モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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次の日の朝、夜中の騒ぎのせいで私達は少し寝坊した。

授業は無いとは言え大事な日だ、慌てて準備してテントを出たところ、何故か数名の男子生徒に囲まれた。

(な、何?)

昨日の事もあって、私は緊張に身をすくませた。

「何かご用かしら?」

ミリアが落ち着いた様子で彼らに対峙する。

しかし男子生徒達の言葉は私の予想の斜め上で、

「あのさ・・・今日は1日授業が無いだろ?。だから僕達と街にでも遊びに行かない?。美味しいタルトの店があるらしいよ」

(ナ・ナンパかよ・・・)

一気にがっくりと力が抜けた。

「あいにく私達、今日はアリアナの別荘に招かれてるの。だから街には行けないわ」

ミリアがそう返すと男子生徒の一人が、

「アリアナ嬢の別荘か!。良いねぇ、僕達もぜひ招待して欲しいな」

そう言ってぐいぐい私達に近づいてくる。思ったより押しが強い奴らのようだ。

(う、うっとうしいなぁ、もう!)

リリーはもちろん、ミリアもレティシアも美人で男子人気が高い。この機会にお近づきにと思うのは分かるけど、しつこいのは困る。

私はみんなを庇う様に前に出て、

「今日はトラヴィス殿下やパーシヴァル殿下達と生徒会の大事な会議がございますの。申し訳ございませんが、ご遠慮頂けますかしら?」

そう言ってにっこり笑うと、男子生徒達の頬がいっせいにポッと上気した。

(え!?何?)

戸惑ってると、誘ってきた男子が目をキョロキョロさせながら、

「ア、アリアナ嬢がそう言うなら仕方ないな。では、次の機会にはぜひ」

そう言って私達の所から離れていった。

(なんじゃい、あれは?)

気持ち悪く思っていたらミリアがくすくす笑った。

「あの方達、アリアナが笑ったからぼーっとした顔で見惚れてたわよ」

「は?」

「きっとアリアナ目当てでキャンプに参加した方達よ。馬鹿よね。アリアナにはディーンがいるのに。ねぇ今のうちに別荘に移動しましょ」

レティシアまでそんな事を言いつつ歩き出した。

私は意味が分からなくてぽかんとしてしまった。



私達が別荘のティールームに入ると、そこにはトラヴィスを始めとする男子の仲間が既に集まっていた。

「遅かったな」

「すみません。寝坊してしまいました」

私は素直に頭を下げた。

「あの・・・マーリンはあれから大丈夫だったのでしょうか?」

私がそう聞くとトラヴィスは苦笑いを浮かべた。

「あれからしばらく泣いていたけどね。同じテントの女子が付いていてくれるみたいだから、心配はいらないよ」

「そうですか」

少しホッとする。

(でも同じテントの女子ってマーリンと仲良かったんだっけ?)

そんな風に思っていると、まるで私の考えを読んだかのようにトラヴィスが、

「どうやら、昨日のアリアナの剣幕を見てマーリンを気の毒に思ったみたいだから、ちゃんと面倒見てくれそうだ」

「ぐっ、そ、そうですか・・・」

複雑な気持ちで、私は乾いた笑みを浮かべた。

トラヴィスは一つ咳払いをすると、

「そんな事より大事なのは今日の計画だ。今から滝の裏にあるという洞窟を調査に行く。他の学生たちは今日、馬車で街に出る予定だから邪魔される事は無いだろう。2日間キャンプしながら実戦授業だったから、みんな文明が恋しくなってる頃だからな」

「でもトラヴィス殿下。外を見てください」

ミリアの言葉にレースのカーテンの隙間から外を見ると、別荘の門の外に数人の生徒達の姿が見えた。こちらをちらちら伺っている。中には双眼鏡を使っている女生徒の姿もあった。

(攻略者狙いの女子達か・・・凄い執念)

きっと別荘から出て来るのを待っているのだ。トラヴィスは溜息をついて、

「準備が出来次第、裏口から出発しよう。夕方までには戻ってこなくてはいけないからな」

「そうですね。急ぎましょう!」

張り切ってそう言った私にトラヴィスは指を突き付けた。

「アリアナ、君は留守番だ」

当然だという口調だった。

「魔術の使えない君が来るのは危険だからな」

(ふうん・・・やっぱりね)

そう言われるだろうと予想はしていた。

「アリアナは屋敷に残れ。それに何かあった時の為に何人かは外に居た方が良いだろうから、クラークとレティシアは洞窟の外で待機して居て欲しい」

「トラヴィス殿下!」

着々と指示を出すトラヴィスの声を遮る様に私は声を上げた。

トラヴィスがジロリと私を睨む。

「何だ?。一緒に行きたいと言っても無理だぞ」

「洞窟内の案内はいりませんか?」

「何?」

「あの洞窟、結構広くて奥が深いですよ。地図も無しで行くのは危険だと思うのですが」

「・・・それで?」

トラヴィスは私の意図を測ろうとしているように目を細めた。

「洞窟の地図が実家の書斎にあったのを見た事があるんです」

私は自分の頭を指さして、

「頭の中に全部入ってます。最短距離で紫水晶の有る所に連れて行けますよ」

トラヴィスを見つめてニンマリと笑った。

彼の気持ちは分かる。私はこのメンバーの中じゃ最弱だ。何かあった時に足手まといになるのは目に見えているもんね。だけど・・・

(人に任せて隠れてるのは性に合わないのよ)

私の様子を見たクラークはオロオロしながら「アリアナそんな・・・やっぱり危険だよ」と私を引き留めようとする。だけど私はきっぱりと、

「大丈夫です。地図にあるとこまでしか、私は行きませんから」

そう言うと、トラヴィスは舌打ちをして苦々し気に私を睨みつける。

(おお、怖い怖い。でもねーさん、上品な皇太子が舌打ちなんかしちゃダメだよ)

そう思いながら見つめ返すと、彼は溜息をついて髪をガシガシとかき回した。

「・・・クラークとレティシアは洞窟の外で待機。それ以外のメンバーで洞窟を調査しよう。アリアナ、君は私達の真ん中を歩け!」

渋々だったが、私の同行を認めてくれた。

(よっしゃ!)

最近は体力も人並み程度にはなってきたから、洞窟を歩くぐらいなら大丈夫だぜ!

クリフがくっくっと笑いながら、悪戯っぽい目で私を見る。

「君、わざと実家から地図を取り寄せなかったんだろ?」

「さぁ、どうでしょう?」

私は明後日の方を向いて誤魔化した。
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