265 / 284
最終章 悪役令嬢は・・・
13
しおりを挟む黒い髪が眼に当たるのだろうか、手の甲でしきりに眼を擦る様子が、 起きている時と違って幼い子供のような仕草で、エリザベスは思わず微笑み、アークの前髪をそっと眼の上から払った。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
15
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる