モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
上 下
251 / 284
閑話6 森の山小屋(ディーン)

1

しおりを挟む
(失敗だ・・・)

私は自分の頭を拳で小突いた。

誰の所有か分からない山小屋のソファに寝っ転がって片手で目を押さえる。

二人掛けのソファからは両足がはみ出していたが、そんな事はどうでも良い。

(怖がらせてしまっただろうか・・・)

私はリナが眠っている寝室のドアを見て溜息をついた。


黒いフードの人物の転移に巻き込まれて、私達はこの森に飛ばされた。

(一緒で良かった)

あの時咄嗟にリナの手を掴んだ自分を褒めてやりたい。もしも彼女だけ奴と転移していたらと思うとゾッとする。

見知らぬ森の中でこの山小屋を見つけられたのも幸運だった。一日歩いたうえ、立て続けの戦闘でリナも疲れている。彼女を野宿させずに済んで本当に良かった。良かったのだが・・・

(二人っきりでこの状況はちょっと・・・)

―――イーサンにやられた怪我は大丈夫なのですか?

先程そう言って、自分の事を心配してくれたのは嬉しかった。

でもあんな風に無防備に近づかれると、さすがに冷静ではいられない。

そのせいで危うく彼女に要らぬ誤解をさせてしまう所だった。

―――嫌だったですよね・・・離れます。

思い出して思わず頭を抱えた。

(あれは焦った。嫌なわけ無いだろう!)

もちろん、彼女に不埒な事をするつもりなんて無い!。そんな事は紳士の風上にも置けない行為だ。だけど・・・

(・・・こんな状況で落ち着いてなど居られるか!。それくらい私は彼女に溺れてる)

それは、もうずっと前から自覚しているのだ。


昨年、リナの意識が再びアリアナとして生きる様になってから色々な変化があった。

まず一つは、彼女の身長が伸びた事。

(おかげで余計な虫が増えてしまった・・・)

今までも彼女は美しかったが、小柄過ぎて人形の様に可愛らしいという印象だった。今でも小柄だけど、前よりも背が伸びた事で女性らしい美しさが増した。

自分と言う婚約者がいても、彼女を狙う者は多い。だから日々気を付けなくてはいけないのだ。

二つ目は私の意識が変わった事。

あれ以来、私は取り繕う事をやめた。なりふり構ってられない事に気付いたのだ。

あの時、アリアナに糾弾された事を私は時々思い出す。

(私の事を『クズ男』って言ってたな)

思わず自嘲する様に笑ってしまった。

(本当にそうだ。私は今でも彼女を逃がさない為に卑怯な手を使ってる)

私はリナに、お互いの利害による婚約を持ちかけた。あくまで卒業までの契約と言う話で。

(でなければ、彼女は承知しなかっただろう)

リナを好きな男の中には、クリフとトラヴィス殿下がいる。二人は自分よりもずっと優れた男だ。

もしかしたらリナが、いずれ二人の何方かを選ぶ時が来るのかもしれない・・・。

だけど、彼らよりも自分の方が有利な点があった。

それは、クリフは彼自身の幸せよりもリナの幸せを考えている事。そして殿下はリナをどこか妹の様に思っている事だ。

(私は二人の気持ちにつけ込んだに過ぎない・・・)

リナはずっと婚約を解消したがっていた。きっとアリアナの事を想っていたのだろう。それに彼女は別に・・・

(私の事を好きな訳では無いのだ)

再び重い溜息が私の口からこぼれた。

だから婚約しているからと言って思い上がってはいけない。それにリナが最近、自分を意識してくれてるように見えても、それは警戒されているだけなのかもしれないから。

(まずは彼女に少しずつで良いから、私の気持ちを伝えていく。そして彼女から信頼される様にならないと・・・)

その時だった。

閉じられていた寝室の扉がカチャッと音を立てた。

「えっ・・・?」

ハニーブロンドの髪が扉の隙間からふわりと流れ、エメラルドグリーンの瞳がチラリとこちらを見た。

「リ・・・ナ・・・?」

私はソファから身体を起こした。

彼女は私を潤んだ目で見つめて柔らかく笑った。そして、

「ディーン様・・・わたくしは構いません事よ」

それを聞いた私は一瞬、思考が飛んだ。

(な・・・)

全身が金縛りにあったように、身体が動かない。

だけど次の瞬間、直ぐに彼女がまとう雰囲気の違いに気付いた。

「・・・アリアナだな!。私をからかわないでくれ」

羞恥心に身体全身が熱くなった。

「あら・・・気付いてしまいました?。つまらないこと」

アリアナは扉から半身だけ覗かせて、くすくすと笑う。

「お顔が真っ赤でしてよ?。どうなさいました?」

揶揄う様に私を見た。

「リナが寝ている間に動き回るのは良いが、彼女の迷惑になるだろう!」

「あら、元々はわたくしの身体でしてよ。優先権はわたくしにあるわ」

私は苦い物を噛んだような気分になった。

「・・・明日は森から出なくてはならない。早く身体を休め・・・」

「ねぇ、ディーン様・・・?」

アリアナは私の言葉を遮る様に呼びかけた。そして、

「もしかして、あの子も待ってるのだとしたらどうします?」

「は?」

(何を・・・)

「貴方がこの扉を開けて入って来るのを」

アリアナは艶然と微笑んだ。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...