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番外編 【最強】の過去
番外編 【最強】の過去8
しおりを挟む「私に神器の扱い方を教えてくれたのは、前・魔王です」
神にとって、実の師匠である魔王。
しかし、それを――自分のくだらない目的のために――殺そうと、数世紀にもわたる長い間、追いかけ、刺客を送り続けた。
シドーの神に対する評価が最低値を更新した音を幻聴した。
「最っっ低だな、お前……」
「そうですか? 自分の目的のために他人を利用するのは、全種族共通でしょう? 貴方もそうではないですか?」
「さぁな」
「自分の“身を守るため”に、私の刺客を殺したでしょう? ……いや、“刺激を満たすため”……ですか?」
神は何かよくわからないことをほざきながら、左手で前髪をいじいじしている。
強い風が吹き、神の髪が乱れた。服も大きくなびく。
ロングスカートが大きく捲れるが、その下には膝上まで防具でガチガチに固められている。
よく見ると、袖の下も防具で固められている。
「……話を聞いていますか?」
「ん? 何の話だっけ……」
「まあ、どうでもいいことですね。……あなたが死ねば」
神は炎を纏った右腕を上に伸ばし、手が大きく広がる。
火力も増し、大きくなっている。
そして握りこぶしを作ると、思いっきり振り下ろした。その下には、もちろんシドーがいる。
しかし、シドーは微動だにしない。
「――『魔術防御』」
魔法で作られた防御膜が、神の炎の右腕を防ぐ。
プルプルと、神の右腕が震えている。
「硬いですね……私の最高レベルのこの一撃を耐えるとは……」
「【魔】の神器の力をなめないようにな。魔王から教わらなかったか?」
「ふん!」
神は鼻息を吹くと、
「――『炎巨人解放』」
右腕が肩から外れ、その下から神の元の右腕が出てきた。
右腕の炎がシドーを包もうと、アメーバのように動き出した。
しかし、シドーの防御膜はシドーを全方位包み込んでいた。
「ふむ……穴なしですか……。――『魂付与』」
『ガァアアアアアア!!』
炎が人型に集まり、口らしき穴が開くと、咆哮を上げた。
その息すら高熱を帯びていた。
「炎を具現した『炎巨人』です。魂を得ているため、正真正銘の生物ですよ?」
「――『魔法干渉』」
シドーが相手の魔法に干渉する『魔法干渉』を『炎巨人』にかけたが、わずかにぶれるだけで、何の変化も起きなかった。
(…………少しは干渉できるのか……完璧な生物ではなさそうだな。魔力探知で見ても、魔法の塊だし)
魔力探知で『炎巨人』を見ると、濃い魔力でいっぱいだった。感じる気配も、魔法そのものだった。
「無駄だと言ったでしょう? 馬鹿ですか?」
「敵の言うことを素直に信じるほど馬鹿じゃないんでね」
「そうですか……では、『炎巨人』との追いかけっこを楽しんでください」
シドーに、『炎巨人』が迫る。
「――『水龍爪』」
シドーの剣が、主武器である爪に変わり、水が纏わりつき、爪の1本1本が伸びる。
『炎巨人』の体を、爪が切り裂く。
『ガ…………』
バラバラにされた『炎巨人』は徐々に体の形を失い、地面に落ちて行った。
「ほう……『炎巨人』を一撃で……では、これはどうですか? ――『風精霊ノ拳』」
神の右腕に、先ほど同様に……いや、先ほどと異なり、風が纏わりつき、巨大な右腕を形成する。
先ほどよりも一回り大きくなっていた。
「風か……」
シドーが攻撃に備え、構える。
しかし、その予想は裏切られた。
「――『四精霊解放』」
そのとき、神の右足に水が、左足に岩の塊が纏わりついた。
それらすべてが神から離れ、徐々に形を得てきた。
水の塊は蛇の形に、岩の塊は大型の人型に、風は鳥の形に。
どれも、先ほどの『炎巨人』よりも大きかった。
「――『水精霊』 ――『土精霊』 ――『風精霊』 貴方たちに魂を与えます」
『『ガァアアアアアアアアアア!!!』』
その咆哮が大気をビリビリと震わせる。
下に見える森の木々も震えている。鳥が一斉に羽ばたき、遠くへ我先にと逃げ出す。
「主たる我が命に従い、あの者を……」
『『ガァアアアアアア!!』』
水と土と風の塊がシドー目掛け、咆哮を上げながら突っ込む。
「――『四精霊合体』」
謎の引力に引っ張られ、3体の精霊が合体した。
「水の圧倒的質量……土の圧倒的硬さ……風の圧倒的速さ。それらが合わさればどうなるか……」
火は? と思わずにはいられなかった。が、黙っておいた。
『ギャアアアアアアアアア!!』
現れたのは、水と土と風が混ざった人型の何かだった。
水が現れ、消えたと思ったら土が出てきて、土が消えたと思ったら風が現れる。
水土風の精霊は、シドー目掛けて先ほどよりも速いスピードで迫った。
そして、右足を振りかぶった。
「――『魔術防御』」
防御魔法を重ねる。
同じ魔法……特に防御魔法を2つ同時発動し、維持するのはかなり集中力が持っていかれるが、シドーにとっては問題なかった。
――バキン!
と音を立てて、防御膜が1枚、弾ける。2枚目も壊れかけだ。
(まずい!)
すでに、水土風の精霊はすでに右腕を振り上げていた。
「――『突風』」
魔法で後ろへ飛ぶ。
何かが鼻先を掠めたが、ぎりぎり間に合ったようだ。
(……ありゃ? …………!!)
シドーは違和感に気が付いた。
「――『魔法干渉』 ――『排除』」
「無駄だと言ったでしょ…………」
水土風の精霊は、糸が途切れたかのように落ちた。
「“圧倒的質量”のおかげで真っ逆さまに落ちるな」
「…………」
神は不快そうに顔を歪めた。
シドーが切ったのは、精霊を宙に浮かばせていた魔法。
それが飛行の魔法なのか、操作系の魔法なのか……。とにかく、戦線離脱できたのでオーケーだ。
「――『物体浮遊』 ……ちっ!」
「隔離させてある。無駄だ」
水土風の精霊が落ちた辺りにクレーターができていた。
「――『四精霊』……ちっ!」
魔法の発動ができないとわかると、神は先ほどより激しく顔を歪ませた。
「やはり同時展開はできないのか。まだお前の魔法は展開されているんだ」
「…………なるほど。貴方の魔法で隔離されているのですか。入り込む余地もないですね。やはり【魔】は厄介ですね。もっと早くに――魔王の段階で始末できていれば……」
神はどこか遠くを見る目で語っていた。
シドーはそれを聞いちゃいなかった。
「まあ、ここで貴方を倒せばいい話ですね。――『植物よ。我が命に応え、我が力となれ……』」
足の下の方の木々が輝くと、そこから光り輝く塊が神の珠に集まり、珠が強く輝いた。
「魂は我が力。森で貴方を迎えたのは、こういう意味ですよ」
神は勝利を手にしたような顔でシドーに語り掛けた。
(魂を剥ぎ取ったのか……なら、まだ死んではいないか……それなら……)
シドーは杖先に炎の塊を出し、足元の森へ勢いよく落とした。
炎は一瞬で消え去ったが、そこは焦土と化していた。
「ちっ!」
「ああ、やっぱりそういうことか」
魂の剥ぎ取りと死はニアリーイコールで結ばれる。
その事実に、シドーは気が付いた。
つまり、魂の力を使われる前に魂の持ち主を殺してしまえば、魂は本来の流れに乗っかり……
「――『魂砲』」
「!?」
神が珠《オーブ》をかざすと、シドーは背後から奇襲を受けることになった。
シドーに当たって弾けたエネルギーは神の持つ珠に吸い取られた。
「まだ壊れかけの防御膜が残っていたようですが、残念でしたね」
「――ああ、本当に。たったこれだけの威力で残念だったよ。この程度に警戒していたとは……やれやれだ」
「な!? なぜ……高エネルギーの攻撃のはず……!」
「弾けば問題ないだろう? 何も受け止める必要はないってことだ」
シドーは防御魔法の形状を若干変化させ、神の攻撃を乱反射させ、受けるダメージを最小限に抑えることに成功した。
ちょうどよく、防御魔法が壊れたため、張り直した。
「なぜ……どうすれば……! ああああああああああああああ!!!」
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