレがオリハルコンを壊し、神に到達するのが先か。
 神が魔法を完成させ、放つのが先か。

 オレが遠隔で攻撃を仕掛けても、あの練られた魔力は解けないだろうな。
 オレが直接攻撃をするしかない、か……。

「おらおらおらおら――!!」

 ひたすら、オリハルコンを殴り続けた。
 
 あと半分……。

 あと1/4……。

 あと1つ……。

「終わり――」
「ええ、終わりです。――『赫輝クリムゾンレクイエム』」


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