モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

最終章 悪役令嬢は・・・

8

トラヴィスとリリーの言葉を聞いてディーンが溜息をついた。そして一歩進み出ると、

「殿下、護衛として同行する事をお許しください」

「ディーン！？」

「シールドなら私が一番得意だ」

ディーンは驚く私を振り返ってそう言った。

「なら俺も行く。城を吹っ飛ばすのなら、トラヴィス殿下よりも俺の方が向いているからな」

今度はクリフがそう言いながら進み出た。

「そ、そんな・・・」

私は慌てた。だってこの作戦は大部分が出たとこ勝負・・・つまりはとっても危険なのだ。二人を止めようとしたら、

「兄上とディーンが行くのなら当然僕も行く！、心配で待ってなんかいられないよ！」

ブラコンでディーンに恋してるパーシヴァルが声を上げた。

「わたくしも！アリアナを守る事がわたくしの使命ですので」

クローディアが私に駆け寄って跪く。

「そんな！私だって・・・」
「わたしも！」
「お、俺も！」
「わ、わたくしも・・・」

ミリア、ジョージア、ケイシー、レティシアも次々に声を上げていく。

（おいおい、これじゃ収集が付かないぞ・・・）

もしかしてと思い、ちらっとクラークを見ると、彼は私に向かってにっこり笑った。

（やっぱり！クラークも付いて来る気満々じゃん！）

私はがっくりと脱力した。

妹溺愛の兄が、アリアナだけ行かせるはずは無いのだ。

だけど、さすがに全員は無理だろう。相手が呼んでるのは私とトラヴィスだけなのだ。

（どうするよ？ねーさん）

トラヴィスはしばらく何か考えていたが、

「一緒に行くのはディーンとクリフ。そしてグローシアだ」

皇太子らしく、威厳のある態度できっぱりとそう言った。

皆の顔に不満の色が浮かんだ。クラークもトラヴィスに抗議しようと立ち上がっている。

するとトラヴィスは私に顔を向けニヤリと笑った。

（げっ！ねーさんの顔）

「アリアナ、説明してやってくれ」

（ちょ、ちょっと！？）

どうやら面倒臭くなったトラヴィスは、私に理由の説明を丸投げしてきたようだ。なんてこった！

このやろうと思いながらも、私はトラヴィスの人選について頭を回転させた。

「え～っと、まずミリーにジョー、レティは隣国に行かない方が良いです。3人は以前、エメライン王女のお世話役を断った経緯があります。彼女がそれを覚えてたら、恐らく面倒な事になります」

執念深いエメラインの事だ。3人の事を許してはいないだろう

「それからパーシヴァル殿下は洞察力に優れてるので、国内の要人の中に精神魔術にかけられているものが居ないか探って欲しいです」

セルナクに発つ前に、分かっている場所はリリーと私で解術をするつもりだけど、他にも被害に遭ってる人がいるかもしれない。

「そしてお兄様は絶対に来ちゃ駄目です。私の件でコールリッジ家はエメラインに良く思われていませんからね。相手の気持ちを逆なでしかねません。お兄様はケイシー様と、トラヴィス殿下が居ない間の学園のとりまとめを行って欲しいです」

そう言うとクラークはしょんぼりと項垂れた。

これで良いか？とトラヴィス見ると、満足そうに頷いている。なんて人使いの荒い皇太子だ！

「他の者はセルナクからの攻撃に備えて欲しい。パーシヴァル、お前は第二皇子だ。私に何かあった時、皇国と父を守って欲しい」

パーシヴァルは眉を寄せながらも渋々頷いた。

トラヴィスはクラークに目を向けると、

「学園内も精神魔術の影響で荒れている。私が居ない間にケイシーと二人で何とか収めて欲しい。アリアナは私達で絶対に守るから・・・頼む」

そう言うとクラークはしばらく黙ったままトラヴィスを見返していたが、

「分かりました」

そう言って礼をした。


次の日から皇国で私とリリーは精神魔術の解術に大忙しだった。

思っていたよりも被害は多く、学園の生徒の半数、そして教員や職員のほとんどが、自分では気づかない内に精神魔術の種を植え付けられていたのだ。

もしこの人達が戦争が始まった時に、全員裏切り行為をしていたと思うとゾッとした。

自国民同士で訳も分からず戦う事になり、皇国はすぐに滅びてしまっていたかもしれない。

省庁の職員や、病院においても同じような物だった。知らない内にモーガン先生の魔術はこの国を深く蝕んでいたのだ。

（どうしてここまで・・・、モーガン先生はそんなにも皇国を憎んでいたのだろうか？）

イーサンによって命を奪われたモーガン先生。

死んでしまった今も、彼女についてはまだ謎だらけだ。

そうして一週間後に、私達は隣国セルナクに向けて出発した。