モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
上 下
273 / 284
最終章 悪役令嬢は・・・

21

しおりを挟む
ヘンルーカは無表情な顔で私達の方を向いている。

「ヘン・・・」

呼びかけようとした時、私の身体から急激に力が失われていく事に気付いた。

(な、何で!?)

力はヘンルーカの方へと流れていた。

(もしかして、私の力を使ってシールドを張ってるの?!)

くらくらと視線が揺らいで、膝を付いてしまう。だけどその瞬間に電流が走ったように私は悟った。

(確かにこのシールドは私の力を使っている・・・だけどシールドを張ったのはヘンルーカじゃない、私だ!)

「リナ・・・この人は・・・この人は・・・」

アリアナの声が震えた。私はゆっくりと頷づく。

「うん・・・アリアナ」

(そうか・・・そうだったんだ)

私達の目の前にいる大聖女ヘンルーカはもう存在していない。

彼女はただの記憶だ。私とアリアナの記憶なのだ。

「ヘンルーカ・・・貴女は私達二人の前世なんだね!」

私がそう言った途端、ヘンルーカの姿は霞の様に消えてしまった。そしてその途端、私の中に色々な記憶が、まるで早送り再生をする様に蘇ってきた。幾つもの生と死、そしてヘンルーカとしての最後の記憶・・・、


ライナスを庇って命を落としたヘンルーカは、気が付くと一人暗闇に立っていた。

遠くに光の渦が見える。

―――ああ、そうか。あれは輪廻の光なのね・・・。私は死んだのだわ・・・

不思議と悲しくは無かった。ただ、ライナスを一人にしてしまった事だけが悔やまれた・・・。

私は引き寄せられるままに、光の方へと歩いた。あの中に入れば、私は消えてまた新しく生まれ変わるのだろう。

少し怖かったが、前の世界にはもう私の身体は無い。進むしかないのだ。

だけどその時、とてつもなく強力な力で後ろに引っ張られた。

―――な、何!?どうして!?

前の世界からの強制的な召喚。

―――ライナス!?

私は彼が、禁忌の精神魔術を使った事が分かった。

―――駄目!ライナス、この魔術は・・・

自然の理を曲げてしまう禍々しい魔術。ああ、私の容れ物にされてしまう誰かがいるのだ。

ハッと顔を上げると、悲しみと恐怖を顔に貼りつけた少女が、叫び声を上げながら光の渦に飲まれていった。

―――そんな!?

少女の顔には見覚えがあった。闇の組織で育てていた孤児の一人だ。私の頬を涙が伝った。

―――ライナス。貴方にそんな罪を犯させはしない・・・

私は自分の持つ全ての力で、私を前の世界に戻そうとする力に抗った。そして全身に鋭い痛みが走り、

―――ああっ!

私の精神は引き裂かれてしまった。そして私の欠片が元の世界へと引っ張られていく。あれは・・・愚かな私のライナスへの未練だ。

そしてヘンルーカは光の渦の中へと吸い込まれ、何も分からなくなった・・・



「う、うっ・・うっ・・・」

私の肩に顔を埋めてアリアナが泣いている。

「よ、呼び戻されたわたくしは・・・ただの精神の欠片でしかなかったの・・・。可哀そうな女の子の身体を動かす力も無かったのだわ。だから・・・わたくしは石像に封印されてしまった・・・」

闇の神殿にあったヘンルーカの石像。

15年前に壊されたと聞いた。

(そうか・・・像が壊されて封印が解けたんだ。そしてその精神の欠片がアリアナとして転生した)

私達はかつて同じ精神だった。それが別々に転生したんだ。それぞれに足りないものを抱えて。

私はアリアナを抱きしめた。彼女はヘンルーカだった時の、私のライナスへの想いそのものだった。なんて愛おしいのだろう・・・。自然と涙がこぼれた。

封印された精神が無くなって、ヘンルーカを呼び戻す事は出来なくなった。だからイーサンはあんなにも心を乱したんだ。

(ヘンルーカに会う事だけが、彼の望みだった・・・)

その為に何度も他人の体を奪い、渡り歩いた。なんて狡くて・・・悲しい生き方なんだろう。

「ひ、光が!」

エメラインの恐怖に掠れた声。

シールドを作っている私の力もそろそろ限界だった。光の渦は私達を飲み込もうと、シールドを押しつぶす様に迫ってきていた。

だけどその時、私とアリアナの体に巻きつくような強い風を感じた。

「あ・・・」

引っ張られる。

この混沌とした世界から無理矢理引き離そうとする、恐ろしい程の魔力。

「イーサン!?」

イーサンの闇の魔力。輪廻の光すら退ける圧倒的な力だ。

私の目の前の景色が徐々に霞んでいく。視界の中のエメラインの目が驚愕に見開かれた。

「いやあ!一人にしないで!」

絶望に顔を歪ませた彼女の手を、私は咄嗟に握った。

「するもんか!一緒に帰るよ!」

そこからは光の渦も暗闇でさえも、何も見えなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...