モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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「や、やったぁ!」

成功した!

シールドに弾き飛ばされた闇の魔術は、空気に薄められるように消えていった。

トラヴィスとディーンがゆっくりと私を振り向き、呆気に取られた顔で見てくる。

「アリアナ・・・今の何なの?」

またトラヴィスの口調がねーさんだ。

「説明は後!」

言い捨てて私はクリフ達の所へ駆けつけた。

「大丈夫ですか!?」

一瞬とはいえ闇の魔術の攻撃を受けたのだ。3人は苦しそうに顔を歪めて倒れていた。

「トラヴィス殿下!。治癒魔術を!」

「あ、ああ分かった。だが治癒魔術では闇の魔術を完全に治す事は・・・」

「早く!。何とかなるかもです!」

被せる様にそう言って、クリフ達に治癒魔術をかける為にしゃがんだトラヴィスの後ろに私は立った。そして彼の背中にそっと両手を添える。

私のお腹の底の方で、再び熱のうねりが動くのを感じると、

「う、うわっ!」

トラヴィスの驚く声と共にクリフ、ミリア、パーシヴァルの体が大きな黄金の光に包まれた。

そして直ぐにミリアが不思議そうに顔を上げ、

「・・・苦しさも痛みも消えた・・・え?」

そう言って立ち上がると確かめる様に肩を回した。

クリフとパーシヴァルは戸惑った表情で座り込んでいる。でもどうやら闇の魔術の影響は抜けたようだ。

(よし!。これで皆は大丈夫。)

さて次だ!

「殿下!。ディーン!。黒フードを捕えますよ!」

私は黒いフードの人物が倒れている祭壇に向かって走った。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、あんた!」

トラヴィスが慌てながら付いて来る。ねーさんの口調を戻さなくて良いのだろうか?

ディーンは既に祭壇の近くで奴を見張っていた。

黒フードは「うう・・・」とうめきながらうずくまっている。急激に膨張したシールドによって壁に叩きつけられたのだ、相当なダメージを受けているはず。

私は念のためにディーンとトラヴィスに触れたまま、この謎の人物に近寄った。

「もう逃げられないですよ。貴方は何者!?。どうしてこんな事をするの!?」

私の問いに答えないまま、謎の人物は苦し気に咳込んだ。しかし血の付いた手を床に叩きつける様に体を起こすと、震えるもう片方の手を広げた。

「気を付けろ!」

その手の中で宝玉が光るのを見て、咄嗟にトラヴィスがシールドを張る。だけど私は黒フードの体が奇妙にブレるのを見逃さなかった。

「駄目!」

黒フードが転移で逃げようとしていると悟った私は、思わず飛び出して黒フードの服を掴んだ。

「アリアナ!」

トラヴィスの呼ぶ声と共に、私の手首を掴む誰かの手。

目の前の景色がグニャリと歪み、グルグルと回り始めて・・・

(うわわわわ)

竜巻に巻き込まれるような感覚がした途端、私は何も分からなくなった。



――――リナ・・・

夢うつつの中、誰かが私の名前を呼んでる。もう誰も呼ばなくなった昔の名前だ。

(・・・ううん違う。1人だけ・・・この名で私を呼ぶ人が・・・)

「リナ!起きろ。大丈夫か!?」

「ディーン!?」

急激な覚醒と共に私は飛び起きた。

ゴチッ!

「痛いっ!」

おでこを思いっきりぶつけてしまった。

(いったたたたた)

涙目で片目を開けると、目の前に私と同じく痛そうにオデコを押さえたディーンと目があった。

(げっ)

一瞬で状況を理解した。

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ・・・。それよりも、私達も洞窟から移転してしまったようだ」

「え?」

よくよく周りを見てみると、私達が居るのは光も届かない程の深い森の中だった。

「あっ、黒フードは!?」

キョロキョロと辺りを探す。あいつも一緒に転移したはずだ。

だけどディーンは首を横に振ると、

「私も転移した時に意識を失ってしまったようだ。気づいた時には姿が無かった・・・」

言葉に悔しさをにじませる。

(逃がしてしまった・・・)

がっかりした気分で肩を落とすと、ディーンが私に手を差し伸べた。

「立てるか?。もうすぐ夜になる。夜露を凌げるところを探さないと」

「そ、そうですね」

私はディーンの手を取った。

すっかり日が傾いた真っ暗な森の中を、ディーンの魔術の炎の灯りを頼りに私達は歩いた。

(今何時だろう?)

今日は朝から洞窟に入って歩きっぱなしだ。その後はイーサンに謎の黒フードと、続けて2回の攻撃でもうヘトヘトである。

洞窟に残されたトラヴィス達は大丈夫だろうか?。クラークとレティシアは助けを呼んでくれただろうか?。

それに一番気がかりなのは、

(リリー・・・)

イーサンを追いかけて一緒に消えてしまった。

リリーは無事でいるのだろうか?。イーサンに酷い事をされていないだろうか?。

(リリーを虐めたら只じゃおかないんだから・・・)

(皆にパワーを送って魔術で懲らしめて貰うとか)

(自分で出来ないのがちょっと情けないけど・・・)

ぶつぶつ独り言を言っていたら、

「リナ、大丈夫か?」

私の手を引きながら、ディーンは気遣わしそうな表情で私を見た。

「だ、大丈夫。全然、元気だす!」

噛んでしまった・・・。

繋いだ手が熱い・・・と言うか手汗をかいているのが恥ずかしい。

「日が完全に沈む前に休む所を見つけよう。・・・今日は野宿になってしまいそうだが・・・」

「ふ、冬で無くて良かったですね!」

(・・・な、何と言う頭の悪い返事)

私は心の中で頭を抱えた。
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