270 / 284
最終章 悪役令嬢は・・・
18(クリフ目線)
しおりを挟む
ハッと気付くと、俺は地下牢の固い石の床に倒れていた。
「ぐ・・・痛ぅ・・・」
壁に叩きつけられた衝撃で、どうやらアバラを何本かやられたらしい。
「ア、アリアナは・・・?」
くらくらする頭を押さえながら、俺は部屋の中を見回した。そして入口に赤い髪の女が倒れているのを見てギョッとする。
「エメライン!」
慌てて起き上がると、全身に痛みが走る。気合で身構えたが、エメラインのは横たわったままピクリとも動かない。
「まさか・・・」
警戒しつつ近づくと、彼女は生気のない顔でぐったりとしている。呼吸はしている様だが、その様子に違和感を感じた。
(なんだこれは・・・?)
彼女から生きている人間の気配がしない。まるで空っぽの人形のようだ。ゾクリと嫌な予感が背中を走る。
(アリアナはどこだ!?)
俺は急いで牢屋から出ると、痛む身体を引きずるようにして階段を登る。
(くそっ!)
回復の魔術が使え無い自分に、苛立ちを覚えた。
やっとの思いで階段を登り切る。そして廊下の角を曲がった所で、運の悪い事に巡回中の兵士達と行き会ってしまった。
知らぬ顔で反対方向へ逃げようとしたが、
「おい!そこの女!」
と呼び止められてしまった。
(ちっ・・・)
仕方なく振り向くと、兵士達の顔に驚愕の表情が浮かんだ。
(・・・何だ?)
そこでやっと、さっき吹っ飛ばされた時にカツラが落ちてしまっていた事に気付いた。
(しまった!バレた!)
そう思っ身構えて魔術を使おうとしたが、兵士たちの様子がおかしい。敵意を感じられない上に、顔を真っ赤にさせている奴もいる。
(なんだこいつら?酒でも飲んでいるのか?)
訝しく思っていると、リーダーらしき男がやたらと咳ばらいをしながら話しかけて来た。
「あ・・・えー、どちらかのご令嬢の侍女の方ですかな?お、お怪我をなさっているようですが、大丈夫でしょうか?」
(バレていない!!?)
何よりもその事に衝撃を受けて、俺は数歩よろめいてしまった。
「あ、危ない!」
兵士の一人が素早く俺の腕を支えた。至近距離に冷や汗が落ちる。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
掠れる声で礼を言いいながら、俺は困惑し続けた。
(なんで気付かないんだよ!?男と女の区別がつかない程、こいつらの目は馬鹿なのか?やっぱり酔っぱらっているのか?それともこの国の女は髪が短かくて普通なのか!?)
もしかして精神魔術に支配されて、思考力まで無くなっているのだろうかとまで考えてしまう。
兵士たちは巡回の途中だろうに一向に去ろうとしない。それに俺の方をチラチラ見ては、赤面しながらもじもじする。その様子が気色悪い。
(くそっ・・・どうするか)
男だとバレていないのなら有難いが、いつまでもこうしてはいられない。
そこで一計を講じてみる事にした。
俺は額を押さえて「ああ・・・」と座り込んだ。
「侍女殿!大丈夫ですかな!」
リーダーの男が慌てて俺の横に跪く。顔を覗きこむ鼻息が荒い。俺は吐き気を我慢して芝居を続けた。
「ち、地下の牢屋に狼藉者が・・・。エメライン様が襲われて倒れております。早く救助に行ってくださいませ・・・」
「な、なんですと!?お、おい、お前達、地下牢に急げ!エメライン様をお救いするのだ!」
「は、はい!」
兵士達は慌てて走って行く。しかしリーダーの男だけが俺の傍から離れてくれなかった。
「・・・あ、あの・・・どうか貴方様もエメライン様のところへ・・・」
「いえ!怪我をしているご婦人を放ってはおけませんからな。私が医務官の所までお送りいたしましょう!」
赤い顔で鼻息荒く肩を抱いてくる。一気に身体に鳥肌が立った。
「おお!震えておられる。もう大丈夫ですぞ。私がついていまおりますから。・・・もしかして、暴漢に御髪を切られてしまったのでは!?貴女の様な美しい方になんたる狼藉!」
嫌らしい顔で腰に手を回されて、そこまでが限界だった。
「気色悪い手で触んな、この下衆!」
俺は男の顔面に思いっきり拳をぶつけ、みぞおちに蹴りを入れた。
「がふんっ!」
変な声を上げて男は簡単にひっくり返った。
「あ~・・・くそっ!」
俺は痛むあばらを押さえながら、伸びてる男を見下ろす。
(このまま転がしとくと、見つかった時面倒だな・・・)
なんとか男を引きずって、空き部屋の中に引きずり入れ、俺は男の身ぐるみを剥がして侍女の服を着替えた。化粧もついでに拭き取る。
(ふう・・・もうスカートはごめんだ)
俺は兵士の恰好で廊下を進む。とにかくトラヴィス殿下達と合流しなくては。
その時、どこかで争う様な声が聞こえた。
(どっちだ!?)
声の聞こえる方に向かおうとして、足がもつれて膝を付いてしまった。息を吸う度に脇腹が鋭く痛む。
(アリアナを守るって約束したのに・・・)
自分の不甲斐なさに唇を噛みしめる。これじゃディーンに顔向けが出来ない。
かすかにトラヴィス殿下とリリーの声が聞こえた気がした。
「・・・動けっ!」
俺は萎えそうになる自分の足を叩いて、壁をつたいながら彼らの元へ急いだ。
「ぐ・・・痛ぅ・・・」
壁に叩きつけられた衝撃で、どうやらアバラを何本かやられたらしい。
「ア、アリアナは・・・?」
くらくらする頭を押さえながら、俺は部屋の中を見回した。そして入口に赤い髪の女が倒れているのを見てギョッとする。
「エメライン!」
慌てて起き上がると、全身に痛みが走る。気合で身構えたが、エメラインのは横たわったままピクリとも動かない。
「まさか・・・」
警戒しつつ近づくと、彼女は生気のない顔でぐったりとしている。呼吸はしている様だが、その様子に違和感を感じた。
(なんだこれは・・・?)
彼女から生きている人間の気配がしない。まるで空っぽの人形のようだ。ゾクリと嫌な予感が背中を走る。
(アリアナはどこだ!?)
俺は急いで牢屋から出ると、痛む身体を引きずるようにして階段を登る。
(くそっ!)
回復の魔術が使え無い自分に、苛立ちを覚えた。
やっとの思いで階段を登り切る。そして廊下の角を曲がった所で、運の悪い事に巡回中の兵士達と行き会ってしまった。
知らぬ顔で反対方向へ逃げようとしたが、
「おい!そこの女!」
と呼び止められてしまった。
(ちっ・・・)
仕方なく振り向くと、兵士達の顔に驚愕の表情が浮かんだ。
(・・・何だ?)
そこでやっと、さっき吹っ飛ばされた時にカツラが落ちてしまっていた事に気付いた。
(しまった!バレた!)
そう思っ身構えて魔術を使おうとしたが、兵士たちの様子がおかしい。敵意を感じられない上に、顔を真っ赤にさせている奴もいる。
(なんだこいつら?酒でも飲んでいるのか?)
訝しく思っていると、リーダーらしき男がやたらと咳ばらいをしながら話しかけて来た。
「あ・・・えー、どちらかのご令嬢の侍女の方ですかな?お、お怪我をなさっているようですが、大丈夫でしょうか?」
(バレていない!!?)
何よりもその事に衝撃を受けて、俺は数歩よろめいてしまった。
「あ、危ない!」
兵士の一人が素早く俺の腕を支えた。至近距離に冷や汗が落ちる。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
掠れる声で礼を言いいながら、俺は困惑し続けた。
(なんで気付かないんだよ!?男と女の区別がつかない程、こいつらの目は馬鹿なのか?やっぱり酔っぱらっているのか?それともこの国の女は髪が短かくて普通なのか!?)
もしかして精神魔術に支配されて、思考力まで無くなっているのだろうかとまで考えてしまう。
兵士たちは巡回の途中だろうに一向に去ろうとしない。それに俺の方をチラチラ見ては、赤面しながらもじもじする。その様子が気色悪い。
(くそっ・・・どうするか)
男だとバレていないのなら有難いが、いつまでもこうしてはいられない。
そこで一計を講じてみる事にした。
俺は額を押さえて「ああ・・・」と座り込んだ。
「侍女殿!大丈夫ですかな!」
リーダーの男が慌てて俺の横に跪く。顔を覗きこむ鼻息が荒い。俺は吐き気を我慢して芝居を続けた。
「ち、地下の牢屋に狼藉者が・・・。エメライン様が襲われて倒れております。早く救助に行ってくださいませ・・・」
「な、なんですと!?お、おい、お前達、地下牢に急げ!エメライン様をお救いするのだ!」
「は、はい!」
兵士達は慌てて走って行く。しかしリーダーの男だけが俺の傍から離れてくれなかった。
「・・・あ、あの・・・どうか貴方様もエメライン様のところへ・・・」
「いえ!怪我をしているご婦人を放ってはおけませんからな。私が医務官の所までお送りいたしましょう!」
赤い顔で鼻息荒く肩を抱いてくる。一気に身体に鳥肌が立った。
「おお!震えておられる。もう大丈夫ですぞ。私がついていまおりますから。・・・もしかして、暴漢に御髪を切られてしまったのでは!?貴女の様な美しい方になんたる狼藉!」
嫌らしい顔で腰に手を回されて、そこまでが限界だった。
「気色悪い手で触んな、この下衆!」
俺は男の顔面に思いっきり拳をぶつけ、みぞおちに蹴りを入れた。
「がふんっ!」
変な声を上げて男は簡単にひっくり返った。
「あ~・・・くそっ!」
俺は痛むあばらを押さえながら、伸びてる男を見下ろす。
(このまま転がしとくと、見つかった時面倒だな・・・)
なんとか男を引きずって、空き部屋の中に引きずり入れ、俺は男の身ぐるみを剥がして侍女の服を着替えた。化粧もついでに拭き取る。
(ふう・・・もうスカートはごめんだ)
俺は兵士の恰好で廊下を進む。とにかくトラヴィス殿下達と合流しなくては。
その時、どこかで争う様な声が聞こえた。
(どっちだ!?)
声の聞こえる方に向かおうとして、足がもつれて膝を付いてしまった。息を吸う度に脇腹が鋭く痛む。
(アリアナを守るって約束したのに・・・)
自分の不甲斐なさに唇を噛みしめる。これじゃディーンに顔向けが出来ない。
かすかにトラヴィス殿下とリリーの声が聞こえた気がした。
「・・・動けっ!」
俺は萎えそうになる自分の足を叩いて、壁をつたいながら彼らの元へ急いだ。
15
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる