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第二章 〜水晶使いの成長〜

第70話  デビュー②

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 森の中に入ってかれこれ30分。

「エドガーさん……」
「好きに呼べ。なんなら、爺さん、でもいいぞ?」

 と、冗談めかして言ってきたが、好都合!
 心の中ではすでに爺さんって呼んでたしな。

「爺さん、目標地点はどこですか?」
「敬語もなくていいぞ。今は仲間なんじゃからな」
「で、質問の答えは?」
「…………」

 いや、半眼で見られても……

「お主、年上に敬意は払わぬのか? それとも、わしにだけ?」
「接しやすいということですよ? それより……」
「――ここら辺じゃよ。だからこそ、こうして潜めることなく声を出して…………」

 草木が揺れる音。
 足音。
 魔力反応。
 それらが……複数。

「この形……明らかだな」
「人狼か、はたまた別の魔物か」

 ――ガサガサッ!!

 姿を現したのは、直立歩行をした狼だった。間違いない。

「…………当たりじゃな」

 姿を現した人狼は、全部で12匹。報告にあった集団で間違いなさそうだ。
 どの個体も、体に2本の赤い塗料で2本の線が引かれていた。

「いや、あの色に染まっておるようじゃの。一体どのような技術で……?」

 確かに、よく見ると地の色から変化していた。

『ほう…………我らを討ちに来た者どもか』

 あ、喋った。あいつがリーダーか。

「そうじゃが?」
『我らもなめられたものだな。たった2匹で我らを相手にするつもりか?』

 2匹って…………。まあ、いいか。別に侮辱の意味はなさそうだし。
 どうせ死ぬだし。

 …………あれ、情報を吐き出させるためにも、捕らえた方がいいのか?

 このリーダー格、他の魔物よりも痣の色が若干濃い?
 毛皮も、全体的に赤味がかっているし。ほんと、どうなってんだ?

「ちとまずいのぉ。なかなかの策士のようじゃ」
「そのようで。で、どーするよ?」
「適当でいいじゃろ? 問題は、やつらの頭じゃ」
「捕らえるか?」
「できればそうしたいが、そんな余裕があるかどうか」

 だよね~~。殺す方が楽なんだけど。
 魔物連合って、人と遭遇したら速攻襲い掛かってくるらしいし。なんか、最近は鬼の国での目撃談が多いらしい。

「さくっと雑兵どもを殺し、2人で頭をやるぞ」
「うっす」

 ――ドンッ!!

 覚醒し、オリハルコンの防具(手甲ガントレット足甲グリーブ……脛当てグリーブ)を装着。同時に、刀の鞘も消す。

 ……木が邪魔だな。

「――『飛撃ひげき』!!」

 大きく刀を振るい、『飛撃』で周囲の木を切り倒す。
 同時に、『晶弾』を複数生成し、背後から襲い掛かってきた人狼に発射する。

 眉間、もしくは心臓に直撃し、3体の人狼は音もなく倒れ――ない。

 人狼って、馬鹿みたいにタフなんだよな。けど、まさかここまでとは。

 まあ、眉間を貫いたやつだけは、フラフラとよろめき、地面に伏したけど。

 けど、十分警戒心を植え付けられた。その証拠に、距離を詰めて来ない。

 ふと、爺さんの方をみると、どんぱちやってた。
 主武器の大剣を振り回している。『飛撃』もちょくちょく使っている。
 そのおかげで、周囲の木はことごとく木片と化していた。

 おっと、のんびりしてたら先を越されてしまう。



 けど、武器がまだオレに馴染んでいないんだよな。
 なんか、大して仲良くない人の家に上がっているような感じ。

 刀身もまだオリハルコンのままだし。
 副騎士団長の剣はちゃんと鈍色だったのに。

 もう少ししたら馴染むんだろうけど。今とやかく言ってもしょうがねえ!



 ただ、少々煩わしいな……。オレを中心とした円が崩れない。
 ここはいっぺんに殺っちまおう。

 ならここは……『晶弾・龍』か『晶弾・乱』のどちらかか…………。
  
 かならずころす点では、『晶弾・龍』。
 全方位攻撃の点では、『晶弾・乱』。

 ふむふむ……。

 ああ、そうだ……。『晶弾・乱』の後に、『晶弾』を再利用して『晶弾・龍』で殲滅すればいいんだ。

 爺さんの方に行かないように範囲を絞っとこうか。爺さんの方には1、2、3、4…………7匹。

 オレの方には6匹。あれ、増えてね?

 『通話トーク』で爺さんと会話する。

『爺さん!』
『ああ、わしとてそこまで衰えとらんわ!』
『まだ数匹待機しているっぽいから、そいつらはオレに任せてくれ!』
『了解じゃ』

 通信を切り、戦闘を再開する。

 周囲に『晶弾』を生成する。生成速度は最大にしてある。

 突然の謎の物体の出現。警戒心MAXの状態では、どうにもできまい。クククッ!



 そして、視界の半分が『晶弾』で埋め尽くされた。もういいだろう。

「――『晶弾・乱』!」

 全方位に向け、『晶弾』が発射される。
 慈悲の欠片もなく、グルグル唸る人狼たちの体を『晶弾』が次々と貫く。

 まじか。包囲陣を形成していた人狼、『晶弾・乱』で一掃できたわ。
 そうか。タフでも、ハチの巣にされたら、そりゃ死ぬか。いい計算ミスだった!

 だが、まだまだ終わらない。

「隠れているつもりか? ――『晶弾・龍』!」

 木の裏に隠れていた人狼たちを木と一緒に貫く。もろい……。殺傷能力ありでやったの、久しぶりだな。

 ――ズシン! ズズシン!!

 根元を貫かれ、木が倒れる。その下には、ハチの巣にされた人狼たち。

「――はぁああ!!」

 一陣の風が吹き荒れる。爺さんの仕業だな。すげえ。爺さん半端ないって!

 風が鎮まった。
 そこは、血の海だった。綺麗に一刀の元に斬り伏せられた人狼だった物体だらけだ。

 それも、バラバラに切り刻まれていた。
 吹いた風は一陣。つまり、間隔の狭い連撃。

 まじか……。大剣1本で、双剣のターバと同じかそれ以上の速さかよ……! とんでもねぇ爺さんだな。

「これで、残りは1匹かの」
『ほう……これはなかなか……』

 途端、圧力が発生した。

『貴様らが言うところの魔物連合、第十隊隊長を預かる俺が相手する』

 先ほどの圧力は、こいつが発したものか! まずい…………正面から戦って倒せる相手じゃない。

 どうしたものか…………。

「――ここでお主を倒す! ライン、必ず生き残るんじゃぞ!」
「爺さんもな! ――『飛撃』!」

 刀を抜きざまに『飛撃』を放つ。飛ぶ居合だ。

「――『飛撃』!」

 爺さんは大剣での突きに合わせ、『飛撃』を放つ。 
 オレの方が位置的に近いが、爺さんの『飛撃』の方が速い。その結果、同時に着いた。

 だが、紙一重で避けられた。

『――『飛撃』』

 隊長人狼は爪を伸ばし、斜め方向に振り下ろした。

 爪は5本。『飛撃』も5つ。

 『飛撃』が使えるとはな! くそったれが! 目標は爺さん。

『――『飛撃』』

 次はオレかよ! くそ! 『飛撃』は連発がきくからな! 

 『飛撃』を受け止めつつ、『晶弾』を放つ。
 だんだん余裕ができてくると、連射もできた。連射ができると、『飛撃』の間隔も空く。正のループの完成だ。
 
 そして、ついにオレのターンになった。ひたすら『晶弾』を連射する。

『――おぁあ!!』

 途端、再び力の波動が溢れた。そのせいで、『晶弾』がすべて無効化された。

『小僧……チクチクとチクチクとぉ』

 チクチクって言う割には血だらけですぜ? どれも急所は外しているが。

『お前かr』
「――『晶棘しょうきょく』」
『がぐっ!』

 隊長人狼の足元から『晶棘』を生やした。

 魔力探知を使えばわかるんだが、遠距離に魔法を出現させようとすると、そこに魔力溜まりができる。『晶棘』の場合、地面を見たらうっすら見える。

 気持ちよさげに語ってたから効果は抜群だった。
 ただ、さすがの反射神経。間一髪のところでガードされた。
 
 だが、『晶棘』の勢いは止められない。隊長人狼は腕を交差させたままの姿勢で中空に放り投げだされる。
 その瞬間を見逃すはずがない。1つの影が飛び出る。

「――『秘剣・発火』! ──『剛撃』! ――『火斬ひぎり』!!」

 炎を纏った大剣に、『剛撃』で威力を増した。そして、突きを放つ。

『――『飛撃』!!』

 だが、隊長人狼は間一髪で爪に『飛撃』の発動によって魔力を宿し、伸びた爪を交差させて突きだけは避けた。

 だが、斜め上から放たれたことによる強大なベクトルと火は避けられなかった。

 ――ズンッ!!

 火に包まれながら、ものすごい速さで落ちた。

『はぁ……はぁ……やってくれたな、人間ども……』
 


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