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閑話6 森の山小屋(ディーン)
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(失敗だ・・・)
私は自分の頭を拳で小突いた。
誰の所有か分からない山小屋のソファに寝っ転がって片手で目を押さえる。
二人掛けのソファからは両足がはみ出していたが、そんな事はどうでも良い。
(怖がらせてしまっただろうか・・・)
私はリナが眠っている寝室のドアを見て溜息をついた。
黒いフードの人物の転移に巻き込まれて、私達はこの森に飛ばされた。
(一緒で良かった)
あの時咄嗟にリナの手を掴んだ自分を褒めてやりたい。もしも彼女だけ奴と転移していたらと思うとゾッとする。
見知らぬ森の中でこの山小屋を見つけられたのも幸運だった。一日歩いたうえ、立て続けの戦闘でリナも疲れている。彼女を野宿させずに済んで本当に良かった。良かったのだが・・・
(二人っきりでこの状況はちょっと・・・)
―――イーサンにやられた怪我は大丈夫なのですか?
先程そう言って、自分の事を心配してくれたのは嬉しかった。
でもあんな風に無防備に近づかれると、さすがに冷静ではいられない。
そのせいで危うく彼女に要らぬ誤解をさせてしまう所だった。
―――嫌だったですよね・・・離れます。
思い出して思わず頭を抱えた。
(あれは焦った。嫌なわけ無いだろう!)
もちろん、彼女に不埒な事をするつもりなんて無い!。そんな事は紳士の風上にも置けない行為だ。だけど・・・
(・・・こんな状況で落ち着いてなど居られるか!。それくらい私は彼女に溺れてる)
それは、もうずっと前から自覚しているのだ。
昨年、リナの意識が再びアリアナとして生きる様になってから色々な変化があった。
まず一つは、彼女の身長が伸びた事。
(おかげで余計な虫が増えてしまった・・・)
今までも彼女は美しかったが、小柄過ぎて人形の様に可愛らしいという印象だった。今でも小柄だけど、前よりも背が伸びた事で女性らしい美しさが増した。
自分と言う婚約者がいても、彼女を狙う者は多い。だから日々気を付けなくてはいけないのだ。
二つ目は私の意識が変わった事。
あれ以来、私は取り繕う事をやめた。なりふり構ってられない事に気付いたのだ。
あの時、アリアナに糾弾された事を私は時々思い出す。
(私の事を『クズ男』って言ってたな)
思わず自嘲する様に笑ってしまった。
(本当にそうだ。私は今でも彼女を逃がさない為に卑怯な手を使ってる)
私はリナに、お互いの利害による婚約を持ちかけた。あくまで卒業までの契約と言う話で。
(でなければ、彼女は承知しなかっただろう)
リナを好きな男の中には、クリフとトラヴィス殿下がいる。二人は自分よりもずっと優れた男だ。
もしかしたらリナが、いずれ二人の何方かを選ぶ時が来るのかもしれない・・・。
だけど、彼らよりも自分の方が有利な点があった。
それは、クリフは彼自身の幸せよりもリナの幸せを考えている事。そして殿下はリナをどこか妹の様に思っている事だ。
(私は二人の気持ちにつけ込んだに過ぎない・・・)
リナはずっと婚約を解消したがっていた。きっとアリアナの事を想っていたのだろう。それに彼女は別に・・・
(私の事を好きな訳では無いのだ)
再び重い溜息が私の口からこぼれた。
だから婚約しているからと言って思い上がってはいけない。それにリナが最近、自分を意識してくれてるように見えても、それは警戒されているだけなのかもしれないから。
(まずは彼女に少しずつで良いから、私の気持ちを伝えていく。そして彼女から信頼される様にならないと・・・)
その時だった。
閉じられていた寝室の扉がカチャッと音を立てた。
「えっ・・・?」
ハニーブロンドの髪が扉の隙間からふわりと流れ、エメラルドグリーンの瞳がチラリとこちらを見た。
「リ・・・ナ・・・?」
私はソファから身体を起こした。
彼女は私を潤んだ目で見つめて柔らかく笑った。そして、
「ディーン様・・・わたくしは構いません事よ」
それを聞いた私は一瞬、思考が飛んだ。
(な・・・)
全身が金縛りにあったように、身体が動かない。
だけど次の瞬間、直ぐに彼女がまとう雰囲気の違いに気付いた。
「・・・アリアナだな!。私をからかわないでくれ」
羞恥心に身体全身が熱くなった。
「あら・・・気付いてしまいました?。つまらないこと」
アリアナは扉から半身だけ覗かせて、くすくすと笑う。
「お顔が真っ赤でしてよ?。どうなさいました?」
揶揄う様に私を見た。
「リナが寝ている間に動き回るのは良いが、彼女の迷惑になるだろう!」
「あら、元々はわたくしの身体でしてよ。優先権はわたくしにあるわ」
私は苦い物を噛んだような気分になった。
「・・・明日は森から出なくてはならない。早く身体を休め・・・」
「ねぇ、ディーン様・・・?」
アリアナは私の言葉を遮る様に呼びかけた。そして、
「もしかして、あの子も待ってるのだとしたらどうします?」
「は?」
(何を・・・)
「貴方がこの扉を開けて入って来るのを」
アリアナは艶然と微笑んだ。
私は自分の頭を拳で小突いた。
誰の所有か分からない山小屋のソファに寝っ転がって片手で目を押さえる。
二人掛けのソファからは両足がはみ出していたが、そんな事はどうでも良い。
(怖がらせてしまっただろうか・・・)
私はリナが眠っている寝室のドアを見て溜息をついた。
黒いフードの人物の転移に巻き込まれて、私達はこの森に飛ばされた。
(一緒で良かった)
あの時咄嗟にリナの手を掴んだ自分を褒めてやりたい。もしも彼女だけ奴と転移していたらと思うとゾッとする。
見知らぬ森の中でこの山小屋を見つけられたのも幸運だった。一日歩いたうえ、立て続けの戦闘でリナも疲れている。彼女を野宿させずに済んで本当に良かった。良かったのだが・・・
(二人っきりでこの状況はちょっと・・・)
―――イーサンにやられた怪我は大丈夫なのですか?
先程そう言って、自分の事を心配してくれたのは嬉しかった。
でもあんな風に無防備に近づかれると、さすがに冷静ではいられない。
そのせいで危うく彼女に要らぬ誤解をさせてしまう所だった。
―――嫌だったですよね・・・離れます。
思い出して思わず頭を抱えた。
(あれは焦った。嫌なわけ無いだろう!)
もちろん、彼女に不埒な事をするつもりなんて無い!。そんな事は紳士の風上にも置けない行為だ。だけど・・・
(・・・こんな状況で落ち着いてなど居られるか!。それくらい私は彼女に溺れてる)
それは、もうずっと前から自覚しているのだ。
昨年、リナの意識が再びアリアナとして生きる様になってから色々な変化があった。
まず一つは、彼女の身長が伸びた事。
(おかげで余計な虫が増えてしまった・・・)
今までも彼女は美しかったが、小柄過ぎて人形の様に可愛らしいという印象だった。今でも小柄だけど、前よりも背が伸びた事で女性らしい美しさが増した。
自分と言う婚約者がいても、彼女を狙う者は多い。だから日々気を付けなくてはいけないのだ。
二つ目は私の意識が変わった事。
あれ以来、私は取り繕う事をやめた。なりふり構ってられない事に気付いたのだ。
あの時、アリアナに糾弾された事を私は時々思い出す。
(私の事を『クズ男』って言ってたな)
思わず自嘲する様に笑ってしまった。
(本当にそうだ。私は今でも彼女を逃がさない為に卑怯な手を使ってる)
私はリナに、お互いの利害による婚約を持ちかけた。あくまで卒業までの契約と言う話で。
(でなければ、彼女は承知しなかっただろう)
リナを好きな男の中には、クリフとトラヴィス殿下がいる。二人は自分よりもずっと優れた男だ。
もしかしたらリナが、いずれ二人の何方かを選ぶ時が来るのかもしれない・・・。
だけど、彼らよりも自分の方が有利な点があった。
それは、クリフは彼自身の幸せよりもリナの幸せを考えている事。そして殿下はリナをどこか妹の様に思っている事だ。
(私は二人の気持ちにつけ込んだに過ぎない・・・)
リナはずっと婚約を解消したがっていた。きっとアリアナの事を想っていたのだろう。それに彼女は別に・・・
(私の事を好きな訳では無いのだ)
再び重い溜息が私の口からこぼれた。
だから婚約しているからと言って思い上がってはいけない。それにリナが最近、自分を意識してくれてるように見えても、それは警戒されているだけなのかもしれないから。
(まずは彼女に少しずつで良いから、私の気持ちを伝えていく。そして彼女から信頼される様にならないと・・・)
その時だった。
閉じられていた寝室の扉がカチャッと音を立てた。
「えっ・・・?」
ハニーブロンドの髪が扉の隙間からふわりと流れ、エメラルドグリーンの瞳がチラリとこちらを見た。
「リ・・・ナ・・・?」
私はソファから身体を起こした。
彼女は私を潤んだ目で見つめて柔らかく笑った。そして、
「ディーン様・・・わたくしは構いません事よ」
それを聞いた私は一瞬、思考が飛んだ。
(な・・・)
全身が金縛りにあったように、身体が動かない。
だけど次の瞬間、直ぐに彼女がまとう雰囲気の違いに気付いた。
「・・・アリアナだな!。私をからかわないでくれ」
羞恥心に身体全身が熱くなった。
「あら・・・気付いてしまいました?。つまらないこと」
アリアナは扉から半身だけ覗かせて、くすくすと笑う。
「お顔が真っ赤でしてよ?。どうなさいました?」
揶揄う様に私を見た。
「リナが寝ている間に動き回るのは良いが、彼女の迷惑になるだろう!」
「あら、元々はわたくしの身体でしてよ。優先権はわたくしにあるわ」
私は苦い物を噛んだような気分になった。
「・・・明日は森から出なくてはならない。早く身体を休め・・・」
「ねぇ、ディーン様・・・?」
アリアナは私の言葉を遮る様に呼びかけた。そして、
「もしかして、あの子も待ってるのだとしたらどうします?」
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(何を・・・)
「貴方がこの扉を開けて入って来るのを」
アリアナは艶然と微笑んだ。
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