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第四章  背徳にまみれた真実

背徳にまみれた真実(6)

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「お前は霊能れいのうさいのある子供がどうしてもしくて、星回りをはかって産ませようとしたが失敗し、こともあろうに何の不自由ふじゆうもない普通の家庭に生まれた霊能の才を持つ赤ん坊を、才能さいのうと取り替えたんだな。

 そして唯一ゆいいつ真実を知るつまおど口止くちめをして離婚にもおうじず、ぬすんできた赤ん坊を我が子といつわ呪術じゅじゅつたたき込み一流の術師じゅつしに育て上げ、こんな豪華ごうかな屋敷を建てるほどこき使ってきた。
 そのうえ彼女の結婚相手まで勝手に決めてしたがわせようとし、嫁入よめいり先までだましていたという訳か」

 足のしたの飛竜を見やり、今度ははげしく雷光らいこうはじけ始めたひかるは腹の底から怒鳴どなった。

異論いろんはあるか飛竜!こんなくさった外道げどうをやらかしてよくも今まで御乙神みこがみ一族にデカい顔してのさばってくれたな!」
 
 広いホールの様なリビングを、白い雷光が縦横無尽じゅうおうむじんに走りいていく。落雷らいらいの様な耳をつんざく轟音ごうおんがして、さすがに使用人たちが扉をとびら開いて入って来た。

「ひっ……!」

 穴だらけになり、ほうぼうからけむりが上がるリビングに使用人たちがおびえる。

 雷撃らいげきの熱でえだした箇所かしょを見つけ、数人が消火器しょうかきを求め廊下ろうかへと走っていく。


 ひっ!と声を上げたのは、今度は義人よしとだった。

 亜空間あくうかんさやから抜刀ばっとうされた神刀しんとう天輪てんりんは、輝と同じくはげしい雷光をほとばしらせ、その姿はまさに輝の怒りを具現化ぐげんかしたものだった。

千早ちはやちゃんにあやまれ!おまえたち家族全員千早ちはやちゃんに謝れ!
 飛竜照子ひりゅうてるこ、あんたも被害者ひがいしゃの様な顔をしているが、他人の子供のかせぎで豪遊ごうゆうしていたのは間違まちがいないだろう!真実をうったえ出る事はできなくてもせめて彼女にやさしくすることはできたはずだ!
 あんたのやってきた事は旦那だんなに言えない不満をたりで千早ちゃんにぶつけてきただけだ!いい大人がはじれ!」

 一瞬かたまった飛竜夫人は、輝に怒鳴られ、そしてゆかくず号泣ごうきゅうし始めた。

 その姿は、いつの間にか白蛇からワンピースを着た女性の姿へと変わっていた。式神しきがみを通して、術者の本体がうつし出されたのだ。

 その美貌びぼうとは裏腹うらはらに、頭をかかえ号泣する飛竜照子は、それは見苦みぐるしい姿だった。

 けれどひかるの目はそんなものには向かず、足の下で目を見開く飛竜ひりゅう健信けんしんに向けられていた。

 はげしくはじける雷光らいこうをまとう輝は、理性を飛ばした酷薄こくはくな目をしていた。その眼に、飛竜は輝の考えている事を否応いやおうなしに理解した。

 もう一度、げようとあがく飛竜をあらく足で踏みつけ固定する。胃液をいたことなどおかまいなしに、雷光はぜる天輪てんりんは振り上げられる。

「しかも最後さいごの最後までうそのがれようとしたな。お前の様なくさり切った人間は、御乙神みこがみ一族には必要ない」


 輝の頭上ずじょうに降り上げられた天輪は、そのまま動かない。

 天輪をにぎる手首を、歩み寄ったあきらの手がしっかりと握っていた。

 飛竜を見下ろしたまま動かない輝に、明が淡々たんたんと言う。

「落ち着け。神刀で殺人は御法度ごはっとだろう。それに、まだ聞かないといけないことがある」

 じろりと飛竜を見やって、明はたずねた。

千早ちはやの本当の両親はどこにいる?千早の本当の名は?」

 はぜていた雷光が収束しゅうそくしていく。部屋を飛びう雷がようやくおさまり、消火器を手にした使用人たちが、四人を遠巻とおまきにけながらあたふたと消火活動を開始する。

 しかし飛竜は口を開かない。すると天輪をろした輝が、また足に力を入れる。

 また何かが折れる音がして、痛みにのけぞった飛竜があえぎながら叫ぶ。

「どこにいるかは知らん!生まれたばかりだったから、まだ名前もなかったはずだ!」

「どこで千早をぬすんだんだ。それに名前は付いてなくても苗字みょうじは絶対あるだろう」

「……照子が出産した病院だ。苗字は……確か、『市橋いちはし』……」

 飛竜の返答に、輝が再びキレて怒鳴りつける。

たしかとはなんだ確かとは!他人の子供を盗んでおいてその程度ていどの事しか覚えてないのか!貴様きさま本当に人間か!」

「輝、よせ。落ち着け。宗主そうしゅが感情全開でバタバタするな」

 また帯電たいでんし始めた輝をなだめる明の背後はいごから、義人よしとおそる恐る飛竜照子ひりゅうてるこに声をかける。

「あの、すみません奥さん。出産のときの病院、どこですか?入院した時の年月日も教えてもらえます?」

 部屋のすみで泣きんで、力なく座り込んでいた飛竜照子の幻影げんえいは、どこを見ているのか分からない様子でぼんやりと答える。

「……全国でも有名な産婦人科です。所在地は東京都で、病院名は……」

 言われるまま答えていく飛竜照子から必要な情報を聞き出し、義人が二人に向かってうなづいてみせる。

「すぐに病院に行って、該当がいとう時期の入院履歴りれきを当たります。若い夫婦は引越しがちなので現住所げんじゅうしょ調べるのはちょっと時間かかると思いますが、何とか住民票追っかけます」

「お願いします。輝、行くぞ」

 まだ怒りのおさまらない様子の輝をり、明は部屋を出て行こうとする。

 足をはずした飛竜へ、輝は最後にひとにらみして言い渡す。

飛竜ひりゅう健信けんしん、お前を七家頭しちけがしらおよび七家しちけから解任かいにんする。そして俺がゆるすまでこの家で謹慎きんしんを命ずる。絶対に逃げるなよ。逃げたら今度は容赦ようしゃしない。状況が落ち着いたら、あらためて罪を問うてやる」

 そして部屋の隅で座り込んでいる飛竜照子の幻影を見やる。

「飛竜照子。あなたはこの男と別の場所で謹慎きんしんを命ずる。できれば実家にでも行け。万が一この男が何かして来たら、すぐに俺に知らせるように。必ず助けをよこすから。いいな」

 宗主のきびしいようで優しい言葉に、照子は床にひたいを付け、して礼をする。

 そして輝はきびすを返し、あきら達と共に消火活動最中さいちゅうのリビングから退出たいしゅつする。


(俺は何にも、千早ちゃんの事を考えてなかったんだな……)

 この豪華ごうかつめたい他人の家で、千早ちはやは十七年もの間、たった一人でえてきたのだ。

 飛竜家の家庭事情も薄々うすうす聞いていたのに、何一なにひとつ手助けをしなかった。自分の事ばかり、立場ばかり考えていて。

 今なら分かる。自宅にすら居場所いばしょの無い千早が、唯一ゆいいつ安心できたのが明の住む洋館だったのだろう。

 だから千早は、あれほどまでに明をかばうのだ。本当に、千早の唯一の心のどころが、明の存在だったのだ。

 この苦しい、てきしかいない十七年を、支えてきたのはあきらだったのだ。

(……彼女にひどい仕打しうちをしていたのは、俺の方だったんだな……)


 輝が考えにふけり、三人でリビングの扉を出ようとした時、明は肩越かたごしに振り返った。先に行った二人は気付かない。

 やっとの思いで起き上がった飛竜が、さる視線に動きを止められる。

 へびにらまれたカエルのごとく、飛竜は動けない。どっと汗のす恐ろしい眼差まなざしで、あきら飛竜ひりゅうを睨み付けていた。

 そして何事もなかったかのように前を向き、明はリビングを出て行く。


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