モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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トラヴィスは倒れた男の前に立った。

「答えろ。ここはお前たちにとって何の場所だ!?」

男は震えながらたどたどしく答えた。

「こ、ここは聖女ヘンルーカ様の御魂をお守りする・・・し、神殿・・・わ、私達はここの神官で、それで・・・」

「どうしてお前以外の者は殺されたのだ?。ここで何が起きた!?」

「わわわ、分からない。う、裏切り者が・・・うああああ!」

男は突然叫び声をあげて動かなくなった。

「おい!」

男の身体から黒い粒子の様なものが舞い上がり消えていく。

「なっ!?」

「兄上!あそこを!」

パーシヴァルの叫びに目をやると、祭壇の前に倒れた男と同じ黒いフードの人物が立っていた。目深にかぶったフードのせいで顔は全く見えない。

だけど私は、その人物を見た時に直感で分かった!。

(あ、あいつは私を眠らせた奴!)


そうだ!。意識の中で見たあの黒いフードの人物だ!


黒いフードの彼(彼女?)は聖女の像の前でゆっくりと両手を広げた。その手に魔力増幅の宝玉を持ち、指には二つの指輪。

空気が振動する様なブーンと言う嫌な音。黒いフードの人物の全身から黒い粒子が湧き上がった。

「や、闇の魔術!?」

前にイーサンが使ったのと同じ恐ろしい魔術だ。でもイーサンの魔術よりはかなり小さく見えた。

だけど黒フードの手にある宝玉がチカッと光ったかと思うと、黒い粒子は一瞬で神殿を埋め尽くす程に膨れ上がり、渦を巻いて私達に襲い掛かった。

「うわぁ!」

トラヴィスとディーンが急いでシールドを張った。ところが闇の魔術の力は膨大で少しずつシールドを溶かしていく。

「ぐぅ・・・」

トラヴィスの口から苦しそうな声が漏れる。ディーンの片膝ががくっと地面に落ちた。

(トラヴィスはイーサンと対峙してからずっと魔力を使いっぱなしなんだよ。それにディーンだって怪我が完全に治ったわけじゃ・・・)

かなりマズい状況である。

強大な闇魔術の渦はクリフ達をも巻き込んでいく。クリフが必死でパーシヴァルとミリアを守る様にシールドを張っているが、その輪がどんどん小さくなっていってた。

(クリフなんてさっきまで魔力切れで倒れてたんだ!。これ以上魔力を使ったら・・・)

黒フードは闇魔術の手を緩めない。シールドの中からミリアとパーシヴァルが攻撃をしたが、黒フードの闇魔術に飲み込まれてしまった。

唯一闇の魔術に対抗できるリリーは居ない。

(駄目だ・・・どうしよう!?。このままじゃ皆が・・・)


万事休す!


(どうして私は魔術が使えないんだろう!?。どうして魔力がゼロなんだろう!?。守られてばかりで、皆が傷だらけになっているのに何も出来ない。何の役にも立てない。何の助けにもならない・・・)

悔しさと申し訳なさで涙が滲む。

(・・・泣くな!)

トラヴィスとディーンの作ったシールドもどんどん小さくばっていく。私達は身を寄せながら闇の魔術に耐えたが、二人の表情にも疲労の色が濃い。

(ま、まるで、闇の魔術が皆の魔力を食べてるみたいだ・・・!)

「く・・・くそっ!」

トラヴィスが叫ぶ。シールドの輪は一段と小さくなり、なのに黒フードの攻撃は止まない。

(ど、どうする!?。うわぁ・・・か、考えろ!)

両手を広げて攻撃を続ける黒フードの後ろに、同じように手を広げたヘンルーカの像。

(ヘンルーカ・・・私の意識に現れた彼女。どうして私の前に現れた!?)


―――アリアナ嬢の精神はとても大きいのですよ!


突然ヘルダー伯爵の言った言葉を思い出した。

(精神が大きくたって魔力が無くっちゃ意味無いじゃん!)

だけどその時一つの考えが頭の中を走った。

(精神の小さいアリアナ・・・皆に魔力を貰ったら元気になった。魔力は精神の力になる?)

魔力が大きいものは精神が大きい。精神の力は魔力を強めるのだ。

(だけど私は魔力が無い。魔力を作る『脈』が無いから。でも・・・)


精神の力を皆を助ける為に使う事は出来ないか!?


確信は無かった。だけど私は私を守る様に背を向けるトラヴィスとディーンの肩に手を乗せた。そして、胸に穴の開いたヘンルーカの像を見上げる。

「お願い、聖女ヘンルーカ・・・力を貸して」

「きゃあ!」
「うわぁ!」

ミリアとパーシヴァルが悲鳴を上げた。クリフのシールドが破れ闇魔術が3人を襲う。

「駄目っ!。皆を傷つけたら許さない!」

私の中でドロリとした熱が動くのを感じた。

そしてその瞬間、私達を囲っていたトラヴィスとディーンのシールドが大きく膨張し、黒いフードの人物ごと闇の魔術を弾き飛ばしたのだ。
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