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番外編  【最強】の過去

番外編  【最強】の過去3

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 この傭兵集団は、ラインたちの時代にある冒険者組合と似て非なる。

 まず、依頼は個人制。
 依頼主が直接個人に交渉し、金額を設定し、契約完了だ。
 
 シドーの村へやってきたこの集団は、国からの依頼で魔物の討伐を行っている。
 そのためにいつも通り森へ入ったところ、煙が見えたので駆け寄ってきたというわけだ。
 
 ちなみに、馬はいない。
 戦争で馬は重宝されるため、こういった場面にまで回ってくることは極稀だ。



 そして一同は、魔物を殺しながら帰路についた。
 狩りの腕前が一番高かったのはシドーだった。全員、物理的に舌を巻いていた。

 そして日が傾きだし、西の空が茜色に染まったところで、一同は野宿の準備を始めた。
 食料は、仕留めた魔物の肉、山菜、携帯食品。これらを上手に使ってなんとも美味しそうな食事となった。栄養価も申し分ない。
 寝場所はテントで、交代交代で夜番をこなす。ちなみにシドーはさせられなかった。
 彼らなりの気遣いだった。



 横になったシドーは、

(悪い人たちではない。けど、警戒は続ける必要がありそうだな。何よりあのリーダーの男は何やら俺と同じ匂いがする気がする)

 警戒を絶やさないでいた。
 だが、睡魔には勝てず、ものの2時間で眠りについてしまった。

 枕元ではいつの間にかお香が炊かれていた。テントの中には、お香の甘ったるい匂いが充満し、睡眠の質を上げていた。





 翌朝、目を覚ましたシドーは己の異変に気が付いた。
 風が当たる。
 身動きができない。
 目の周りを何かに覆われている。

 シドーは取り乱すことなく、冷静に状況を判断した。

 気配は1つだけ。すぐ傍に立っている。

(誘拐? あの傭兵集団の警戒を潜り抜けて? ひとまずは様子見…………)

 あの傭兵集団の警戒網を潜り抜けるということは、かなりの腕前ということになる。
 まあ、極振りの可能性もないではないが、この世界はゲームのそういう世界ではない。

 シドー……否、駿はこういった異世界転生・転移を夢に見ていた。だが、それと同時に現実主義者でもあった。
 妄想世界と現実世界に明確な一線を引いていた。

 だからこそ、こうして現実になった今、この世界を現実だと受け入れられていた。
 シドーはこう、この世界を捉えた。

 ――ゲームと現実の混合世界

「……ふ~~~」

 気配の主はため息を吐くと、近くに座り込んだ。

「神よ……もう少しで貴方様の願望が叶います……」

(この声……! ちっ! 傭兵のリーダーか!!)

 その声は、聞き覚えがあった……それも、つい少し前――どれだけの時間眠っていたのは不明だが――に聞いた声。
 それは、村に来た傭兵集団のリーダーの声だった。
 しかも……

(神!? あいつ・・・か!?)

 シドーの思い浮かべた神は、駿たちをこの世界に転生させたあの女だ。
 駿には、「神」と聞いて思い浮かんだのはそいつだけだった。

(今すぐ爆発を……いや、その前に情報が欲しい)

「目的地まではあと少し……仮眠を取るか………………グガーー」

(――早!!)

 寝るのにかかった時間(秒)は脅威の1桁だった。
 声をあげて突っ込みたくなったシドーだが、なんとか堪えた。
 
 しかし、眠り続けるのは困難になってきた。
 ……日の出だ。

 目の周りを覆われていても、日光が当たっているのはわかる。
 それほど厚い布ではないためだ。

「グーー……グーー」

 寝息を立てる傭兵集団のリーダーの位置を確認し、シドーは決意を固める。

「――『火纏い』」

 シドーの体を炎が覆い、シドーを縛っていたものがすべて燃える。
 魔力を余分に込めることで火力を底上げした。
 そのため、自身の服の魔力保護が耐えきれず、所々焼け焦げた。

「――な!?」
「神ってのは、誰だ?」

 すぐ傍で突如炎が噴きあがったことに驚いた傭兵集団のリーダーが跳び起き、武器を抜いた。
 そんな彼には目もくれず、シドーは「神」について尋ねた。

「……神は神だ。その方ただ一人」
「俺を誘拐した目的は?」
「お前の才を見込んでのことだ。どうだ? あの方に見初められたら、更なる力を得ることができるぞ?」

 シドーが立て続けに質問するも、それに答える傭兵集団リーダー。
 傭兵集団のリーダーの考えは、強さという甘く美味しい餌でシドーを釣り、自身の主で信仰対象である神の元へ連れて行くこと。
 
 シドーの考えは、神についての情報を得ること。

 つまり、シドーの選択は…………

「……いいだろう、俺をその神とやらの元へ連れて行け」

 シドーは媚びるような真似はとらない。
 




「神よ、信徒シューゲル・ターレイでございます」

 連れて来られたのは、森の中にある遺跡の最深部。
 
 森の中にある、朽ち果てた遺跡。100年もせずに森と一体化すると思われるほどの朽ち果てようだった。

(その遺跡の中がこれ……ホテルみたいだな。暗いけど)

 遺跡の中にある隠し通路を何本も経て、ようやくたどり着くここ。

(ここなら確かに、以後数百年、誰にも見つかりそうもないな。…………しかし、どんな原理だ? まるで朽ち果てていない。魔力で保護されているのか)

 シドーは魔力探知で辺りを見渡した。
 すると信じられないことに、壁一面ならぬ、床、天井まで魔力で覆われていた。

 最奥には玉座が置かれていた。
 しかし、そこには誰もいなかった。

 さながらここは、玉座の間だった。

「よく来てくださりました。我が敬虔なる信徒、シューゲルよ。そして、【神兵】」
「――!?」

 突如、どこからともなく女のものと思われる声が響いた。
 次の瞬間、玉座に光が溢れ、徐々に光が人の形に集まりだした。

 まだ人の形は成していないが、お構いなしに光は喋り続ける。

 【神兵】という単語に、シューゲルは大きく反応した。
 その言葉が指すものがシドーであると気づくと――気づくのに若干時間がかかったが――最大にまで開いた目でシドーを凝視した。

「【神兵】? なんだそりゃ」
「気づいているでしょう? ねぇ……寺島駿くん?」

 転生者という単語、前世での名前を言い当てられても、シドーは驚かなかった。

 なぜなら、その神と名乗る者の姿が、自分たちをこの世界に転生させた張本人だったからだ。

 シドーの内に沸き上がった感情は――怒りだった。
 
 前世で異世界転生を夢見ていた件は否定しない。
 しかし、アポなしで異世界転生させられたことについては一言言いたい。
 やり残したことはまだある。

 勉強から離脱させてくれたこと、妄想の中にしまっていた夢を叶えてくれた件について感謝する。

 しかし!
 未練はたらたらなのだ。
 
 ゲームだってクリアしていないのだ。買ったばかりの新作なのに! 
 まだ1割も進んでいない、一番モチベーションが高く、面白い段階だったのに!

 もちろん、家族との別れも悲しいけど、不思議とそんなに悲しくない。

 とまあ、荒れていた。

「さて、ではこうして再開できたのですから、補填をしないとなりませんね」
「なあ、他の転生者は? 来てるんだろ?」
「…………」

 神を名乗る女は黙り込んだ。

「実は、記憶の所持には成功したのですが、同時期に転生させることに失敗。更に、記憶を取り戻さずに一生を終えるケースも確認されました」
「本来なら、できたのか?」
「机上の空論ではありましたが」
「そうか……まあいい。補填ってのは?」
「――おい! さっきから御方に対して無礼だぞ!」

 シドーが声の主の方を見ると、シューゲルは跪いてシヴァを睨んでいた。

「よいのですよ、我が信徒よ」
「しかし――」
「よい、と言ったのです」

 その瞬間、この空間を闇が覆い尽くした。
 シューゲルは顔面蒼白でガタガタ震えている。
 シドーも内面、震えあがっていたが、それはおくびにも出さなかった。

「さて」

 そう神が言うと、闇は消え去り、元の光景に戻った。

「ではこちらを…………」

 神が手を伸ばすと、壁の一部が開かれた。

(隠し扉か?)

 その奥には、蒼色に輝く壁があった。
 
 



 
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