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第8章 悪役令嬢は知られたくない
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「アリアナ様!アリアナ様!」
「・・・ん?」
眠っているところを揺すられて、私は急速に覚醒していく。
「こんな所でお休みになっていては風邪をひいてしまいますよ」
「え・・・?」
メイドのマリアの声。
目をこすりながら身体を起こすと本がバサッと床に落ちた。
私が寝ていたのはリビングの椅子で、しかもテーブルに突っ伏した状態だ。
眠い目を開けると、倒れたティーカップの紅茶がテーブルクロスに大きな染みを作っていた。
(・・・またか・・・)
私は額を押さえて頭を振った。何回目だと思ってるんだ!?
私はバンっとテーブルを叩きながら立ち上がって、
(いい加減、寝落ちする前にはベッドに入ろうよ!?)
心の中で思いっきりそう叫んだ。
エメライン王女の襲撃や、精神魔術で眠らされた事件から早10カ月。
その後は特に大きな出来事も無く、私はアンファエルン学園の3年生に進級した。
昨夜、机で寝たせいか身体が痛い。私はあくびを嚙み殺しながら教室に向かった。
(まったくもう・・・お嬢様はやっぱり我がままだよ)
アリアナとの意識を交換した時、私達はアリアナはもう表には出れないと思っていた。アリアナも私も、そして周りの皆だって、その事に大いに泣いた。
あれからしばらくは、私はアリアナの身体を奪っているという罪悪感と、アリアナの家族に対する遠慮を隠しながら日々を過ごしていた。
アリアナの分まで、何でも精一杯やろうと本気でそう思ったいた。
だけど、1カ月ぐらいたった時の事だった。私はある異変に気付いたのだ。
(あれ?こんなとこに置いたっけ?・・・)
部屋にある本や小物の置き場所が微妙に変化しているのだ。最初は気のせいかとも思ったのだが、あまりにも続くので少々気味が悪くなっていた。
(誰かが部屋に入ってる?。・・・いや、クラークはこんなことしないし、メイド達だって信用できる)
もしかして、またイーサンがやって来たのかとも考えたが、あいつが来て、ただ物の置き場所だけ変えて帰るなんて有り得ない。
変な気持ち悪さを感じながら過ごしていたある日の事、私は夜中に寒気を感じて目を覚ました。
(さむっ!布団は・・・?)
ベッドから蹴落としたか?と思い、起き上がって唖然とした。なぜなら、昨晩ベッドに寝たはずの私が、リビングのソファに横になっていたからだ。
「え、なんで?!」
灯りも煌々と点いていて、なぜか手に一冊の本。よく見るとそれは、世間で今大流行しているデロンデロンに甘い恋愛小説だった。
「げ!?何これ?」
すると、気配を感じたのかメイドのステラが起きてきた。
「アリアナ様・・・どうかされましたか?」
「ス、ステラ!私、なんでこんなとこで・・・」
するとステラの答えはもっと私を驚かせた。
「ああ、本を読みながら寝てしまわれたのですね?。アリアナ様ったらお風邪を召しますよ。・・・でも、どうでしたか?その本。面白いですよね?」
と目をキラキラさせる。
「え?」
「アリアナ様から貸して欲しいと言われた時は驚きましたけど・・・。そうですよね、アリアナ様もお年頃ですし」
(は?)
「続きも持っていますので、ご入用の時はいつでも仰ってくださいね」
うふふと笑いながら、ステラは私に上着を着せると寝室まで連れて行ってくれた。
私は一人ベッドに腰かけ、手に持ったままの本を凝視した。
題名は、
『終われない恋に巻き込まれて~あなたの全てを知りたい~』
表紙には手を取り合って見つめ合う男女の絵。
(・・・ありえない)
私はこんな本をステラから借りた覚えは無かった。そもそも私は昔から、実用書以外はミステリーしか読まないのだ。
(いったい何が・・・?)
この時点で私はまず、自分を疑った。
(も、もしかして、夢遊病?)
物の位置が変わっていたのも、寝ながら自分がやったのかもしれない。
(う・・・うそ・・・)
怖くなった私は朝になって直ぐに、クラークに相談した。
「ど、どうしましょう?。お医者さんに診て貰った方が良いでしょうか?」
焦る私にクラークは困った顔で頭を撫でながら、
「落ち着いて。アリアナは夢遊病なんかじゃ無いよ。・・・う~ん、やっぱり隠すのは無理だと思ったんだよね」
「はい?」
クラークは溜息をついてから申し訳なさそうに、
「ごめんね。もう一人のアリアナに口止めされてたんだけど・・・」
そう言って私に、天地がひっくり返るぐらいとんでもない話をしてくれた。
なんと、私が寝ている間に本物のアリアナが私の身体を動かしていたと言うのだ!?
「えええ!?。アリアナ、私と入れ替われるのですか!?」
「と言っても、君が寝ている時だけで、しかも毎日は無理なようだよ。それに、長くても一時間が限度みたいだ」
クラークも夜中、入れ替わったアリアナに起こされて最初は心底驚いたらしい。
「で、どうしてそれを、私に内緒にしなくてはいけないんです!?」
クラークは苦笑しながら、
「多分、恥ずかしかったんじゃないかな?。皆には二度と会えないって、あの時は言ってたからね。それに、あの子は君に気を使わせたくなかったんだと思うよ」
驚いたし、まだ混乱しているけど、徐々に嬉しさがこみあげてきた。
(アリアナ・・・。表に出れるんだね!?。良かった、本当に良かったよ・・・)
クラークも嬉しそうで・・・そんな彼を見ていると、じんわりと心が温かくなる。
(うん、こうなったら、いつでも私が寝てるときは自由にしてくれて良いからね。だってこの身体はアリアナのものなんだから)
その時は本気でそう思った。思っていたのだが・・・、
私は少し寝不足の頭で授業を受け、そして放課後いつものトラヴィスの執務室で、私はこれまたいつもの愚痴を聞いて貰っていた。
「・・・動き回るのは良いんですよ。元々はあの人の身体なんですし?。ただ、寝る時はちゃんとベッドで寝て欲しいんです・・・う・・・くしゃん!」
春とは言えまだ4月。布団も毛布も無しで椅子で寝ていた私は盛大にくしゃみして、ハンカチで鼻を拭いた。
「おかげで・・・前より丈夫になったはずなのに風邪気味です。あの人はもう少し自分の身体を大事にするべきです!」
執務室の大きな机の前で、トラヴィスは大笑いした。
「あっはっは・・・。あんたも大変ねぇ。まっ、アリアナ嬢としては少しでも動けるのが楽しくて仕方ないんじゃ無いの?。大目に見てあげないさいよ」
「十分見てますよ!。あの人が散らかした物も、私がちゃんと片付けてるんですから!。でも、もうちょっと寝落ちする場所を気を付けて欲しいだけで・・・」
私は大きなため息をついて、
(ねぇ!聞いてるんでしょ?アリアナ!)
心にそう語りかけた。
「・・・ん?」
眠っているところを揺すられて、私は急速に覚醒していく。
「こんな所でお休みになっていては風邪をひいてしまいますよ」
「え・・・?」
メイドのマリアの声。
目をこすりながら身体を起こすと本がバサッと床に落ちた。
私が寝ていたのはリビングの椅子で、しかもテーブルに突っ伏した状態だ。
眠い目を開けると、倒れたティーカップの紅茶がテーブルクロスに大きな染みを作っていた。
(・・・またか・・・)
私は額を押さえて頭を振った。何回目だと思ってるんだ!?
私はバンっとテーブルを叩きながら立ち上がって、
(いい加減、寝落ちする前にはベッドに入ろうよ!?)
心の中で思いっきりそう叫んだ。
エメライン王女の襲撃や、精神魔術で眠らされた事件から早10カ月。
その後は特に大きな出来事も無く、私はアンファエルン学園の3年生に進級した。
昨夜、机で寝たせいか身体が痛い。私はあくびを嚙み殺しながら教室に向かった。
(まったくもう・・・お嬢様はやっぱり我がままだよ)
アリアナとの意識を交換した時、私達はアリアナはもう表には出れないと思っていた。アリアナも私も、そして周りの皆だって、その事に大いに泣いた。
あれからしばらくは、私はアリアナの身体を奪っているという罪悪感と、アリアナの家族に対する遠慮を隠しながら日々を過ごしていた。
アリアナの分まで、何でも精一杯やろうと本気でそう思ったいた。
だけど、1カ月ぐらいたった時の事だった。私はある異変に気付いたのだ。
(あれ?こんなとこに置いたっけ?・・・)
部屋にある本や小物の置き場所が微妙に変化しているのだ。最初は気のせいかとも思ったのだが、あまりにも続くので少々気味が悪くなっていた。
(誰かが部屋に入ってる?。・・・いや、クラークはこんなことしないし、メイド達だって信用できる)
もしかして、またイーサンがやって来たのかとも考えたが、あいつが来て、ただ物の置き場所だけ変えて帰るなんて有り得ない。
変な気持ち悪さを感じながら過ごしていたある日の事、私は夜中に寒気を感じて目を覚ました。
(さむっ!布団は・・・?)
ベッドから蹴落としたか?と思い、起き上がって唖然とした。なぜなら、昨晩ベッドに寝たはずの私が、リビングのソファに横になっていたからだ。
「え、なんで?!」
灯りも煌々と点いていて、なぜか手に一冊の本。よく見るとそれは、世間で今大流行しているデロンデロンに甘い恋愛小説だった。
「げ!?何これ?」
すると、気配を感じたのかメイドのステラが起きてきた。
「アリアナ様・・・どうかされましたか?」
「ス、ステラ!私、なんでこんなとこで・・・」
するとステラの答えはもっと私を驚かせた。
「ああ、本を読みながら寝てしまわれたのですね?。アリアナ様ったらお風邪を召しますよ。・・・でも、どうでしたか?その本。面白いですよね?」
と目をキラキラさせる。
「え?」
「アリアナ様から貸して欲しいと言われた時は驚きましたけど・・・。そうですよね、アリアナ様もお年頃ですし」
(は?)
「続きも持っていますので、ご入用の時はいつでも仰ってくださいね」
うふふと笑いながら、ステラは私に上着を着せると寝室まで連れて行ってくれた。
私は一人ベッドに腰かけ、手に持ったままの本を凝視した。
題名は、
『終われない恋に巻き込まれて~あなたの全てを知りたい~』
表紙には手を取り合って見つめ合う男女の絵。
(・・・ありえない)
私はこんな本をステラから借りた覚えは無かった。そもそも私は昔から、実用書以外はミステリーしか読まないのだ。
(いったい何が・・・?)
この時点で私はまず、自分を疑った。
(も、もしかして、夢遊病?)
物の位置が変わっていたのも、寝ながら自分がやったのかもしれない。
(う・・・うそ・・・)
怖くなった私は朝になって直ぐに、クラークに相談した。
「ど、どうしましょう?。お医者さんに診て貰った方が良いでしょうか?」
焦る私にクラークは困った顔で頭を撫でながら、
「落ち着いて。アリアナは夢遊病なんかじゃ無いよ。・・・う~ん、やっぱり隠すのは無理だと思ったんだよね」
「はい?」
クラークは溜息をついてから申し訳なさそうに、
「ごめんね。もう一人のアリアナに口止めされてたんだけど・・・」
そう言って私に、天地がひっくり返るぐらいとんでもない話をしてくれた。
なんと、私が寝ている間に本物のアリアナが私の身体を動かしていたと言うのだ!?
「えええ!?。アリアナ、私と入れ替われるのですか!?」
「と言っても、君が寝ている時だけで、しかも毎日は無理なようだよ。それに、長くても一時間が限度みたいだ」
クラークも夜中、入れ替わったアリアナに起こされて最初は心底驚いたらしい。
「で、どうしてそれを、私に内緒にしなくてはいけないんです!?」
クラークは苦笑しながら、
「多分、恥ずかしかったんじゃないかな?。皆には二度と会えないって、あの時は言ってたからね。それに、あの子は君に気を使わせたくなかったんだと思うよ」
驚いたし、まだ混乱しているけど、徐々に嬉しさがこみあげてきた。
(アリアナ・・・。表に出れるんだね!?。良かった、本当に良かったよ・・・)
クラークも嬉しそうで・・・そんな彼を見ていると、じんわりと心が温かくなる。
(うん、こうなったら、いつでも私が寝てるときは自由にしてくれて良いからね。だってこの身体はアリアナのものなんだから)
その時は本気でそう思った。思っていたのだが・・・、
私は少し寝不足の頭で授業を受け、そして放課後いつものトラヴィスの執務室で、私はこれまたいつもの愚痴を聞いて貰っていた。
「・・・動き回るのは良いんですよ。元々はあの人の身体なんですし?。ただ、寝る時はちゃんとベッドで寝て欲しいんです・・・う・・・くしゃん!」
春とは言えまだ4月。布団も毛布も無しで椅子で寝ていた私は盛大にくしゃみして、ハンカチで鼻を拭いた。
「おかげで・・・前より丈夫になったはずなのに風邪気味です。あの人はもう少し自分の身体を大事にするべきです!」
執務室の大きな机の前で、トラヴィスは大笑いした。
「あっはっは・・・。あんたも大変ねぇ。まっ、アリアナ嬢としては少しでも動けるのが楽しくて仕方ないんじゃ無いの?。大目に見てあげないさいよ」
「十分見てますよ!。あの人が散らかした物も、私がちゃんと片付けてるんですから!。でも、もうちょっと寝落ちする場所を気を付けて欲しいだけで・・・」
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