11 / 16
3.夢から醒めて
夢から醒めて(2)
しおりを挟む「え、ええっ?」
思わず声を出しておどろいてしまう。そして慌てて図書館を出て職員駐車場のある裏門へ向かう。
北校舎を抜け裏門へ続く道へ出ると、なぜか裏門に多数の人の気配がある。
嫌な予感がして小走りに近づくと、低学年の子供達の甲高い声が聞こえてきた。
「すげー、すげー、かっこいー」
「げーのーじんだ、いけめんだ」
「だっこして~。だっこ~」
小さい子供たちは積極的に足にからみ付き、高学年の子供たちは人垣を作って遠巻きにしている。
黒のスラックスにタートルネックセーター、そしてグレイのハーフコートをはおっている御乙神明は、そんな無造作な格好でも超絶美男子だった。
せがまれたのだろう、一年生の男の子と女の子を、それぞれ腕に抱き上げている。
身長が一八七センチと聞いているので、子供たちはその高身長も珍しかったのだろう、近くなった整った顔に小さな手を伸ばしたり、男性とは思えないきれいな艶のある黒髪に触れたりしている。
そんなやりたい放題の一年生を、人垣を形成している高学年女子はそれはうらやましそうに見ていた。
近づくか迷っていると、後方から走る足音が聞こえてきて美誠を追い抜いていく。教頭と数人の教師だった。
「そのイケメンすぎる不審者はどこですか?」
「あそこです!あ、子供たちを抱き上げてます!」
「あれ不審者ですか?イケメン過ぎて不審なんですか?」
「ぎゃ~っ!めちゃくちゃイイ男じゃないですか!どこか不審者なんですか!あれなら女性職員一同大歓迎ですよっ!」
騒がしく走っていく教師ご一行を見て、美誠もこれはまずいと走り出す。庭野教頭を先頭に、教師たちはイケメン過ぎる不審者、御乙神明を取り囲む。
「ほらこっち来なさい!」「いやだいけめんがいい~」などと失礼な抵抗をされながら、明の腕に抱き上げられていた一年生は教師たちに回収される。
無言でたたずむ明へ声をかけようとした庭野教頭の背後から、美誠が叫ぶように言う。
「教頭先生!その人は御乙神さんの、千早さんの旦那様です!不審者じゃありません!」
目的の相手を見つけて、明の表情がわずかゆるんだ。おどろくほど整った顔がほんの少しほほえむ。しかしその顔は、なぜかひどく疲れている様子だった。
「久しぶり。美誠さん」
「え?御乙神さんの旦那さんですか?これは失礼しました!奥様には以前からとんでもない時ばかりお世話になりまして大変助けていただきました」
修学旅行先で起きた集団憑依事件と校内で起きた生霊による殺人未遂事件という、都市伝説なみの心霊事件に二回も巻き込まれ、その両方で御乙神千早に救われた庭野教頭は明へ深々と礼をする。明の不審者疑惑は一気に晴れたようだ。
「ほらみんな帰りなさい」と集まっていた児童たちを追い払ってから、駆け付けた教師の一人、美誠の友人でもある葛城佳蓮教諭がうきうきした顔で耳打ちする。
「何あれ超絶イケメンじゃない!あの時の女霊能者の旦那さんなの?うらやましい~!」
新婚ホヤホヤであるはずの佳蓮は舞い上がった様子で頬に手を当てる。美誠は何とも言えず、あいまいな笑顔を作ってうなづいておいた。
庭野教頭たちが立ち去った後、美誠は明と車の脇で向かい合う。
「お久しぶりです。千早さんからのメールを見ました。何が話があると」
できるだけやわらかい表情を作って向き合う美誠に、明も笑みを作ってみせる。
けれど無理をしているのが一目で分かった。向き合ってみると、明の憔悴ぶりがはっきりと見て取れた。
「仕事先まで押しかけて申し訳ない。その前にも、本当に色々と、申し訳ない」
いったん明は下を向き、そして僅かに目線を上げる。
「君はもう聞きたくもないかもしれないけど、輝のことで一応伝えておきたい事があって。――あの馬鹿、実は今、退魔行を失敗して死にかけてるんだ」
思わず明の顔を見つめてしまった美誠に、明はため息混じりに静かに言葉をつむぐ。その口調は珍しく、細々とした力のないものだった。
「ちょうど秋の初め、君を怒らしてしばらくした頃だったよ。らしくもなく魔物の罠にかかってしまったんだ。それがまたやっかいな代物で、あいつは身動きが取れなくなって俺たちも手を尽くしたんだが、どうしても解除ができない。そうこうしているうちにあいつはどんどん弱っていってしまった」
「待ってください。秋頃って……四ヶ月近くも罠にかかったままだったんですか?」
「ああ。魔物を仕留めた者に跳ね返る呪いの様なものなんだ。それが輝の心臓に巣くって、宿主のあらゆる力を吸って成長していく。
心臓をつかまれているから力任せではどうする事も出来なくて俺もお手上げで、千早たち呪術者も呪いが心臓を食い破るのを止めるので精いっぱいで。今も千早は、他の術師と交代で輝の延命に戦っているよ」
絶句する美誠を、疲れた目で明は見つめる。
「もっと早く君に知らせたかったんだが、輝がどうしても君には知らせるなと言い張って。昨日とうとう意識が途絶えたから連絡したんだ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

御伽噺のその先へ
雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。
高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。
彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。
その王子が紗良に告げた。
「ねえ、俺と付き合ってよ」
言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。
王子には、誰にも言えない秘密があった。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
鵺の泪[アキハル妖怪シリーズ①]
神﨑なおはる
キャラ文芸
4月の終わり。文学部4年生の先輩の元に奇妙なメモ用紙が届く。
その謎を、頼まれもしないのに2年生の西澤顕人と滝田晴臣が引っ掻き回す。
アキハル妖怪シリーズ1本目です。多分。
表紙イラスト:kerotanさま

麻雀少女激闘戦記【牌神話】
彼方
キャラ文芸
この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。
麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。
そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。
大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。
──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。
彼方
◆◇◆◇
〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜
──人はごく稀に神化するという。
ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。
そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。
この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。
◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
5.相合傘
6.猫
7.木嶋秀樹の自慢話
【テーマソング】
戦場の足跡
【エンディングテーマ】
結果ロンhappy end
イラストはしろねこ。さん
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる