モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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最終章 悪役令嬢は・・・

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(まぁ、いつかきっと会いに来てくれるでしょ)

私はテーブルの上の、すっかり冷めてしまったお茶をグイッと飲んだ。

見上げると、空はまるで水に青インク落としたかのように透き通っている。私は一昨年に仲間達とピクニックをした日の事を思い出した。

(ふむ・・・行ってみるか!)

「お兄様、ちょっと滝まで行ってきます」

別荘の中で手紙を書いているクラークに声をかけると、彼は大慌てで、

「ま、待ちなさい、アリアナ!僕も行くから。一人で行くと危ない・・・」

「では先に行ってますので、後から来てくださいな」

相変わらず過保護なクラークを残して、私は一人で遊歩道を歩いて行った。

森は以前と変わらず、優しい木漏れ日を私に落す。近くであんな恐ろしい事があったなんて信じられないくらいだ。

滝の洞窟の奥深くに存在した闇の神殿。

あの騒動の後、皇国は調査団を作って神殿を調べつくした。神殿への入り口は洞窟だけでは無かった。離れた山の中腹へとトンネルが掘られていて、組織の者はそこから出入りしていたのだ。

(じゃないと毎回あの洞窟を通るんじゃ、大変すぎるもんなぁ)

今はその入り口は厳重に封鎖され、常時見張りが置かれている。神殿から洞窟へ抜ける通路も塞いでしまったと聞いた。

トラヴィスが神殿から持ち帰った書物―――ライナスとエンリルが精神魔術で蘇った記録書の最後の頁には、全く知らない女性の名前が記載されていた。日付は2年前、私がこの世界にやって来た日と同じだった。

私はその女性の名前を心に刻み付けた。これは私が背負わなきゃいけない十字架だ。生きている限り絶対に忘れてはいけない。

(マリオット先生・・・)

先生の恋人が生きていたとしたら、彼はあんな事はしなかっただろうか?それとも・・・

程無くして滝の音が聞こえていた。

私は逸る気持ちで滝へと降りる小道を、小走りで降りて行った。

「おお!」

イルクァーレの滝は今日も、滝つぼ薄紫に染めて輝いている。太陽の光に透けた木々の葉が風に揺れて、空の色とのコントラストも素晴らしい。息を飲むほど美しかった。

「いいね~!やっぱり観光地にしなくて良かった!」

ここは人が溢れない方が良い。お金は入ってこないけど、自然のまま残した方が良いと思い直したのだ。

しばらくぼんやりとその景色を眺めていて、滝の方へ近づこうとしたら、後ろに人の気配を感じた。

クラークがやっと追いついて来たのかと思い、

「お兄様?遅かった・・・」

遅かったですねと言いかけて、私は驚いて口をぽかんと開けた。

(え・・・?)

小道を降りて来たのはクラークでは無く、明日来る予定だったディーンだったからだ。

「・・・やぁ、リナ」

「ディーン様!?えっ?来るのは明日って・・・それにどうしてここに?」

「さっき別荘に着いた時にクラーク殿に聞いたんだ。リナが滝に行ったって。・・・一人で来るなんて、危ないじゃ無いか」

ディーンが軽く私を睨む。

「あ、後からお兄様も来るっていってましたし、・・・それにもう闇の組織は無くなりましたから・・・」

「それでも女性の一人歩きは感心しない。次からは気を付ける様に」

「は、はい!分かりました」

心配性の兄が一人増えた気分だ。

「だけど驚きました。いらっしゃるのは明日じゃ無かったのですか?」

私がそう聞くと、

「元から一日早く来るつもりだったんだ。・・・明日だと皆もやって来るから、君と二人っきりになれないだろう?」

(んぐっ!)

そんな風に言われて、心臓の鼓動が早まる。多分もう私の顔は真っ赤になってるだろう。

(ぐ、ぐいぐい・・・)

だけどこんな風に狼狽えてばかりはいられない。私は彼にちゃんと伝えなきゃいけない事があるのだ。

「・・・あ~、あのディーン様」

「ん?」

「きょ、今日は良い天気ですね」

「うん、そうだね」

「あ、明日も良い天気だと良いですね」

「・・・うん、そうだね」

・・・ヤバい、緊張して天気の話しか出てこない。他の話をしなくちゃ。

「え~っと、滝が奇麗ですよね」

そう言うと、ディーンがぼそりと言った。

「・・・この滝はなんだかクリフに似てるよね」

(おっ!話題が繋がった)

嬉しくなって、話を続けた。

「あ、ディーンもそう思いました?私の思う精霊イルクァーレのイメージは、そのまんまクリフなんですよね」

「うん・・・。それで君は妖精シーリーンのイメージにぴったりだ・・・」

「え、ほんとですか!?」

(前にクリフにも言われたけど・・・そうなのかな?)

ちょっと・・・いや、かなり嬉しくなって照れていると、ディーンの顔が少し曇った。

「・・・意味わかってる?」

「は?」

ディーンはため息をつくと、

「前に君とクリフがダンスパーティで踊った事があったよね?」

「え?あ~、はい。1年の時と2年のダンスパーティでも踊りましたよ?」

それが何なんだろう?

「私は・・・面白くなかった」

「え?」

(ダンスが下手だったって事?)

さらにキョトンとしていると、ディーンは、

「君とクリフがお似合い過ぎて、嫉妬したって言ってるんだ・・・」

耳を赤くして「全部言わせるな」と言って横を向いた。そのしぐさが可愛くて・・・

(んぐはっ!)

心臓がヤバい気がした。この人は私の息の根を止めに来てるんだろうか・・・?

(ぐいぐいが・・・ぐいぐいが凄い・・・)

私は酸素が足りない気がして、深呼吸を繰り返した。

(駄目だ!このままじゃ、話が進まない。・・・それにディーンは・・・)

こんなぐいぐい来なくたって・・・

私は滝の音に耳をすませた。なんだかその音が、「頑張れっ」って言ってるような気がして・・・私は覚悟を決めた。

「・・・私も多分、嫉妬したんですよ・・・」

「えっ?」

「ディーンとリリーが踊った時・・・お似合い過ぎて泣きました」

「ええ!?」

ディーンの珍しく焦った声に、私はくすっと笑ってしまう。

「ヘンルーカの気持ちも分かったの。私もきっと、精神を引き裂かれても貴方のそばに居たいと思うもの」

そう言うと彼は息を飲むように黙り、真顔で私を見つめた。

「ディーン・ギャロウェイ。私、多分貴方に恋してると思う」

ディーンが目を見開いた。そして、少し赤い顔で苦笑しながら

「多分・・・なの?」

「・・・いえ、十中八九そうかと・・・」

ディーンが「あはは」と声をあげて笑う。その笑い声に胸がほわっと温かくなる。そして苦しいくらいに嬉しくなった。これはきっとアリアナと私の二人の気持ち・・・。

私はディーンの藍色の瞳を見つめて言った。

「これからも、私の婚約者でいてくれますか?」

ディーンは嬉しそうに微笑んで、私の頬に手を添えた。

「喜んで、リナ」

柔らかい滝の音と、木々の葉擦れの音が祝福してくれている様だった。



―完―
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感想 24

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みんなの感想(24件)

yumeji
2023.09.29 yumeji
ネタバレ含む
2023.09.29 優摘

コメント頂きありがとうございます。
また、ご期待に沿える様なお話を書けなかった事、申し訳ございません。
身内の者にも、相手がディーンなのはおかしいと、実は指摘されておりました。
表現力や文章の拙さで、上手く物語を紡ぐ事が出来なかったと思います。

正直なご感想とご指摘を頂き、有難いです。
ご不快を感じながらも、頑張って読んで頂き、本当に感謝しております。
ありがとうございました。

解除
アイ
2023.09.29 アイ

完結、おめでとうございます!!
今読み終わったばかりで放心状態が強い…。楽しい作品をありがとうございます!また、最初から読み直そうかと思います。次の作品でまた出会ることを楽しみに待ってます。

2023.09.29 優摘

コメント頂きありがとうございます。
また、拙い文章を読んで頂き、本当にありがとうございました。
楽しいと言って頂けて、心から嬉しいです!
アイさんの様に、読んで頂ける方がいたので、1年かかりましたが何とか書き終える事ができました。
心からお礼申し上げます。
ありがとうございました。

解除
right on
2023.09.27 right on
ネタバレ含む
2023.09.27 優摘

ご感想ありがとうございます!

そうなのです。予想されてましたでしょうか?

今週中に完結予定です。長く読んで頂いてありがとうございました。

解除

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