モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

第８章 悪役令嬢は知られたくない

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２週間後、私達はコールリッジ領にあるうちの別荘に来ていた。と言っても別荘に泊まるのは私だけで、他の仲間は湖のほとりでキャンプである。

（それにしても、よく考えたよね）


『魔術実戦授業野外キャンプ』


それがトラヴィスの出した案だった。

あの日執務室で彼は私達に説明をしてくれた。



「参加は３年生以上の自由参加。期間は移動込みで10日。参加者は休んだ授業も出席扱いとする。そして場所はコールリッジ領のイルクァーレの滝の近くだ」

「なるほど！。それなら夏休みを待たずに私達も洞窟の調査に行けますね！」

ミリアが目を輝かせた。

「3年生以上ならば殿下も参加できますし」

「ああ、ここにいる者は全員参加してくれ」

「ちょ、ちょっと待ってください！」

私は手を上げた。

「私に魔術実戦の授業は無理ですよ。魔術が使えないのに参加してたら不自然です」

だけどトラヴィスは平然と、

「アリアナはキャンプ場の提供者として参加してくれ。どうせ別荘があるんだろ？」

「あ・・・、はい」

「君の父上にも話を通しておく」

（おおお、どんどん話がまとまっていくよ）

何となくワクワクした雰囲気で計画が進んでいったが、

「ジョーとケイシー殿はどうしますか？」

ディーンの一言で現実に引き戻された様な気分になった。

「精神魔術のかかった状態で連れて行くのは危険なのでは？」

マリオット先生は隣国に行ったままあと1カ月は戻らないらしい。だから二人の解術が出来ないのだ。だけど、

「二人には留守番をして貰うしか無いだろうな」

トラヴィスはあっさりとそう言った。

「でも、二人ともこういう企画が大好きですわ。魔術の野外実戦だなんて聞いたら真っ先に参加しそうです」

心配そうに言うミリアにトラヴィスは、

「大丈夫だ。丁度良い催しがあるから」

そう言って片目をつぶった。



そして今、ジョーとケイシーは学園代表として皇国の馬術大会に出場している。

野外授業と日程が重なったのはもちろん偶然では無い。トラヴィスの奸計には正直舌を巻いた。

私は別荘のテラスで一人お茶を飲みながら、ジョーの事を思い出していた。馬術大会に推薦されたと喜ぶジョーに、精神魔術の影は全く感じられなかった。

（ほんとに魔術にかかってるんだろうか？）

そう疑うほど、屈託なく笑うジョーはいつもと変わらなかった。

微妙に後ろめたい気分でふと顔を上げると、湖に向かう道の方に数台の馬車が見えた。

「おっ来たね」

『魔術実戦授業野外キャンプ』の参加者たちである。

私はキャンプには参加しない（というより出来ない）。

なのでキャンプ場のオーナーとして、昨日のうちに自分の馬車でここに来ていた。もちろんクラークも一緒である。

（オーナー参加は結構ごり押しだったけどね・・・）

何せ10日間、授業を休むのだ。トラヴィスの一声が無かったら私はここには来れなかっただろう。

残念ながらグローシアには留守番して貰う事になった。というのもジョーとケイシーの見張りをゼロにするのは不安だったからである。

『アリアナ様の警護に就けないとは無念なり・・・』

と最後まで嫌がっていたが、渋々ながらも学園に残ってくれた。彼女も今、ジョーと一緒に馬術大会に出ているはずだ。



「そろそろ行こうか、アリアナ」

声をかけられて見上げるとクラークが横で笑いかけていた。

「はい」

私達はキャンプ場所の湖のほとりへと向かった。



「これは、クラーク君！アリアナさん！。今回は授業の場所を貸してくれてありがとう！」

魔術実技のレブナン先生はテンション高く私達を迎えてくれた。

「今まで、この授業は人気が無くて一度も出来てなかったんだよ。だけど今年は参加人数も多いし、良い場所も提供して貰えて最高だよ！。ありがとう！」

先生はクラークの手を両手で掴んでブンブンと振った。

「クラーク君は授業に参加するんだよね？。あっ、アリアナさんは自由に見学してくれて良いから。ただ、魔術の戦闘訓練の時は離れておいてね。危ないからさ」

そう言って飛び跳ねる勢いで生徒達の方に走って行った。

「・・・よっぽどこの授業、やりたかったんですね」

「ああ、これじゃ来年も場所を貸してくれって頼まれそうだな」

そんな事を話していると、

「アリアナ～！」

と呼ぶ声が聞こえた。見るとミリア達が手を振っていた。

「ミリー！、リリー！」

私は皆の二人の方へ走っていった。

「お疲れ様。遠かったでしょう？。これからテント設営？」

「ええ、テントなんて初めてだからで楽しみだわ」

馬車で一日かかる距離なのにミリアは元気一杯で、てきぱきと荷物を馬車から降ろしている。

リリーも、

「馬車ではずっと寝ていたから、そんなに疲れてないんです」

一緒に荷物を降ろし始めた。

「手伝いますね」

だけど馬車のドアを開けると、座席にはレティシアがぐったりと横になっていて驚かされた。

「レ、レティ！どうしたの？」

「ア、アリアナ・・・」

顔が真っ青である。

「レティは途中から馬車に酔ってしまって・・・」

リリーが心配そうに眉を下げたが、

「だから馬車の中で絵を描くのは、よした方が良いって言ったのに」

ミリアは少し呆れたように腰に手を当てた。

「レティ、風に当たった方が良いですよ。馬車から出ましょう」

レティを支えて降ろそうとしたが、

「・・・無理・・・動けない」

（あちゃ～・・・気の毒に）

仕方ないのでクラークを呼んで、レティシアを抱き上げて馬車から降ろして貰った。