モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
上 下
235 / 284
第8章 悪役令嬢は知られたくない

25

しおりを挟む
イルクァーレの滝は2年前に来た時と変わらず、キラキラと太陽の光を反射しながら柔らかな流れを作っていた。

私達はその裏側に行ける岩棚で出来た通路を歩いて行く。

(うっ、そう言えばここで前にイーサンと会ったっけ・・・)

色々思い出して嫌な気分になってしまった。

いよいよ洞窟の入り口にたどり着き、クラークとレティシアを入り口に残して私達は中へと足を踏み入れた。

「・・・昼過ぎには戻るつもりだが、もし夕方までに戻らなかったら街の憲兵舎に連絡を頼む」

「承知しました。アリアナをお願いします」

クラークは最後まで心配そうに目線を送ってきたが、私は笑顔で手を振って洞窟の道を進んだ。

「意外と歩きやすい道だな」

先頭を歩くトラヴィスがそう言った。

「自然を損なわない程度に、途中までは少しだけ整備されてるのです。たまに観光客が来るので」

ランタンの灯りを頼りに私達は奥へと進んだ。最初は小さな通路位の大きさだった洞窟が、次第に広くなっていく。

それに従って壁や天井に水晶が混ざり始め、灯りを反射して輝き始めた。

そしてしばらくすると、私達は突然テニスコートぐらいの広さの場所に出た。

「わっ・・・」

そこは天井が高くドーム状になっていて沢山の大小様々な水晶で囲まれていた。

「凄い・・・まるで水晶の宮殿ですね」

リリーが感嘆の声を上げた。

「それこそ、地図には白水晶の間と書いてありましたよ。ここまでは一本道で来れるのですが、ここから先はいくつか道があって、しかも枝分かれしているのです」

見ると真っすぐ言った先の壁と、少し左側にも人が通れそうな穴が見える。だけど私は頭の中に地図とルートを思い浮かべながら、右の方を指さした。

「あの大きな水晶の後ろにもう一つ穴があるはず。紫水晶のある場所へ続く通路です」

はたして私の言った通り、隠されたように人が一人通れるくらいの穴があった。

「ここからは私の言う方向へ進んでください」

「分かった」

トラヴィスを先頭にして次にディーン私、リリー、パーシヴァル、ミリア、クリフの順に進んでいく。周囲の壁も天井もほとんど水晶で覆われていて、ランタンの光を反射し、または吸い込んでいく。

「次の分かれ道は左へ進んでください」

通路は進むごとに横並びで歩けるほど広くなったり、屈まなくては通れなくなるほど狭くなったり変化していく。小部屋程の場所に出たかと思うと、Uターンするように曲がっている。

「行き止まりだ」

トラヴィスはそう言ったが、私は頭の中の地図と照らし合わせて上を見上げた。

「少し登った所に通路があるはずです。そこから登れると思います」

水晶の岩が階段状に積み重なった所を指さした。登っていくと先へと続く、狭い上に天井の低い穴一つがあった。トラヴィスが顔をしかめる。

「・・・行くしか無いか」

腰を屈めて行くのでのろのろとしか進めない。特に背の高い男子達は大変だ。

だけど一番背の低い私は首を少しすくめる程度で済んだ。

(ちょっとラッキー)

そしてしばらく進むとトラヴィスが「むっ!」と声を上げた。

「明かりが見える・・・」

視線を上げると先の出口らしきところがぼんやりと紫色に明るく光っている。

(紫水晶!)

私達は先ほどの白水晶の間よりも大きく開けた場所に出た。そして最初に穴から降り立ったトラヴィスが驚きの声を上げた。

「おお!・・・これは見事だ」

順にその場所に到達し、私達もその光景に目を見張った。

天井から壁から地面に至るまで全て紫水晶で覆われている。しかも何処から入って来ているのか、その場所は外の光を受けて全てが紫色に輝いていた。

リリーとミリアは息を飲み、

「何という場所なのでしょう・・・」

「なんだか怖いくらいだわ」

そう言って紫の光が降って来る光を手の平で受け止めている。

いつも飄々としているパーシヴァルも

「これはこれは・・」

とあまりの光景に続く言葉が出ない様だ。

「恐らく水晶の結晶のどこかが外界に露出しているんだ。そこから光が入っているんだろう」

手のひらで光を遮りながらトラヴィスが上を見上げた。

「まさに紫水晶の洞窟ですね」

ディーンがそう言ってクリフと頷き合った。

「やはり闇の神殿の場所は、この洞窟から繋がっているのでしょう」

「・・・うむ、そうだな」

その言葉に私達の間に緊張感が増した。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...